第24話 中間試験どころじゃなくない?
リウは中間試験どころか、ネオンの正体調査さえ後回しにする事態に陥っていた。
きっかけは、エリックの一言から始まった。
――――
「リウ、面白いことしたくない?」
ラウンジで教科書を開いているエリックの隣で、
リウは中間試験の勉強そっちのけで図書館から借りた生物図鑑をみていた。
ふと手を止めたエリックが、突拍子もないことを言ったのにリウは興味を持った。
「やるやる〜」
「決まりだね。もう一人ほしかったから助かったよ」
「何するの?」
エリックは緑色の表紙のファイルを開いて、リウに見せた。
どうやらチラシのようだ。
『フジサキ魔法学舎夏至祭』と大きく文字が書かれていた。
日付を見ると、去年のものらしい。
『フジサキ魔法学舎夏至祭』は、中間試験のあとに行われる生徒主体のお祭りで、生徒たちの家族も招かれる。
教師陣や用務員、特別生や研究生もこの日はゲストとして羽根を伸ばす。
夏至祭の翌日は学園内で働く大人たちの大半が二日酔いでダウンしてしまうため、全ての授業が休講になる上、食堂や喫茶室さえ営業休止になってしまう。
もちろん、生徒たちも中間試験を終えて勉強から解放されたことで、羽目を外して遊び回る。
度を超えたやらかしをして、夏休みを前にして罰則をくらう生徒が毎年数人出ていた。
夏至祭は各寮の代表生徒が中心となり、他の委員会やクラブの協力によって運営される。
グラウンドに大きなステージが設けられ、各音楽部の演奏や演劇部の公演が行われ、祭りの雰囲気を盛り上げる。
さらに、大きなテーブルがいくつも置かれて飲食物の提供がされ、ステージの出し物を見ながら食事や軽食が楽しむことができるのだ。
中でも、毎年恒例なのが『有志による特別演出』だった。
名の通り、有志の生徒により数人で企画され、会場内を特別な演出で彩る。
エリックがリウを誘ったのは、有志チームの人員不足のためだった。
「特別演出は毎年、みんな楽しみにしてるんだ。
去年は冷たくない雪を降らせて、氷の城を建ててた。
暑い中、気分だけでも涼しくなったって好評だったよ」
「へえ。面白そうだね。もっと詳しく教えてよ。
今年の有志チームは誰なの?」
「去年までの演出の内容はファイルの中にあるから読んでみて。
今年のチームメンバーは僕とヒューゴとイジー、リウを入れてこれで四人」
「四人?少なくない?」
「少人数で効率的な演出をするのが慣例なんだ。去年なんて三人でやってたよ。ほら」
エリックがページをめくって、去年の計画書を出して指さした。
有志メンバーの一番上の名前はマクシミリアン・ヴァーグナーとなっていた。
去年のリーダーはマックスだったのだ。
演出の内容も、好評だったのもうっすら理解できた気がする。
「それで、今年は何をやるの?」
「まだ決まってない」
「へ?」
「まだ決まってない」
「もう夏至祭までもう一ヶ月きってるよね?」
「今年は有志チームと各寮の代表生が演出の内容で揉めてね。
有志チームがヘソを曲げて辞退しちゃったんだよ。
他の有志も立候補がなくて、仕方ないからマックスがヒューゴに頼んだんだ。
で、今やっとメンバーが揃ったところ」
「やばくない?」
「やばいかどうかはリウ次第。良い演出の提案をみんな期待してるから」
エリックはファイルを閉じ、リウに押し付けた。
「大丈夫、中間試験のヤマはアズサがはってくれるし。
がんばろうね、リウ」
エリックは悪い顔で笑った。
リウはピクピクと頬を引き攣らせながら、綺麗な顔の友人を見ることしかできなかった。
――――
そんな訳で、リウは頭を抱えるイジー、腕を組んだまま動かないヒューゴ、頬杖をついて眉根に皺を寄せるエリックと四人で空き教室にいた。
本校舎の一階にある空き教室で、元が何の科目の教室だったのかもわからない。
ほぼ物置きのような場所で埃っぽく、近寄る生徒はあまりいなかった。
準備期間は一ヶ月もないのに、去年の
リウはエリックから押し付けられたファイルをペラペラめくって、ここ数年の演出を見ていた。
去年は雪と氷の城。一昨年はフラワーシャワー。その前の年は動物の幻影をステージの音楽と一緒に踊らせていた。
「去年は雪だったから、今年は火山にでもするか?
ぐつぐつの溶岩とか流しちゃったり」
「ただでさえ暑いのに、暑苦しすぎるだろ」
イジーが絞り出した案を、すぐにヒューゴが却下した。
「どうだ、エリック。なんかあるか」
「お菓子の雨を降らせる」
「それって飴か?」
「皆喜ぶと思う」
エリックが至極真面目そうに提案するので、イジーが笑った。
「どう?リウ、何か出そう?」
「ちょっと待って、今考えてる」
「ああもう、何かドカンと一発、派手に盛り上げられるようなのないのかよ」
頭を掻きむしっているヒューゴの言葉に、リウがハッとした。
「ヒューゴ、今の言葉もう一回言って」
「ドカンと一発、派手に盛り上げられるような……」
ここまで言って、ヒューゴはリウと顔を見合わせた。
「「花火だ!!」」
「花火、良いんじゃないか」
いつの間にか空き教室に入ってきていたマックスが背後から現れた。
「花火、いいんじゃない?」
マックスのさらに背後から、アズサが顔を出した。
「はなびってなに?」
アズサの肩では、ネオンが首を傾げている。
「空に咲くお花だよ」
「空にはな? おれ、見たい!」
アズサはネオンを机に下ろすと、他の卓からイスを引き寄せて座った。
マックスも同じようにして座った。
「二人とも、よく私たちがここにいるってわかったね」
「ネオンが、イジーたちがここにいるって教えてくれたの」
ネオンが得意げにぶんぶんと尻尾を振った。
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