第20話 色々あったんだよ、そのトカゲとか

 リウは朝から疲れていた。


きのうの疲れなのか、寝ている途中で何度かネオンの尻尾が顔に当たって目が覚めたからなのか。


それとも、あの妙な出来事やトカゲのことを、エリックの兄たちに説明するという重大なイベントが待っているからなのか。



 ネオンの尻尾を顔にぶつけられて目を覚まし、食堂に行く支度をしている途中で扉が叩かれた。


洗っていた途中の顔を急いで拭いて扉を開けると。アズサが立っていた。


机の上に置いてあったネクタイピンを引っ掴んで、ついでにネオンも掴んでポケットに突っ込んだ。


部屋を出て、ラウンジに向かっていたアズサに追いついた。


「アズサ、これだよね」


アズサはリウの手の上の蜂の飾りがついたネクタイピンを見ると、

安心と喜びが混ざり合った顔になった。


「それ!! 本当に見つけてくれたんだね、ありがとう。

私、どうお礼をしたらいいか……」


「課題を手伝ってくれたお礼だから、そのお礼はいいよ。

見つけるまで、色々あったんだ。それはあとで話すね」


螺旋階段を降りてラウンジに着くと、眠そうな顔のエリックがソファでリウを待っていた。


アズサが弾んだ声で、エリックにおはようと言った。


エリックは軽く手を挙げてから、あくび混じりでおはようと返し、アズサに謝った。


「ごめんアズサ、秘密にしてた探し物のこと、聞いちゃって」


「見つかったからいいの。色々あったんでしょ。

探すのを手伝ってくれてありがとう」


「本当に色々あったんだ。

きょうはそのことをマックスたちに説明しなきゃいけないんだよ。

アズサも来てくれる? 三人で怒られた方が、マックスのお説教が分散するかもしれない」


「おれもいっしょにお説教されるから、四人だ」


ポケットから抜け出したネオンがリウの肩の上にいた。


アズサが驚いて口を開けたままの顔で固まっている。


「あ、ごめんねアズサ。トカゲ、苦手だった?」


「ううん。トカゲは大丈夫だけど……。今、その子がしゃべったの?」


「おれがしゃべった。おれの名前、ネオン。

リウのともだちなの?じゃあおれのともだち?」


口を閉じたアズサが、驚きながらも笑顔を作ってネオンに指を差し出した。


握手のつもりらしい。


「そう。リウの友達のアズサよ。よろしくね」


アズサの指に前足を置いて握手をするネオンを、エリックが少し恨みがましい目で見ていた。



 ネオンは、きのう色々あったうちの一つだ。


どういう生き物なのかもわからないが、とにかくリウが世話することになったのをマックスに説明しなければいけない。


そもそも寮で生き物を飼うのは大丈夫なのだろうか。


リウのイメージだと、魔法使いといえば猫やカエルをペットにしているが、この学校の校則ではどうなっていたっけ。


働かない頭に働いてもらうため、三人と一匹は朝食をとりに食堂に向かった。


もちろん、抜け道を使わずに。


食堂へ向かう最中、リウの肩のネオンを他の生徒たちは不思議そうな目で見ていた。


それが何かと、リウに直接聞いてくる生徒はいなかった。


「入学式に遅刻して参加せず保健室送りになったヤバい編入生」のレッテルって、意外と便利だなと思いながらリウは歩いた。



 食堂で朝食を多めにもらい、取り皿に分けてネオンの前に置いた。


水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”のところでは何を食べていたのか知らなかったので、ネオンが人間と同じものが食べられるのか心配だったが、問題なく食べていた。


ネオンには少し多いかな、という量だったが、ネオンはペロリと食べ尽くし、皿についたサラダのドレッシングまで舐めていた。


「うまい。こんなにうまいなら、もっと早くにんげんのところに来たかったな」


「そしたら“水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”も焦ってアズサに体当たりせず済んだかもね」


隣に座っているエリックは、食欲がないのかお茶ばかり飲んでいて、皿の上の朝食は減っていなかった。


「ちゃんと食べなよエリック。きょうは忙しいよ」


「食べないならおれが食べる」


「まだ食べる気?」


エリックの皿を狙って歩き出したネオンから朝食を守るように自分の方に皿を引き寄せると、フォークを取り、少しずつ食べ始めた。



 いつも通り“思ったより魔法使いっぽくない”授業を受ける。


昼食の時、食堂でマックスを見かけて二人はなるべく目を合わせないようにしていたが、いつもの指定席に座っていた二人をマックスが見逃すはずはない。


「夕食のあと、喫茶室」


罰の悪そうな顔をしている二人に一言だけ言って、離れていった。



 喫茶室は食堂棟の上の方のフロアにある。


本来なら営業している時間ではないので、喫茶室のマスターに話をつけたのだろう。


カワセミ寮生のヒューゴは、カラス寮には入れない。


そこで、人目につかないような場所ということで喫茶室を使えるよう手配したらしい。


いつもは楽しみな夕食の時間だが、きょうは来なくても良いやという気持ちで昼食を食べ終え、午後の授業を受けた。

 

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