第29話 ぼっちとギャル

「やっぱもっかい代表生徒のとこ行こうよ〜」


「だから、解散させられたんやから、もう無理だって」


 展望台で全身黒の男子生徒と、女子生徒ギャルが言い争っていた。


今は授業中で、展望台には二人の他には誰もいなかった。


「だって、もともとはVJの考えた演出じゃん。

あいつらはそれをパクった上、テキトーな企画書出してポシャらせてさ〜。ムカつくじゃん。」


「パクられたのは僕やし、アレを僕の考えって証明できるものは無いんやから。

それに、代わりの有志チームだって代表生徒が指名したって噂が出とるもん。

もう遅いよ」


男子生徒と女子生徒ギャルは、夏至祭の特別演出について話していた。


VJと呼ばれた男子生徒は大きくため息をついた。


学校指定ではない黒のワイシャツに紫色のネクタイ、上に黒いパーカーを羽織っている。


黒い細身のスラックスに、ヒールのついた黒い靴を履きこなす姿は、少年とも少女ともとれるような中性的な雰囲気をしている。


女子生徒ギャルは明るい金にピンクのメッシュを入れて巻いた髪、半袖シャツに短く折ったスカートを合わせている。


足元は白いルーズソックスに革靴、短いスカートから伸びる健康的な太ももが眩しい。



「じゃあ、その有志チームに入れてもらおうよ。

それで結果出せれば、来年の代表生徒の選抜に有利になるじゃん」


女子生徒ギャルはなおもVJに有志チームに入ることを勧めた。


「有志チームに入らなくても、中間試験頑張ればいいやん」


「中間試験を頑張るのなんて、みんな一緒じゃん!

VJみたいな陰キャが代表生徒になるには、有志チームに入って一発ぶちかますしかないじゃん?」


歯にきぬ着せぬ物言いをする女子生徒ギャルの言葉に、VJはまた大きくため息をついた。


VJはカワセミ寮の三年生だ。


代表生徒が選出される四年生の秋まではまだ一年ある。


どちらかというと目立たない方の生徒であるVJが代表生徒になるには、日頃から成果を出しておきたいところだ。


ところが VJは特に委員会にも入っているわけでもなく、クラブにも所属していない。


学問の成績は良かったが、他にも成績が良く委員会やクラブ活動で活躍している生徒はたくさんいる。


そんなパッとしないVJが代表生徒を目指したのは、この女子生徒ギャルの一言からだった。


――

 VJが女子生徒ギャルと出会ったのは、今年の新学期が始まった頃。


フジサキ魔法学舎に入学し二年過ごしたが、仲の良い友達はできず、活発でヤンチャなカワセミ寮生とはソリが合わない。


自分がなぜこの寮に振り分けられたのかも理解に苦しむくらいだ。


寮生にいじめられこそしなかったが、ちょっと違う奴、と避けられているような気がした。


かといって、他の寮生と仲良くなれたかというとそうでもなかった。


カラス寮生は変人が多いし、ヤマセミ寮生はいつもヤマセミ寮生同士で固まっていて話しかけにくい。



 今年もぼっちの一年が始まるな、と新入生を迎える入学式をサボって裏庭で一人俯いてぼーっとしていた。


「ねー、今入学式やってんじゃん。行かなくていーの?」


ルーズソックスを履いた女子生徒の脚が視界に入ってきて、上から声が降ってきた。


見上げると、金髪にピンクのメッシュの派手な女子生徒ギャルがいた。


VJの顔を覗き込むように屈み、顔に落ちてきた髪をふわっと耳にかけた。


突然目の前に現れたことと、派手な女子生徒ギャルに話しかけられたことに驚いて、口ごもりながらVJは答えた。


「あ、いや、いっても意味ないし」


「えー、なんでー? 今年、面白い子いそうなのにー。

一人、ゴンドラで降ってきてさー。やばくない? 絶対面白い子だって。話しかけに行こうよ」


いこー!と手を振り上げる女子生徒ギャルのネクタイを見ると紫色で、自分と同じカワセミ寮生のようだが、寮内で見たことがない女子生徒ギャルだった。


「行かないって」


「そーやって意地張って一人でいてもつまんないじゃん!

行くよ、VJ! 」


「なんで僕の名前知っとるん?」


「なんでもいーじゃん。ほら行こ行こ〜」


女子生徒ギャルに腕を引っ張られ、VJは立ち上がった。


庭園の方に向かって歩き出した女子生徒ギャルを追いかける。


「わかった、行く、行くから腕離して。ていうか、君誰?

カワセミ寮生なん?見たことない」


「細かいことはいーじゃんいーじゃん、黙ってウーナちゃんについて来な〜」


勢いに押されて、VJは黙って後ろをついていった。


庭園の方に近づくと人の声がして、人だかりの向こう側にゴンドラの上の部分が見えた。


女子生徒ギャルが言っていたことは本当だったんだ、と思いながら人だかりに近づいて行く。


「あ、あたしウーナ。ウナちゃんって呼んでね。

ウーナちゃんがVJの人生変えちゃうから、よろしく〜。

まず、VJはカワセミ寮の代表生徒になっちゃお!」


突然女子生徒ギャルはくるっとVJの方に振り向き、腰に手を当てながらいたずらっぽく言った。


口をぽかんと開けたままウーナの自己紹介を聞いて、最後の一言で我に帰った。


「僕は今年三年生やから無理やって」


「え? まじ? 

じゃあ来年ね。今年一年は適当にがんばろ〜」


人だかりの中から担架で誰かが運び出されていくのが見えた。


――

 ウーナとVJの口論は、突然開いた扉と共に倒れ込んできた女子生徒によって中断させられた。


扉のノブを持ったまま、銀髪プラチナブロンドの可愛らしい顔をした男子学生が気まずそうな顔で固まっていた。


ウーナが二人と話している間に、VJは開いたままの扉から校舎の中に戻った。


あの銀髪プラチナブロンド、どこかで見たことあるなと思いながら、VJはヒールを鳴らさないよう気を付けながら廊下を歩いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る