第15話 突撃! 隣人のお宅拝見

「あなたたちを、わたくしたちの住処に案内したいのですが」


水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”にそう言われた時、リウはピンと来なかったが、エリックは心底驚いていた。


魔法を使う生物の知能は高く、同じ魔法を使える生物に対して警戒心が強い。


人間も例外ではなく、むしろ人間に対して気を許していない生物の方が多いくらいだ。


水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”との交流ももう十年間以上途絶えている。


何十年か前に、フジサキ魔法学舎の生徒が“水辺の隣人“と関わりがあったという噂は聞いたことがあったが、詳細な記録は残っていない。


そんな種族と話せた上、住処に案内されようとしているというのだから、驚かずにはいられなかった。


「本当?お邪魔していいのなら、案内をお願いしたいな」


「ええ。もちろん。あなたは?」


「ぜひ」


“隣人”はエリックの返事を聞くと、にっこりと笑ってから、二人に目を閉じるように言った。


エリックとリウは顔を見合わせて、力強く頷いて目を閉じた。




 一瞬、足がふわっと浮いた。


“隣人”が魔法を使ってリウたちをどこか移動させたようだ。


突然の浮遊間によろけてしまったリウは、着地とともに尻餅をついた。


「せっかく家に招待してもらったのに、手土産もなくて申し訳ないね」


「次に期待させていただきましょう」


頭上からエリックの声が、すぐ横から“隣人”の声がする。


思わず目を開けると、無事に着地したエリックが目の前いて、手を差し出していた。


“隣人”もそばにいて、「大丈夫ですか」とリウに声をかけた。


リウは尻餅をついたまま「お邪魔します」と言ってからエリックの手を取って立ち上がり、キョロキョロと周りを見た。



 洞窟の中のようだ。


リウはどこかの美術館の中にでも飛ばされたのかと思った。


洞窟の中は、見たことのない綺麗なものばかりだった。


壁の高いところに、キラキラ光る苔が生えていて、洞窟全体をほんのり明るく照らしている。


壁には草を編んで作った綺麗な模様のタペストリーが掛けられ、石壁の冷たさを感じさせない。


床は同じく草で編まれた敷物が敷かれていて、マットレスや敷き布団がなくてもぐっすり眠れそうなくらい柔らかかった。


壁の石とは違う、白い石で作られた棚とテーブルは“隣人”たち用のかわいらしいサイズだ。


表面に波模様のような彫刻が彫られている。


テーブルの上には、飴玉のようなものが入った青みがかったガラスの器があった。


リウたちを連れてきた“隣人”は、テーブルと同じような模様のイスを引いて、リウたちに座るようすすめた。


“隣人”が魔法を使ったらしく、かわいいサイズだったイスとテーブルは“隣人”が触れると同時にリウたち用の大きさになった。


まだキョロキョロとしながらもリウたちは座った。


「すごいね。美術館みたい」


「わたくしはあまり詳しくないのですが、父がこういうのにうるさいんです。

お茶を用意して、父を呼んできます。ここでお待ちください」


「あ、ちょっと待って」


エリックはさっき座ったばかりのイスから立ち上がって、部屋を出て行こうとする“隣人”に呼びかけた。


「呼び止めてごめんね。

僕たち、“水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”の家に来るのは初めてだから、失礼なことがあったらその場で教えてほしい」


リウもエリックに続くように


「あと、これが失礼に当たったら申し訳ないんだけど、あなたの名前を教えてもらってもいい?

私はリウ。フジサキ魔法学舎の二年生。あっちは同じ学年のエリック」


「あぁ、名前も言わないだなんて、これはわたくしの方が失礼でしたね。

わたくしはクエンティン・ギーソン・ベラ。これから来る父はギーといいます。

どうぞよろしく」


よろしくね、と順番に握手をしてからクエンティンは部屋を出て行った。


クエンティンの手はひんやりして、モチモチしていた。



 クエンティンを待つ間、リウたちはイスに座り直して、部屋の中の装飾品を眺めた。


「“水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”の家に招かれるなんて、思いもしなかったよ」


「それがどれだけすごいことか良くわからないけど、とにかくすごいのはわかるよ。

クエンティンの魔法も。転移魔法なんて大人でも難しいのに」


エリックはテーブルの彫刻を指でなぞっている。


リウは深く息を吸い込むと、爽やかな――ほんのり青臭い――草の香りがした。




 それほど待たされず、茶器をとお菓子乗せたお盆を持ったクエンティンと、立派なヒゲと眉毛をはやした年長らしい“隣人”が部屋に入ってきた。


彼がクエンティンの父親のギーらしい。


リウとエリックはイスから立ち上がって、ギーと握手をして簡単な自己紹介をした。


クエンティンは父親がイスからテーブルに登るのを手伝ってから、お茶を淹れて二人の前にティーカップ――お茶を注ぐ前に人間用のサイズにしていた――を置き、父親の前にも置いた。


家具の装飾と比べるとシンプルだが、品の良いデザインのティーカップだった。


クエンティンがテーブルの上に登り、二人にお茶とお菓子をすすめてきたので、ティーカップに口をつけた。


リウたちがいつも飲んでいる紅茶より薄い色をしている。


ハーブティーのようだ。


スーっとするような花の香りがするお茶を啜っていると、

水かきのついた手でひげを撫でながらギーが話し始めた。

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