第20+1話 日常 蛍光の緑色にしてほしい。暗い池でも良く見えるようにさ。

 フジサキ魔法学舎に入学して数ヶ月。


入学前日に染めた髪は伸び、リウは完全なプリン頭になっていた。


フジサキ魔法学舎の校則では染髪は禁止されていなかった。


オシャレに敏感な上級生の中には、目の覚めるようなピンク色や蛍光色の髪色をした者もいた。


しかし、リウのように普通の薬品を使って染めている者は誰一人としていない。


つまり、リウのようなプリン頭のような者はいないのだ。


生徒たちは皆、地毛まで色を変える魔法の染髪薬を使っていた。


中には、魔法で直接髪の色を変えるのが得意な生徒もいて、その生徒に頼んでいた。



「リウ、プリン頭どうにかしなよ。だらしなく見えるよ」


 エリックの言葉に、たまたまラウンジで隣の席にいたマックスがリウの頭を見た。


少し眉根にしわを寄せているように見える。


「それ、魔法で染めたんじゃないのか」


「普通の市販のやつでやったらしいよ」


マックスは顎に手を当てて、少し考えるような仕草をした。


リウは少し嫌な予感がした。


「物体の色を変える魔法を練習しようと思っていたところだ」


何色にするか、と呟く兄に弟がすかさず提案した。


「蛍光の緑色にしてほしい」


「派手じゃなくていいよ。黒とかでいいよ」


「暗い池で溺れてもよく見えるようにさ」


リウはマックスの魔法の練習台となることが決定した。



 ほとんど見せ物のようにされて、リウはイスに座った。


少し離れたところにエリックとマックスが立っていて、周囲をカラス寮生たちが囲んでいる。


自室にいたカラス寮生たちもラウンジに見物に来ていた。


魔法を使うことは特別なことではないが、マックスが使うというのが人を集めたようだった。


魔法を使いそこねて、髪色がマーブル模様になってしまった生徒もいるが、

代表生のマックスがどのくらい魔法を使いこなせるのか、みんな興味があった。


「大丈夫、マックスは上手いからヤバい色にはならないよ」


エリックは他人事と思っている。マックスを止める気はないようだ。


「それより、リウ、動かない方がいいよ。髪じゃなくて肌の色を変えちゃうかも」


「大丈夫だ。集中すれば外さない」


マックスは右手の人差し指をリウの頭に向けると、黙って自分の指先を見つめた。


リウは腹を括ってマックスに叫んだ。


「マックス、めちゃめちゃ派手な色にしちゃって!」


マックスが頷いたのをみて、リウはぎゅっと目を瞑った。


マックスの指先にほんのり薄桃色の光が宿り、指をふわふわと離れてリウの頭の上へと移動した.


光がリウの頭に当たると、一瞬でリウの髪色が変わった。


髪の根元は、先ほどマックスの指先から出たような薄桃色に染まり、毛先にいくにつれ濃い色になる。


綺麗なグラデーションだった。


リウの髪色が変わった瞬間、取り巻いていたカラス寮生たちがおおっ、と歓声を上げた。


周りが自分を見て色々言っているのは聞こえるが、リウ本人は自分の髪色がわからない。


頭を傾けて髪を見て、ピンクっぽい色になっていることはわかった。


「ねえエリック、鏡ない? イマイチわかんないんだけど何色?」


「根元がピンク、毛先が紫のグラデーション。すごい色だよ」


へえ、と言いながら髪を触った。


入学前に普通の薬品で染めた時は少しきしんだ感じがしたが、今回は髪を傷めずに染められたらしい。


マックスもう少し派手でも良かったか、と首を傾げている。


マックスの中でもっと派手な色ってどんなんだよ、と思ったがリウは言わなかった。



 結局、リウが派手な髪色で過ごしたのは一週間くらいだった。


エリックが目がチカチカすると訴え始めたのだ。


しきりにリウに色を戻すか他の色にするよう頼んだ。


最初にマックスに髪を染められている時にさんざん煽られていたリウは、仕返しとばかりに色を戻すのを拒んだが、やはりエリックの方が一枚上手だった。


リウがラウンジで居眠りをしている隙に、エリックがマックスを呼んでリウの

地毛の色に戻してもらったのだった。


「あの色、かわいくて良かったのにな」


「勘弁してよ。

自分の部屋にいてもまだ視界の端にピンク色がちらついてる気がするんだ」


「誰かさんは蛍光緑って言ってたから、そっちにしてもらえば良かったね」


「蛍光色はもういいって。もう暗い池で溺れることなんてないだろ」


エリックはうんざりした顔で自分の髪を後ろに撫で付けた。

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