第34話 張り切っちゃお〜

 リウとエリックが午前中の授業を終えて廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。


振り向くと、VJが立っていた。


いつも通りの黒ずくめだったが、暑いのかパーカーは着ておらず、黒い半袖のYシャツを着ていた。


「同じ授業取ってたんやね。二人並んで座っとるのを後ろから見てた」


「なんだ、声かけてくれれば良かったのに」


「僕、ギリギリに教室着いたから。

お昼、僕も一緒に行っていい?」


「行こうよ。いいよね、エリック」


リウは返事を待たずに歩き出し、エリックも返事をする前に歩き出した。


二人の後ろをVJが付いていく。


「同じチームなんだから、一緒に行って当然だろ」


そう言ってエリックは少し歩みを遅めて、VJを間に挟んで三人で並んで歩き出した。


VJは嬉しそうに二人と一緒に歩き、食堂に向かった。


「ウナちゃんは?」


「ウナは僕と授業が被ってないんよ。

休講の時とか、ご飯の時はだいたい一緒なんやけど」


「へー、やっぱウナちゃんって謎だね」


「そうなんよ。でも、悪いやつじゃないよ」


「そうだろうね。ギャルだし」


「ギャルに悪い人はいないよね」


エリックの言葉に、リウがうんうんと頷いているのでVJが笑った。



 食堂に着き、いつもの指定席に二人が行こうとすると、他のテーブル席で二人に大きく手を振っている女子生徒ギャルがいる。


「おーい! リウちゃん達〜、こっちこっち〜! 」


ウーナだった。


すでに食事を済ませていたのか、ウーナの目の前には飲み物しかなかった。


カウンターで食事の乗ったトレーをそれぞれ受け取り、ウーナのいるテーブルに座る。


「待ってたよ〜。ごめんね、先食べちゃって」


「待ってたの? よく私たちと一緒に来るってわかったね」


「ウーナちゃんは何でもお見通しだかんね」


「それよりウナ、ちゃんと授業受けとんの?

教室におるの一度も見たことないけど」


VJがワンプレートランチに添えられたサラダに塩をかけながら聞くと、

ウーナは人差し指を左右に振りながら答えた。


「ウナちゃんはちゃんとおべんきょしてるよ〜。

みんなとはちょっと授業が被ってないだけ〜」


「ならいいけど」



 エリックが何かを探すように周りをキョロキョロとみた。


「お昼の時間なのにネオンを連れに行かなくて良かったの?」


「ネオンは飛べるようになって、一人でどっか行っちゃったよ。

学校の外には出ないようにって言っておいたから大丈夫だと思うけど」


 

 謎のペンダントの影響で羽毛が生え、ついでに浮けるようになった謎のトカゲのネオンは、

浮遊することで一人で移動できるようになり、その自由さに感激したらしい。


朝、リウと一緒に食堂に行って以降、ちょっと散歩してくると行ってどこかに行ってしまった。


食堂の人たちもネオンを見慣れているので、一人で食堂に来て勝手に食事をすることもできるだろう。


リウの肩に乗って移動している時でも、たまに他の生徒のおやつをねだってはもらっていたので、他の生徒たちとも認識があった。


特にネオンを甘やかしてくれたのは日本から来ていた特別生の女性だったので、彼女と一緒に食堂に来ていた可能性もある。


こういう時に自分もネオンもスマホを持っていたら便利なのにな、とリウは思った。


すぐに連絡が取りたい時があっても、学校内では魔法でどうにかするしか方法がない。


学校には電子機器や、その他一切の現代の便利なモノは持ち込めない。

持ち込んだとしても機能しなくなるような魔法がかけられていた。



「きょうの消火魔法のテスト、ウーナちゃんに任せといてよ。

あたし、座学より実技の方が得意だから」


 サムズアップで誇らしげにウーナは言った。


「こういうの初めてやから、どんな感じなんやろうね。

あ、でも二人も初めてか」


「そうだね。僕らの特別演出は、これが最初で最後」


特別演出の有志として参加できるのは、在学中に一度のみと決められている。


毎年違う生徒に機会を与え、多様な演出を考案してほしいという代表生徒たちの配慮である。


「どんなテストでも頑張るしかないよね」


リウは楽天的に言った。


そうやね、とVJもあまり緊張してない様子で相槌を打った。


「リウ、しっかりやらないとクエン……に手伝ってもらわなきゃいけなくなるよ」


エリックは人間に化けて学校に出稼ぎに来ている、水辺の隣人ゲローダ・メ・マギのクエンティンことの正体がバレることを懸念していた。


リウは、クエンティンが食い扶持を失うようなことはわざわざしないだろうと思っていた。


それに、クエンティンの正体がバレたとしても、この学校が水辺の隣人ゲローダ・メ・マギのような希少生物を追い出すはずがないとも思っていた。


教員の募集要項に、教員は人間のみと書いてあるのなら話は別だが。


VJがベラ先生という名前に反応した。


「ベラ先生って生物学の助手の新しい先生のこと?」


「そうそう、もし私たちがダメダメだったら、が手伝うって言ってくれてるんだって」


「ええやん、ベラ先生。僕は好き。

スーツのセンスが良い」


VJもクエンティンに悪い印象はないらしい。


正体を知ったらVJはどんな顔するんだろうな、とリウは思った。


ただ一人、ウーナだけが不快そうな顔をしていた。


「あたし、あの先生苦手かも〜。ちょっと裏の顔ありそうじゃない? 」


意外と鋭いな、さすがギャルとリウは心の中で呟き、右隣にいるエリックの顔を伺うと、エリックもリウと同じ顔をしていた。


「ウナ、そういうこと言わへんの。

でも、ベラ先生の助けを借りずに僕らだけでできるのが一番やね。

やっぱちゃんと頑張ろ、リウ」


「だね。後でちょっと練習しようかな。

エリック、ちょっと付き合ってよ」


「もちろん」


「なら僕も付き合う。ウナも来るやろ?」


「いくいく〜。仲間外れなんてやだし〜。

ベラ先生のお役目をなくすために張り切っちゃお〜⭐︎」

 

そこまで好きじゃないのか、意外だな、とリウはウーナを見た。

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