第37話 ネオンはギャルを知らない
リウとエリックが寮のラウンジに帰ると、他の生徒たちが座っているテーブルにネオンがいた。
ネオンはリウを見るとすぐにふわふわと近寄ってきた。
翼も無いのに浮いてるのは、どういう仕組みなんだろうと思ったが、魔法か……とリウはすぐに考えるのをやめた。
ネオンは近寄ってきて、そのままリウの肩に乗った。
肩にずっしりとした重みを感じ、ふわふわした羽毛が頬に当たった。
リウは一日遊び回っていたネオンを咎めた。
「ちょっと、一人で動けるようになったからってフラフラどこかに行かないでよ。カナコさんのところにいたんだって? 」
「うん。カナコと授業受けて、ご飯食べたよ」
ネオンは悪いことをしているつもりは全く無い。
自由に動けるようになったのだから、自由に動いて何が悪いという態度だった。
「迷惑かけちゃだめだよ」
「カナコは迷惑だなんて言ってない」
「そりゃ言わないだろうけどさ」
リウとネオンが小競り合いを始めたので、見かねたエリックが口を挟んだ。
「リウはネオンがいなかったから寂しかったんだよ。
一緒にいてあげなよ」
ネオンは「そうなのか?」と得意げな目をして鼻を鳴らした。
「でも」と続け、エリックを上目遣いでじっと見た。
「リウはエリックがいるから寂しくなんてない」
エリックは、ネオンがどことなくいじらしく見えてリウの肩から抱き上げた。
「僕じゃなくてネオンがいないと」
子供に高い高いをするように、エリックはネオンを高く上げる。
末っ子のくせにこういう時は長男っぽい振る舞いをするんだな、とエリックの振る舞いを見ていた。
エリックに優しく諭されたネオンは理解したのかしなかったのか、エリックの手を抜け出てリウの肩に戻ってきて素直に謝った。
「そっか、リウ、ごめんな。
リウが寂しくないようにちゃんと一緒にいる」
頭をごつんとリウの頬に擦り寄せた。
こすられた羽毛が逆立って頬に刺さる。
「そうそう、一緒にいてね」
上手く丸め込んだエリックに感謝の目線を送ると、エリックは誇らしげな顔をした。
リウはネオンを連れて自室に戻った。
「リウはきょう何してたの?」
「授業が終わったあとに、夏至祭のことをしてたんだよ。
ほら、魔法で花火やることになったの聞いてたでしょ」
「はなび、おれたのしみ。おうえんする」
「うん、楽しみにしてて。
あれ、そのネックレス、ずっとネオンが持ってたんだ」
ネオンを撫で回していると、首のあたりに硬い感触がする。
首の羽毛を掻き分けてみると、首輪のようにペンダントを巻き付けていた。
「これあると、俺元気になるきがする」
細い革紐のまま首に巻き付けているのは危ないかもしれないと、リウは一度ネオンからペンダントを外した。
革紐からペンダントトップを外し、たまたま持っていた紺色のリボンに通してネオンの首に結び直した。
「これでよし」
リボンを結んでもらったネオンは洗面台の鏡の前まで飛んでいって、自分の姿を見た。
ネオンは色んな角度から鏡に映る自分を眺めまわしている。
気に入ったらしく、満足したような顔でリウの前に戻ってきた。
「そういえば、ネオンはまだVJとウナちゃんとは会ってないよね。
あした、会えたら紹介するよ」
「新しいともだち?」
「そうだよ。有志チームの新しいメンバー。
VJはオシャレな男の子で、ウナちゃんはギャル」
ギャルという言葉に聞き覚えがないネオンは首を傾げた。
「ぎゃるってなに?」
「明るくてノリが良い女子のこと」
「イジーの女の子版ってこと?」
そういえばイジーも明るくてノリが良いな、と思い出す。
イジーが女子だったらウーナのような感じなのだろうか。
短いスカートにルーズソックスを履いたイジーを想像して、そう悪くないとリウは考えた。
イジーがギャルなら、ヒューゴは不良少女といったところだろうか。
長いスカートに刺繍の入った特攻服を羽織ったヒューゴを想像した。
一昔前の不良少女を思い浮かべたのは、完全にリウの偏見だった。
色々想像したところで、本人たちに悪いと思い返し、頭の中の二人の想像を慌てて消した。
少し間があいて、ネオンに適当に返事をする。
「そうそう、そんな感じかも」
「あうのたのしみー」
リウはカワセミ寮の上級生二人に少し罪悪感を覚えながら、ワクワクしているネオンを撫で回した。
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