第38話 勢いは大事
朝、リウとエリックは食堂の指定席でぼーっとして朝食を取っていた。
ネオンが口の周りを果汁で汚さないよう、気を付けてイチゴを齧っている。
羽毛が生えてから、ネオンは食欲が落ち着いてきた。
以前は視界に入った食べ物全てを食べたがるほどに目の前のものを食い尽くしていたが、今は皿に乗せられた食事だけで満足なようだ。
隣に座ってきた生徒が、ドン! と、わざと大きな音を立てるようにしてテーブルにトレーを置いたので、リウは思わずそちらを見た。
食堂の中はいくらでも席が空いているのに、わざわざこの席に誰が?と思い生徒の顔を見ると、VJだった。
「ちょっと、見てほしいんやけど! 」
VJは興奮しているようで、挨拶もなしにリウ達に話しかけた。
「おはようVJ」とリウ達が挨拶をすると、VJはしまったという顔をして慌てて挨拶を返した。
「これ、昨日寮に帰ってから考えたんやけど、どないやろ? 」
VJが自分の鞄から数枚の紙を取り出してテーブルの上に置いたので、リウは食べかけの朝食が乗ったままのトレーを脇に避け、紙を手に取った。
エリックが頭を寄せて一緒に紙を覗き込んできた。
紙にはカラーペンで花火の形や色など、花火の設計図のようなものが細かく書き込まれている。
以前の練習の時にVJが出したような、ハート型や動物型のものもあった。
「すごいよVJ、一晩でこんなに考えたんだ」
「昨日のテスト、ええ感じやったから。その勢いで考えたんよ」
VJは恥ずかしそうにしながらも、得意げな顔だった。
紙に書かれているうちの一つの設計図が目に留まった。
黄色と黒っぽい色の光が交互に広がるタイプの花火で、蜂の腹のような模様だ。
「私、これやりたいなあ。蜂みたい」
エリックが見せて、というので紙を手渡した。
「そう、それ蜂の黄色と黒のシマシマから考えたんよ。わかった? 」
紙を見たエリックが関心したようにふうん、と言った。
「いいんじゃない、これ見たらアズサ喜ぶんじゃない。
本番、アズサが見れるかどうかわからないけど」
「えっ、アズサ、花火見れないの?」
「風紀委員だからね。当日は他の仕事してて見れないかも」
「その子が見れるまで何度でも上げればええやん」
「そうだよね」と言いつつ、リウは引っかかることがあった。
去年の演出の雪は、雪雲を発生させて固定すればそのまま開催時間いっぱい消えないようにすれば良かっただけだが、今年はどうだ。
花火を夏至祭の間、絶え間なく打ち上げ続けるのはリウには、いや、VJにも不可能だろう。
ヒューゴがその点もフィジカルで解決しようとしているのなら、かなり無理がある。
まさかね、と思っているうちにヒューゴとイジーがリウ達の後ろの席に座った。
ネオンがイジーが座る前に腰に飛びついていったので、イジーは危うくネオンを尻に敷いてしまうところだった。
リウは思いっきり体を捻り、ヒューゴを呼んだ。
「ねえヒューゴ、ちょっと質問があるんだけど」
「どうした」
「そう。花火ってさ、夏至祭の間中ずっと上げてるわけじゃないよね?」
「まさか。お前らそんなことできないだろ」
ヒューゴの返答にほっとして、質問を続けた。
「じゃあどうやって夏至祭の間、ずっと花火を上げ続けるの?」
「心配すんな、ちゃんと考えてあるから」
手をひらひら振って、ヒューゴが朝食を食べ始めたのでリウは捻った体を元に戻した。
ヒューゴたちよりも先に朝食を食べ終え、イジー前に居座るネオンを回収して食堂を出た。
教室へ向かうため、本校舎の廊下を歩きながら、リウはヒューゴの言った“ちゃんと考えてある”という言葉を反芻する。
「大丈夫なのかな」
「大丈夫、ミラーボールを用意するって言ってたから」
ミラーボール、と聞いてリウは天井からぶら下がって、光を反射するあの球を思い浮かべた。
「リウ、思い浮かべてるのとは違うミラーボールやと思うよ」
「えっ、そうなの? 」
「リウ、あんまり授業聞いてないよね。
ミラーボールは魔法を記録して、コピーして出力する魔法の道具のこと」
呆れたエリックがため息をつき、VJは苦笑いしている。
エリックが言うとおり、リウは授業をあまり聞いていないし、教科書を読まない。
さらに、特別演出のことに気を取られていて復習もしていない。
コソコソと自室で勉強をして中間試験への準備をしていたエリックは、リウの中間試験の結果が心配になった。
「すごく高い道具だけど、どうやって用意したんだろう」
「学校から借りたんやないの? 」
「学校にあるのかな」
「ここ、一応魔法学校やからね。作れる先生とかいるんちゃう?」
「魔法道具技師の資格持ってる先生っていたかな」
魔法の道具を作るにも、魔法の薬品を作るのと同様に資格が必要だ。
もちろん、この学校の生徒の中に資格もなしに道具を作ったり薬品を調合したりする者もいる。
実はヒューゴの得意なDIYはその一環でもあるのだが、その事実はリウは知らなかったし、兄弟であるエリックやマックスですら知らなかった。
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