第30話 VJをよろしく

 三寮の代表生徒たちが提出した資料に目を通しているのを、

有志チームの四人は緊張した顔で見つめていた。


「うん、良いと思います」


ヤマセミ寮の代表の女子生徒が明るい声で言い、他の二寮の生徒も賛同した。


「あしたにでも必要な魔法のテストをしようか。

それでいいよな、マックス」


カワセミ寮代表の男子生徒がカラス寮の代表生徒であるマックスに振ると、

マックスは静かに頷いて返した。


ヒューゴが机の上の資料を回収しながら、代表生徒たちの顔色を伺う。


「テストして、不十分だったらどうするんですか?」


「先生方にご協力を仰ぐことになるだろうな。

新しい生物学の……ベラ先生がぜひ手伝いたいと申し出てくれている」


「ベラ先生が」


と聞いて、ヒューゴとイジーは嬉しそうな顔をしていたが、リウとエリックは複雑な表情をした。


ね。リウ、どう思う? 」


「うーん? どうかなあ」


「良い先生だし、もしエリックとイジーの力が足らなかったらぜひ手伝ってもらいたい」


「どうしてそんなに突然仲良くなったの?」


「ちょっと話したら悪い人じゃないってわかっただけだよ。

まあ、ベラ先生の力を借りずにできるのが一番だけどね」


マックス達代表生徒の前で、先日の消灯後の展望台の件を話すのはまずいと思ったのか、

口ごもるヒューゴの代わりにイジーが笑って答えた。


「そうですね。

じゃあ、あした、きょうと同じ時間にグラウンドでテストしましょうか」



 ヤマセミ寮の代表生徒がそう締めくくって、打ち合わせを終わらせようとした時だった。


突然会議室の扉が勢い良く開き、一人の男子生徒が飛び込んできた。


飛び込んできた、というより突き飛ばされて倒れ込んできたという表現が正しいかもしれない。


前につんのめるようにして地面にべちゃ、と倒れ込んだ。


黒ずくめの男子生徒は、気まずそうな顔で近くにいたエリックを見上げ、すいませんと謝った。


「いいけど、大丈夫?」


エリックが声をかけると、大丈夫ですと言ってよろよろと立ち上がった。


リウは最近同じようなことあったし、この黒ずくめの男子生徒もその時いたな、と思いながら立ち上がる男子生徒を見守った。


「大丈夫か? どうしたVJ?」


イジーが男子生徒VJに声をかけた。


VJは顔を赤くしながらもごもごと小さい声で何か言っているが、聞き取れない。


皆が不思議そうな顔をしているのを見て、VJの声はさらに小さくなった。


「VJ、ちゃんと言いなって!」


開けっぱなしの扉の外から、女子生徒の声が聞こえてきた。


VJは女子生徒に叱咤されて覚悟を決めたのか、大きく息を吸って叫んだ。


「僕にお手伝いさせてください!!!」



 有志チームだけでなく、代表生徒たちも返答に困ったが、最初に口を開いたのはイジーだった。


「だってさ、どうする? リーダー」


イジーがリーダー、と言いながらヒューゴの方を見たので、その場にいる全員の視線がヒューゴに集まった。


俺か、と決めあぐねるヒューゴに、扉の向こうから声がかけられた。


「あっ、ヒューゴっちがリーダーなの?

有志チームに入れてよ〜。なんでもするからさ〜、VJが」


そう言って現れた女子生徒ギャルに、今度は全員の視線が集まる。


VJが小さく「僕が?!」とツッコんだが、女子生徒ギャルはまるで聞いていないかのように続けた。


「あたしはVJを推薦しま〜す。

どうかな? 入れてやってくんない?」


女子生徒ギャルがお願い、と可愛らしく手を合わせる動作をした。


ヒューゴはVJと女子生徒ギャルを交互に見てから、答えを出した。


「VJをチームに入れる」


ヒューゴの言葉に、イジーが頷いてVJの近くまで歩いていって手を差し出した。


「じゃ、よろしくな、VJ」


VJがおずおずとイジーの手を握り返す。


「わかった。あしたのテストにはVJも来てくれ。

企画の内容を他のメンバーからよく聞いておくように」


「は、はい……」


マックスがそう言うと、VJが必死に頷いた。


ヤマセミ寮の代表生徒にもういいですよ、と促されて有志チームと女子生徒ギャルが会議室から退室しても、VJの顔は赤いままだった。


 

 新しく加入したVJに企画の内容を説明するため、有志チームと女子生徒ギャルはいつもの空き教室に移動することにした。


ヒューゴとイジーを先頭に、エリックとリウが続き、一番後ろをVJを女子生徒ギャルがついて行く。


「ねえ、展望台にいたカップルだよね」


リウが二人を振り返ると、女子生徒ギャルが顔にピースサインを添えてウインクを飛ばしてきた。


「また会ったね〜!

VJとちょ〜っと授業サボってただけで、カップルじゃないよ〜」


「違うの?」


「違う違う。あたし、こんなネクラちゃんはタイプじゃないし」


あまりに直球な言葉にギョッとしてエリックも振り返り、ウーナはそちらにもウインクを飛ばした。


ウーナの真似をしてエリックもぎこちなくウインクを返すと、かわいいねーとカラカラと笑った。


VJはウーナにネクラと言われたことに顔を顰めて言い返す。


「僕だってこんなアホ、タイプやない……」


「は〜?アホかもしれんけど、ウナちゃんは最強にかわいいかんね」


「かわいいのは否定せーへんけど、アホなのは事実や」


会話を聞いていた、前を歩いているイジーが苦笑いした。

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