第31話 僕流
「というわけで、ウナちゃんです!よろしく〜」
イエーイ、とピースサインを突き出して
有志チームは、新しくメンバーとして加わったVJに企画の内容を説明するために空き教室に集まっていた。
ガラクタだらけで埃まみれの教室をVJは恐る恐る眺め回し、教室のイスに積もった埃を念入りに手で払って座った。
リウはそんなVJの姿を見て、気の小さそうな男だと思った。
それと同時に、細かいことはVJにお願いしておこうかなとも思った。
「で、こっちがVJ。見ての通り、ネクラで陰キャで友達がいない」
ウーナは手のひらを上に向けて、
紹介されたVJは不服そうな顔をしているが、否定せずにいる所を見ると事実らしい。
実際、ウーナ以外に親しく話すような友人はVJにはいなかった。
いつも授業は教室の後ろの方で受けていたし、食事も時も食堂の隅っこで一人で食べていた。
VJは最初から一人でいようとしていた訳ではない。
入学当初は友人を作ろうと、他の生徒に話しかけたり食事を一緒にとっていた。
時間が経つにつれ、気を使うのに疲れて一人で行動するようになった。
「VJはカワセミ寮の三年生だったよな」
ヒューゴに紫色のネクタイを指差されて、VJは首が取れそうな勢いで縦に振った。
VJは同じ寮の背の高い上級生二人を前に、少し怯えているようにも見える。
察したイジーがVJの気持ちを解そうと、突拍子もない行動を取った。
おもむろに机の下に潜り込んで、VJの足元を覗き込んだのだ。
「なあ、このヒールはVJ流?」
「あ、はい……というか、こういうの好きで」
VJは驚きながらも、自分のことを知ろうとしてくれているような行動を取ったイジーの気持ちを嬉しく思った。
イジーが机の下から這い出て、人懐こい顔でVJに笑いかけた。
「似合ってるし、良いよな。ヒールが好きって思った上で、ヒールを履いて好きだって表現するところ。ちゃんと表現できるVJ、かっこいいじゃん」
これにはリウも同意だったし、イジーが真っ直ぐな言葉で言えるのもすごいことだと思った。
エリックがヒールを見ようと懸命に机の下を覗き込んでいるのを見て、
VJは机の下から脚を横に出してエリックからでも見えるようにしてくれた。
有志チームの皆がVJのヒールを見ているのを、ウーナは満足そうな顔で見ていた。
――
VJが今のような格好をしだしたのは、ウーナと出会ってからだった。
ウーナはVJが自分を表現することについて全面的に肯定し、背中を押した。
VJが持っていたファッション誌をペラペラとめくって、
「こういうの好きなら着たらいいのに」
と言ったウーナに対し、「指定じゃないシャツ着とるキャラじゃないやろ! 」と言うVJを丸め込んで学校の指定ではない黒シャツを推した。
なんだかんだ言いながらも、黒シャツを着てきたVJをウーナは褒めちぎった。
「やっぱりそっちのが似合うって! VJらしいよ。
いいじゃんいいじゃん」
好きな服を着て褒められたVJは満更でもなかったらしく、その日以降はずっと指定ではない黒シャツを着ていた。
幸い、式典の行われる日以外はどういう制服の着方をしていても注意されるような校風でもなかったので、教師や寮の代表生徒に咎められることはなかった。
こんな調子でVJはウーナに褒められまくって、
現在の黒ずくめにヒールという“VJスタイル”ができた。
――
“VJスタイル”を認められたことで、VJは有志チームの四人、特に同じ寮で上級生のヒューゴやイジーに気を許したようだった。
イジーの狙い通りにVJの気持ちが解れたところで、話は本題に入った。
ヒューゴが特別演出の内容について一通り説明し、VJとウーナは時折質問を挟みつつ真剣な顔で聞いた。
「それで、上下に分かれるんだけど、VJはどっちに行きたい?」
「ウナちゃんは……」
すかさずウーナが口を挟もうとするのを、VJが止めた。
「ウナ、ちょっと黙っとって。僕で決めたいから」
ウーナはこの反論をVJの成長と捉えて、嬉しそうにして口を閉じた。
有志チームに加入するのもウーナのゴリ押しだったVJが、自分で意見を出そうとする姿勢を見せたことがウーナにはとても喜ばしいことだった。
VJは口元に手を当て、しばらく考え込んで結論を出した。
「展望台の方に行きたい。花火のデザインを考えてみたい。
僕、そういうの考えるん、得意やし」
「僕もVJは上が良いと思う。ヒューゴとリウはそういうの苦手そうだもん」
「俺もそう思うよ。“VJスタイル”の花火、見てみたいじゃん」
エリックとイジーがVJが展望台で花火を打ち上げる方の係になるのに賛成した。
“こういうのが苦手そう”と言われたヒューゴは納得がいかないという顔をしながらも、VJが上の係になることは賛成のようだ。
「決まり。“VJスタイル”の花火、よろしく」
VJは顔を赤くしながらも、力強く返事をした。
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