第28話 ギャルの話は後にしろ
「展望台に下見に行ったらギャルがいた」
前回打ち合わせをした場所と同じ埃っぽい空き教室で、リウは真っ先に
「ピンクのメッシュで短いスカートの
リウの言った
「カワセミ寮だって言ってたよ」
「もういいだろ、
ヒューゴは無理やり話題を変えた。
「お前らも展望台に下見に行ったのか」
「うん。休講で時間ができたから行ってきた」
「で、行ったらギャルがいたと」
「だから、今はいいって、ギャルのことは」
話題を変えたのにイジーが戻そうとしたので、もう、と腕を組んでヒューゴが悪態をついた。
軽く謝って、イジーは自分が脱線させかけた話を元に戻した。
「どうだったよ、展望台。十分じゃないか?」
「物を置いたりするのは十分な広さだと思う。高さもね。
でも、僕とリウが魔法で花火を打ち上げるには、招待客の入場口までが遠すぎる」
エリックが机の上に紙を出して、校舎とグラウンド、入場口までの位置関係を示す簡単な図を書いた。
ヒューゴが図を覗き込み、展望台から入場口までを指でなぞった。
イジーがヒューゴの後ろから覗き込んで、二人にはちょっと遠いかもな、と呟いた。
「俺とヒューゴだったら届くけど、リウとエリックには厳しいかもな」
エリックが持っていたペンを奪い取って、ヒューゴが棒人間を図に書き足した。
展望台に棒人間が二体、グラウンドに棒人間が二体書き加えられる。
「本番は展望台に二人、安全確認として下に二人の体制でいこうと思ってる」
「じゃあヒューゴとイジーが上で、僕とリウが下だ」
奪い取られたペンを奪い返し、
エリックが展望台の棒人間の上にヒューゴ・イジーと書いたが、
突然横から別のペンが出てきてイジーの名前の上に打ち消し線を引いた。
線を引いたのはイジー本人だった。
「俺は下で見張りをする。展望台はその二人だ」
右手の人差し指と中指でヒューゴとリウを指差した。
「いや、上に残るんならイジーだ」
「そうだよ、イジーが上に居るべきだと思う」
指を指された二人が驚いて抗議の言葉を口にしたが、イジーは頑として譲らなかった。
イジーの主張はこうだった。
「リウは前にアホみたいな光量の光の球を出してた。花火に流用できる」
イジーは以前、リウがカラス寮の前の芝生の上で起こした“ミッドナイトスター事件”を目撃していた。
リウが出した強烈な光を発する“ミッドナイトスター”を見て、リウが上に残って魔法の花火を打ち上げるべきだと言い出したのだ。
“ミッドナイトスター事件”をあまり思い出したくなかったリウは、顔を隠すように両手で覆った。
エリックも当時の羞恥心が蘇ったのか、机に突っ伏して動かなくなった。
そんなことしてたのか、と二人をヒューゴは呆れた目で見つめた。
「とにかく、リウは上でヒューゴと一緒に花火を打ち上げてもらった方がいいと思うんだよな。
俺とエリックが下でフォローするから。な、エリック」
「僕は下で“ミッドナイトスター”を助けるよ」
エリックは机に突っ伏したまま、篭った声でイジーに賛成した。
イジーがリウの魔法に可能性を感じているのなら、自分も信じるべきなのだろうか、いや、失敗したら期待に応えられない。
イジーの感じた可能性を否定することは、リウを誘ったエリックをも否定することになるのではないか。
|自分は友人を、弟を信じることができない男か《俺はそんな男じゃない》。
心の中で
「わかった。俺とリウが上で花火を打ち上げる。イジーとエリックは下で安全確認だ」
四体の棒人間の上に、四人の名前が書き入れられた。
それぞれの担当が決まり、ヒューゴを中心として代表生徒たちに提出する書類の準備が早急に進められた。
だいたいの書類は、去年までの演出の企画書を流用することで再利用していたし、コンセプトも後付けのようなものだった。
一番重要なのは安全対策だということは四人の間で一致していたので、そこだけは慎重にやった。
魔法を利用した花火は、普通の花火と違って火気を伴うわけではない。
光を火花のように球体に破裂させて花火のように見せかける。
着火や延焼の可能性があるわけではなかったが、ヒューゴかリウ、もしくはその両方が魔法をしくじって炎を出してしまった場合についてだ。
下で監視しているイジーたちが即座に炎を感知して、展望台組の打ち上げた魔法を打ち消さなければならない。
火気探知の魔法の実技を代表生徒の前で見せ、安全性を示す必要があるだろう。
他にも、一番近くの村に対して周知をすることだとか、保健室で傷病人が休んでいる可能性を踏まえ、保健室の窓に遮音や遮光をする必要があるだとか、さまざまなことに関して企画書に細かく記された。
「すごいね、ヒューゴがこんなに短時間でここまで書類作れるなんて」
清書前の企画書に目を通し、関心した声をあげた。
「ヒューゴはリウが思ってるより、細かいことにうるさい人間だよ」
「うるさい、ほんとお前ら失礼だな」
年下二人にからかわれながらも、ヒューゴは着々と書類を完成させていった。
「そういえば、展望台にいた
ヒューゴがペンを持つ手を止めて聞いた。
「全身真っ黒でヒールを履いたカワセミ寮の男の子」
ああ、とイジーとヒューゴが同時に声を上げた。
「
VJじゃないか? いつも一番後ろの端っこで授業受けてる」
「VJだろうな。全身黒でヒール。VJしかいない」
「VJって名前?あだ名?」
「VJはVJだよ。本名かどうかは俺らも知らない」
そう言ってヒューゴは手元の書きかけの書類に目を落としたが、聞き忘れたというようにもう一度顔を上げ、リウの方を見て聞いた。
「ギャルのパンツは見えなかったのか?」
「ぎり見えなかったよ」
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