第27話 ヒールの男とギャル
「本当についてこなくて良いの? イジーもいるよ」
「いい。おれ、ねむい。お昼寝する」
ネオンはリウのベッドで丸くなると、そのまま眠り始めた。
たまたま午後の授業が休講になったので、リウは展望台に行こうとしていた。
邪魔な荷物は置いて行こうと、昼食後に自室に戻ったらネオンが行かないと言い出したのだ。
ネオンはその日、朝から眠そうに何度もあくびをしては他の生徒達から笑われていた。
展望台には先にエリックが向かっていて、待たせては仕方がないとネオンを置いてリウは本校舎の方に向かった。
他の科目は授業を行っているので、目立たないよう静かに廊下を早歩きして階段をのぼっていく。
息を切らして展望台へと続く扉の前に辿り着くと、エリックが待っていた。
「先に入ってて良かったのに」
「展望台に誰かいるみたいなんだ。カップルかも。
一人で入ってくのはちょっと気まずいから待ってたんだよ」
エリックがあごで指すので扉に耳を付けてみると、確かに女子生徒と男子生徒の話し声がする。
「同じ授業取ってた生徒かな」
エリックはそうかもね、と言いながらリウが耳を付けたままなのも構わずに扉を開けた。
扉に体を預けたままだったリウは、エリックが開けると同時にべしゃっと展望台に倒れ込んだ。
「いたた……開けるなら開けるって言ってよ」
起きあがろうとして、
知らない男子生徒がリウの真ん前に立っている。
華奢なヒールが似合う中性的な男子生徒だった。
黒髪で黒縁のメガネをかけ、指定のものではない黒いシャツの上に黒いパーカーを羽織っていた。
全身ほぼ黒い中、ネクタイだけは紫色だ。
隣にはピンク色のメッシュの入った髪を巻いた、スカートの短い
扉の近くで話していたらしく、突然扉が開いて倒れ込んできたリウを見て驚いた顔をしていた。
エリックが開けた扉を押さえたまま、気まずそうな顔をしてすいませんと謝った。
「いいけど、というか大丈夫?」
「大丈夫です。でも、パンツが見えそう」
「見んなって。同性でも許さんからね」
リウが
化粧をしていて、少なくとも自分よりかは年上らしい雰囲気だ。
ゆっくりとリウが起き上がり、服についた埃を払って女子生徒に謝る。
「ごめんなさい、デートの邪魔しちゃって」
「気にしてないし、うちらはデートじゃないからさ。
うちらこそデートの邪魔してごめんね? ほら、アンタも……っていないし」
ついさっきまで近くに立っていた、ヒールの男子生徒はいつの間にか消えていた。
扉を押さえていたエリックも出ていくのに気付かなかったらしく、キョロキョロと周りを見たがもういなかった。
「あれ? もしかしてヒューゴの弟?」
「そう。悪名高いヒューゴ・ヴァーグナーの弟」
エリックがそう返すと、
「やっぱり! 弟くん、かわいー」
「ヒューゴの友達?」
「友達ってほどでもないかも。同じ寮なだけ。
あたし、さっきのアイツ追っかけるから。じゃあね、弟くんと彼女ちゃん」
「彼女じゃないよ!!」
足早に展望台を出ていく
「さて、時間もないしさっさと下見を済ませよう」
取り繕うように歩き出したエリックの態度に苦笑しながら、リウは展望台の端の手すりへと近付いた。
エリックが手すりから身を乗り出して下を見た。
「校舎から少し離れたところまで魔法を飛ばさないと、グラウンドからしか見えないかもね」
「ステージとテーブルはグランドに設置されるんでしょ、グラウンドから見えたら良いんじゃないの?」
「グラウンドに着く前のお客さんにも見せたいんだよ。入場口は校舎の南側の庭園からだから、そこからも見えるようにしなきゃ」
既に入場している招待客にはグラウンドから見えるように打ち上げればいいが、入場前の客に見えるようにするにはかなり離れたところまで打ち上げなければいけない。
リウとエリックの魔法ではその距離は難しかった。
「私たちじゃ厳しそうだね」
「うん。とりあえず、僕たちが見た感じだけでもヒューゴに伝えておこう」
エリックが手すりから体を離し、校舎に戻っていく。
池の方を少し見てから、リウも戻った。
後から歩いてくるリウのために、扉を押さえて待っていたエリックが聞いた。
「ギャルのパンツ見えた?」
「ぎり見えなかったよ」
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