第18話 なんとかならないし兄貴は出てくるし
この状況を打開する魔法を思いつくのが先か、
リウの体力が尽きるのが先か。
このままだと、二人とも沈んでしまう。
頭上に掲げたトカゲがにわかに光りはじめた。
懸命に立ち泳ぎをして水面から顔を出すのがやっとのリウだったが、エリックの方から音がしなくなっているのに気付いた。
もしかしてエリックは沈んでしまったのだろうか。
自分も沈むんだろうか。
誰かに腕を引かれている感覚がして、背中が、足が、水底についた。
肩が柔らかい泥につく感触がして、リウは体が浅瀬の方へ引っ張られていたことに気付いた。
立ち泳ぎから解放され、手から抜け出たトカゲがリウの顔を心配そうに覗き込んでいた。
誰かの、スニーカーを履いた足が見える。
呼吸を整えようと肩で息をしながら見上げると、エリックと同じ
舟が近くに寄ったところで少年が駆け寄っていく。
リウも泥の中に手をついて立ち上がり、舟の方に走った。
仰向けで、リウと同じようにぜえぜえと息を切らしてエリックが舟の中に寝転んでいた。
「よかった……」
エリックが無事だったことに安堵し、リウは舟の横にへたりこんだ。
トカゲがリウの肩に登って、エリックを見ていた。
背の高い少年はまず舟の中のエリックを担いでベンチまで運び、次にリウを抱き上げてエリックの隣に座らせた。
舟のロープを杭に繋ぎ、二人の前に戻ってきた。
「おい、大丈夫か?」
少年が声をかけると、エリックが咳き込みながら返事をした。
「ありがとう、ヒューゴ」
ヒューゴと呼ばれた少年は手を腰に当て、ベンチに座っている二人を見下ろしている。
とても背が高く、体格が良い。
半袖シャツから出ている腕はほどよく筋肉がつき、健康的に日焼けしていた。
エリックと同じ
顔を見て、リウは確信した。
少なくとも、ヒューゴはエリックの関係者だ。
エリックより涼しげな目元だが、全体的な作りはエリックと同じだ。
つまり整っている。
リウは、ネクタイピンがずぶ濡れのハンカチにくるまれてポケットの中にあることを確認してから息をついた。
ヒューゴが腕を組み、機嫌が悪いのを隠そうともせず地面を蹴った。
「朝、俺が舟を置いたあとすぐに乗ってどっか行ったと思ったら、
こんな時間に帰ってきて、溺れてるってどういうことだよ。一体何してたんだ?」
ヒューゴがリウの方をチラッと見た。
「しかも、変なトカゲの土産つき」
「へんっていうな!でっかいにんげん!」
リウの肩の上で、トカゲはまた鱗を逆立ててヒューゴを威嚇していたが、何の迫力もない。
「あとで説明するよ。
今はとにかく、シャワーを浴びて着替えたい」
ようやく息を整えたエリックだが、まだぐったりしている。
リウは水を吸って重くなった制服のブレザーを脱ぐ気にもならず、威嚇しているトカゲをなだめた。
「ええと、助けてくれてありがとう。舟を作ってくれたのもヒューゴ?」
「ああ。クソ弟の無茶振りに答えてやった優しい兄が、俺」
「兄?」
似ているとは思っていたが、ヒューゴはエリックの兄弟だった。
マックス以外にもう一人兄がいたのか。
ヒューゴはリウの肩にいるトカゲを摘み上げて眺め回している。
肩にいた時は勇ましかったくせに、いざ自分よりはるかに大きな人間に掴まれたら怖くなったらしい。
トカゲはバンザイのポーズでヒューゴに腹を見せて降参の意思を示していた。
エリックは濡れた髪をかき上げて、軽く水気をしぼった。
「ヒューゴは二番目。兄弟唯一のカワセミ寮」
一番上の長兄がマックス、次兄がこのヒューゴで、末っ子がエリックということらしい。
ヒューゴはトカゲをリウの手に返し、二人に歩けるかどうか確認した。
「とりあえず、きょうは寮に戻って休め。話はあした聞かせろ。
マックスにも俺から言っておく」
「マックスに言う必要はないよ」
「俺が助けなかったらどうなってた? 弟と自分のとこの寮生が死にかけたんだ。
マックスには知らせておく必要がある。とにかく、もう帰れ」
エリックは食い下がって抗議したが、ヒューゴは聞く耳を持たなかった。
まだ何か言いたそうなエリックを促し、リウはトカゲを肩に乗せて寮へと戻った。
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