第32話 カワイイマネージャー
「それで、ウナちゃんはどうするの?」
リウは話がひと段落したと判断し、先ほどから有志チームのメンバーではないのにミーティングに参加している
他のメンバーも――VJを除く――気になっていたらしく、一斉にウーナを見た。
まだ教壇に立っていたウーナはえへん、と胸を張って四人の視線を受け止めた。
胸を張ったことで胸の大きさが強調され、エリックだけが思わず目をそらした。
「ウーナがマネージャーやったげるよ。
チームメンバーにはならなくて良いけど、皆のお手伝いはしたいし」
今まで聞いたことのないポストにヒューゴは首を傾げた。
「それってほとんどメンバーだよね? 」とエリックが小さな声でリウに聞いてきたので、リウも頷いた。
その言葉を耳ざとく聞きつけたウーナは、エリックをビシッと指差して言った。
「違うし! ウナちゃんはこのチームのカワイイマネージャーだから!」
ウーナの人差し指の先で、エリックはお手上げのポーズをした。
イジーがそんなエリックを見て笑い、ヒューゴは表情だけで「お手上げ」という気持ちを露わにしている。
VJを連れてきたのは実質ウーナなのだから、ウーナにも手伝わせるべきだとエリックが主張し、その意見にVJも便乗した。
「雑用でも何でもするし、ウナを手伝わせてやってほしい」
一学年下で同じ寮のVJのことは、ヒューゴもイジーも知っていた。
話したことはなかったが、大人しい生徒で、いつも一人でいた。
今年に入ってから寮内であまり姿を見かけいなかったが、もともと目立たない生徒なので気に留めなかった。
VJの姿を見なかったのは、ヒューゴがリウ達のためにDIYに勤しんでいたことや、クラブ活動であまりラウンジに顔を出さなかったという理由もあった。
とにかくVJとは接点がなかったが、見知らぬ
しかも、ウーナという
それどころか、学内や食堂でも一度も見たことがなかった。
短いスカートにルーズソックスという、日本の
リウのような編入生だとしても、代表生徒から寮生に紹介くらいはされるはず。
そんな正体不明の
ヒューゴは有志チームのリーダーとして、そして兄の期待に応えて企画を成功させるために、ウーナを“チームマネージャー”にするか判断に困った。
VJがチームに入るのを許したのは、いつも大人しいVJが代表生徒の揃った打ち合わせに乗り込んでまで頼みにきた度胸を買ったからだ。
その後押しをしたのがウーナというのは先ほどまでの話で明らかで、VJに度胸をつけさせた手腕を評価するべきだろう。
ヒューゴの返答に時間がかかりそうだなと思ったりうは、はーい、とウーナに向かって挙手をした。
教壇に立つウーナは教師のようにリウを指した。
「リウちゃん、どうぞ〜」
「ねえねえ、ウナちゃんって何年生?」
「あ、それ僕も気になってた。ウナ、何年生なん?
そもそも寮で会ったことあったっけ? 本当にカワセミ寮生なん? 」
「えっ、VJ、何で知らないの? 」
友達なんでしょ、とリウは驚いたが、リウもひと月の間課題を手伝ってもらっていたエリックが風紀委員であることを知らずにいた実績がある。
「僕が知らないだけで、みんなは知ってると思ってた」
「あー、私、今年編入してきたから」
「ええ、もしかして君が庭園にゴンドラごと落ちてきた生徒だったん? 」
「それも知らなかったんだ。リウは有名人だよ」
「だってVJだもんね。知らなくてもしょうがないよ〜」
「ウナ、それどういう意味や」
VJが話を逸らしたのを良いことに、ウーナの学年について、そして本当にカワセミ寮生なのかという話題は流れた。
リウたちが雑談を始めた横で、ヒューゴはイジーにコソッと聞いた。
「VJはともかく、誰も知らない奴を特別演出の企画に関わらせて大丈夫だと思うか?」
「心配だけど、俺はウナちゃんは悪い奴じゃないと思うな。
だってVJ連れてきたんだぜ。すごくね? 」
イジーがちらっとVJの方を見て言った。
ヒューゴの意見も全く同じだった。
ならば、答えは決まったようなものだろう。
「おーい、決まったぞ」
イジーがおしゃべりをする四人に声をかけると、四人はすぐに黙ってヒューゴの方に注目した。
「ウーナはマネージャーとして関わっていい」
「やった〜。皆、改めてよろしく〜」
ウーナは両手でピースサインを作って喜んだ。
「じゃ、あたしは本番は下にいるね。
消火魔法とか得意だし、展望台は三人いるもんね」
「話が早くて助かる」
ウーナはイエーイ、と両手のひらを挙げてヒューゴの方に向けた。
ヒューゴは困惑しながらもウーナとハイタッチをした。
それからウーナは、イジー、エリック、リウと次々にハイタッチをして、最後にVJとハイタッチをしようとしてやめた。
VJは両手を挙げたままの格好になってしまったので、イジーが代わりにVJとハイタッチをしてくれた。
「VJとハイタッチすんのは、夏至祭が終わってからにするね〜」
「あー、そう」
「中間試験もあるし、当分はマジ忙しいね〜。
すごい充実してんじゃん、がんばろ〜」
中間試験という言葉を聞いて、VJ以外のメンバーが後ろめたい気持ちになった。
お互い秘密にしていたが、四人とも中間試験の勉強を放棄するのを心に決めていた。
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