第36話 代表生徒とのテスト

 リウとエリックがグラウンドに着くと、もう他の生徒たちは揃っていた。


「すいません、お待たせしました」


ヒューゴが代表して謝ったが、ヤマセミ寮の代表生徒の女子生徒はにこやかに時間通りですよと言い、「それでは、有志チームの実技テストを始めましょうか」と肩に掛けた鞄からバインダーを取り出した。


打ち上げ係ののヒューゴ・リウ・VJと、安全対策係のイジー、エリック、ウーナが向かい合う。


代表生徒たち三人は横に立って有志チームとウーナを見ている。


打ち上げ係が撃った魔法の花火を、安全対策係が打ち消すのを代表生徒たちが見て判断するらしい。


二組の真ん中より、安全対策係の方に近い位置に線が引かれた。


安全対策係は、なるべくこの線を出ないようにして撃ち出された魔法を消せということらしい。



 リウは対面に立っている三人の顔を見た。


口を固く結んだエリック、笑みを浮かべているイジー、自信満々のウーナ。


三者三様、しかしリウのように不安の色は見えなかった。


正面にいるエリックと目を合わせると、大丈夫というように頷いた。



「始めてください」


 ヤマセミ寮の代表生徒が声をかけると、ヒューゴが「いくぞ」と声をかけた。


ヒューゴが片手を伸ばすと、景気良く大きな花火が撃ち出された。


イジーがヒューゴと同じように片手を伸ばし、打ち消す。


VJが両手を前に出し、内側から白から青にグラデーションのように色づいていく魔法の花火を前方に撃った。


VJの正面のウーナがウインクして指を鳴らすと、VJの花火はキラキラと散るように消えていく。


リウは意を決し、人差し指を立てて腕を振り上げた。


リウが撃ち出した魔法の花火は光の尾を引いて、高く上がって弾けた。


エリックが腕を振り下ろしながら手を握り込み、間に引かれた線ギリギリでそれを消した。


リウの花火を消したエリックが口角を上げて見せた。



 撃っては消してを何度か繰り返していると、代表生徒の誰かの制止の声が耳に入った。


リウは息を切らし、魔法を撃つのをやめた。


エリックもVJも同じように息を切らしていたが、ヒューゴは額に少し汗こそかいていたが、平然とした顔で立っていた。


さすがフィジカル系、と茶化す余裕もなくリウはその場に座り込んだ。


ヤマセミ寮の代表生徒は開始前よりニコニコしながら、バインダーに何かを書き込み「本番まで頑張って準備してください」と優しく言った。


カワセミ寮代表の男子生徒も笑いながら手を叩いていて、カラス寮代表のマックスも満足そうな顔をしている。


「良かった良かった、本番までには仕上がりそうだな」


カワセミ寮代表生がそう言って、ヒューゴにおつかれと声をかけた。


「まだ粗い所もあるが、悪くない。

準備期間は長くないが、何とかなるだろう」


マックスがそう言うと、ヒューゴが心なしかホッとしたような表情をした。


ヒューゴとイジーが代表生徒たちと話しているのを、リウは座り込んだまま眺めていた。



「リウ、おつかれ」


 エリックが近付いてきてリウに向かって手を差し出してきたので、その手を取って立ち上がった。


「ちゃんとできたかな」


「ちゃんとできてたよ」


握ったエリックの手は少し汗ばんでいた。


ウーナとVJもリウに駆け寄ってきた。


「リウちゃん、いいよいいよ〜、その調子〜」


ウーナがリウの肩をポンポンと叩いて労い、両手を出してきたのでハイタッチを交わす。


「僕、大丈夫やったかな」


「VJも良かったよ〜」


両手でサムズアップをするウーナは汗ひとつかいていない。


「僕、リウを見るので精一杯で他の人の様子見れなかったよ。

ウナ、良く周りが見れたね」


エリックがポケットから出したハンカチで額の汗を拭いながら言った。


「ウナちゃんはチームマネージャーだからね、みんなのことちゃんと見ないとだからさ〜」



 代表生徒達と話が終わってヒューゴとイジーが戻ってきた。


代表生徒達はこれで用が済んだらしく、すでに本校舎の方に歩き出していた。


「みんな、お疲れ。ひとまずは好感触だ」


ヒューゴが拳で汗を拭って、大きく息をついた。


「代表生、何て言ってた?」


「安全対策係の方は問題ないってさ。

打ち上げ係は問題ないけど、花火の種類をもっと増やせってさ」


ヒューゴの返答を聞いて、リウ達下級生三人は良かったと胸を撫で下ろした。


「そこらへんが今後の課題だな。

集まれる時に集まって練習、集まれない時は自主練でもしてくれ」


ヒューゴがVJの方に振り向き、付け足した。


「VJ、球体以外の花火の形の考案を頼む。

俺も考えるけど……“そういうの苦手”だから」


根に持ってんな、とイジーが笑い飛ばした。


「任せて、僕こういうの得意やから」


VJにも笑われて、ヒューゴは少し頬を赤くした。

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