第17話 居候ちゃん引き受けます

 リウは、“水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”の住処に居候していた大食漢の子供トカゲを引き取ることになった。


虹色の鱗を持つトカゲは、丸まるとちょうどリウの手首が通るくらいの大きさをしている。


この人語を話すトカゲのような生き物が何という種類の生物なのか、リウにはわからなかった。


しかし、このままにしたら“隣人”たちの食料は食い尽くされ、冬を越せなくなってしまうだろう。


クエンティンの頼みを断り、置いて行くという選択肢は取れない。


クッキーを一枚食べたトカゲが二枚目に食い付く前に、リウたちは住処から出ることにした。


トカゲはリウの制服をクッキーの食べカスだらけにしたまま、肩にしがみついていた。



 ギーにお別れの挨拶をしてから、クエンティンが来た時と同じようにして送ってくれた。


クエンティンが魔法を使っている間目を閉じ、次に目を開くと池の小島の上に戻っていた。


昼前に小島についたはずが、日は暮れて薄暗くなっていた。


来た時の位置とは違う位置に移動してきたらしく、四角い石のようなものがゴロゴロしている場所に立っていた。


足元にクエンティンがいて、こちらを見上げている。


「ここは島の中央ですので、あちらの方に行けばあなたたちが使った舟があるでしょう」


リウが魔法で光の玉を出して辺りを照らしてから、お礼を言った。


「送ってくれてありがとうクエンティン。また会いに来るよ」


エリックはクエンティンと握手をして別れの挨拶をした。


「今度は手土産を持って行くよ」


「期待していますよ」


「おれも」


「お前は来なくていい」


クエンティンはトカゲに冷たく言い放ち、リウとエリックに向けて「では、これで失礼します」と丁寧にお辞儀をしてから消えた。


どちらが素のクエンティンなんだろうな、とリウが笑うと、エリックも同じことを考えていたらしく笑っていた。



 肩でトカゲがブンブン振る尻尾が顔に当たらないよう避けながら、リウは舟の方へ歩くエリックの後を歩いた。


少し歩くとすぐに、二人が引き上げた舟が見えた。


また靴を泥まみれにしながら舟を押して、水に浮かべて乗り込む。


帰りもエリックがオールを持った。


日が暮れてしまって、黒く見える池の水の上を舟は進んでいく。


リウが光の玉を少しずつ移動させて、進行方向を照らした。


池の正面にはカワセミ寮棟が見える。


今が何時かわからないが、寮生の部屋の明かりを見るともう夕食の時間は終わっているような気がした。


肩の上で、トカゲが尻尾を振りながら光の玉に食いつこうと大きな口をパクパクさせている。


リウはトカゲを指で摘み上げ、自分の膝の上に置いて叱った。


「落ちたらどうするの。やめなさい」


「なんだよ、にんげん」


トカゲはリウの膝の上で尻尾を鞭のようにしならせ、威嚇するようにトゲを逆立てている。


エリックが進行方向を確認しつつ、トカゲをチラッと見た。


「そのトカゲ、なんて種類なんだろうね」


「エリックも知らないの?」


『魔法を使う生物図鑑』に載っていない生き物なのか、エリックもトカゲの正体を知らなかった。


人の言葉を話しているという点で普通の生き物ではないことはわかる。


クエンティンも言っていたが、トカゲの態度から子供らしいということもわかる。



 リウが指で軽くトカゲの頭を抑えたりつついたりすると、トカゲはなんだよ、やめろよと指にじゃれつきはじめた。


じゃれつくトカゲを見て、リウが「ねえ、トカゲちゃん」と呼びかけた。


トカゲが指にじゃれついたまま、顔だけ上げてリウを見た。


「おれ、トカゲなの?」


「自分でもわからないの?」


「おれ、おれ以外の同じ種族にあったことない。

タマゴから出たら、だれもいなかった。

いっぱい歩いてたら、あいつらの家について、ご飯もらった」



 トカゲが食べ物のにおいがすると制服のポケットを叩いて催促するので、

ポケットから飴玉を出してトカゲに渡した。


入学式の日に保健室でもらった飴玉だった。


いつか食べようと思ってずっと制服のポケットに入れっぱなしだった飴玉は少し溶けていたが、トカゲは気にせず齧り付いていた。


もう少しで抜け道側の浅瀬に着きそうになった時、トカゲの口からこぼれてしまった飴玉が水の中に落ちた。


「おれの!!」


リウが止める間もなく、トカゲは飴玉を追って水の中に飛び込んでいった。


「待って!」


トカゲを追って、リウも躊躇なく水の中に飛び込んだ。


突然大きく揺れた舟の上でバランスを取ることもできず、エリックも続いて水の中に落ちた。



 リウはかろうじて水に落ちたトカゲを掴むことに成功した。


トカゲが水を飲まないように頭上に掲げてみたが、片手が塞がった状態では水に浮いていることが精一杯だ。


少し離れたところから水音が聞こえる。


おそらく、巻き込まれて落ちたエリックだ。


もしエリックが舟に戻れたら助けに来てくれるだろうが、

そもそも突然落ちたエリックが混乱していて溺れているなら二人ともここで沈むことになる。


右手に掴んだトカゲを必死に掲げながら、リウは叫んだ。


「トカゲちゃん、エリック見える?!」


「わかんない!でもヤバいかも、よくみえない!」


見えないくらい水飛沫が上がっている?


エリックも溺れているなら、なんとかしてくれる人はいない。


むしろ、私がエリックもなんとかしないと。

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