第35話 コントロール下手
昼食後、リウ達四人は食堂棟の横の裏庭で放課後のテストの練習をした。
一学年上のVJの魔法を操る技術はさすがだった。
「魔法で花火なんて初めてや」と言いながらも、綺麗な球体の花火を打ち出していた。
VJは人目を惹いてしまわないよう考慮して、小さく打ち上げた。
VJの
普通の花火は金属の炎色反応を考えて細かく火薬を配置する必要があるが、魔法を使った花火も同じく、立体的な構造を考えて出力する必要がある。
つまり、少し頭を使う必要がある。
いびつな球体で単色の花火しか出せず、それも大きいサイズでしか出せない。
他の生徒から見えてしまう大きな花火を出してしまうたびに、エリックやウーナが魔法で打ち消していた。
「本番はもっと大きいの出さなきゃだし、だいじょぶだいじょぶ〜」
そう言ってウーナが指を鳴らし、リウが出した花火を打ち消した。
VJの魔法もリウ達より腕前が上だったが、ウーナの方がさらに上だった。
エリックだと打ち消す魔法を使うまで多少のラグがあるが、ウーナは指を鳴らすな否や魔法が発動する。
そろそろ移動しないと午後の授業に間に合わないとエリックが気付くまで、夢中になって練習していた。
本校舎に歩きながら、練習した感触を忘れないように四人は口々に言い合った。
リウはウーナの魔法の技術に素直に感心していた。
「ウナちゃんすごいね、どうしたら魔法上手くなるの?」
「魔法ってのは、まずはちゃんとイメージして、次に信じる」
「信じる? 」
「そうそう、自分を信じて〜、自分の魔法を信じる。
リウちゃんはもっと信じていいと思うよ〜。自信もってさ」
リウは自信がないというわけではなかったが、心の隅で魔法をどこか胡散臭い力のように思っていた。
それをウーナに見抜かれたような気がして、反省した。
「VJもそうだったから。ちゃんと魔法を信じて」
ウーナはリウに向かって思いっきりサムズアップをすると、「じゃ、あたしこっちだから」と言って別の方向に歩いていってしまった。
リウはエリックと並んで授業を受けながら、先ほどの練習のことを思い出した。
VJは魔法を上手にコントロールして形や色を上手く作っていたし、エリックもウーナよりは時間がかかるが打ち消す魔法をちゃんと使える。
単純なものしか作り出せない自分の魔法を情けなく感じた。
エリックは珍しく凹んだ表情のリウを、横目でちらりと見て、すぐに黒板に目を移した。
リウが思ったより魔法がコントロールできなかったこと、ウーナに言われたことを心の中で反芻しているということをエリックは察していた。
リウのために放課後のテストまでにかけるべき言葉を探した。
励ますにも慰めるにも、下手な言葉をかけてしまったら逆効果だと思った。
二人がそれぞれ心の中で迷っているうちに授業は終わった。
黙って教科書を片付け、次の授業の教室に移動すると、アズサが話しかけてきた。
「リウ、ネオンちゃんすごく変わったね。
特別生の人と一緒にいるのを見たんだけど、もこもこですっごくカワイイ」
ネオンに触った時の感触を思い出すように、アズサが手を動かしている。
カナコは、リウたちと仲良くなった特別生徒だ。
特別生徒として学校に入学した大人で、カラス寮所属ということになっている。
以前、マックスがカナコと顔合わせをしようとした時、ヒューゴがマックスの制服を汚した。
その着替える間の時間稼ぎとして、リウとエリックがカナコの話し相手になっていたのだ。
「ああ、やっぱりカナコさんと一緒にいるんだ。
通りで帰ってこないわけだよ。カナコさんに甘やかされてるんだろうな」
「カナコさん優しいから、甘えられたら断れないんだよ。
それに、今のネオン可愛いし」
苦手な両生類の見た目から遠ざかって嬉しいんだろうな、とリウは思った。
「もしまた見たら、私の所に戻ってくるよう言ってくれる?」
「リウが寂しがってるって伝えておくね」
「そうそう、すごーく寂しいって言っといて」
アズサが笑いながら、元いた前の方の席に戻っていった。
教師が入ってきて、授業が始まった。
この授業が終わればきょうの授業は全て終わりだ。
終わったら放課後、テストの時間になる。
軽く考えていたが、リウはこれで大丈夫だろうかという気持ちでいっぱいになってきた。
焦れば焦るほど不安になる。
心から不安を追い出すように、リウは授業に没頭してノートを取った。
授業が終わり、鞄を持ったまま二人はグラウンドへ向かった。
エリックが隣を歩いているリウの不安そうな顔を見て、口を開きかけて閉じた。
エリックは言葉をかける代わりに、リウの肩を力強く叩いた。
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