第14話 しゃべるカエル

 靴を泥まみれにしながら、二人は小島の中央へと向かった。


低木や草が生い茂っていて、大音量のカエルの合唱が響いていた。


草地に足を踏み入れた時、雑草の間からカエルが飛び出してきて危うく踏みそうになってしまった。


自分と同じくらい背の高い細い草を草を手でかき分けようとして、エリックが止める。


「手を切るよ。ちょっと避けて」


エリックは魔法で草を押し除け、リウの前を歩き始めた。


逃げ遅れたカエルがキョトンとした顔で草の間から現れた。


「池の周りより、ここの方がいっぱいカエルがいるね。

こんなにいっぱいいるのに、何も聞けないのが残念」


「一か八か、聞いてみる?」


カエルに話しかけるだなんて、らしくないメルヘンチックなことを言い出したエリックに驚いてリウは立ち止まった。


エリックが数歩進んだところで、リウの足音が聞こえなくなったのに気づいて振り返る。


「カエルが私たちの言葉がわかるわけないじゃん」


「普通のやつじゃなくて、ほら」


エリックは、二人の前にぴょこぴょこと歩いてきたカエルを指差した。


リウは立ち止まってしゃがみこみ、カエルを観察した。


青みがかった緑色の背と白っぽい腹、背中に赤みのあるコブが一直線に並んでいる。


リウが一週間前に助けた、池で溺れていたカエルと同じ種類だ。


「あれ?この前池で溺れてたカエルちゃん?」


エリックがリウの横で、膝に手をついて身を屈めて一緒にカエルを覗き込んだ。


カエルは二人の顔を交互に見た。


ビーズのような、キラキラした小さな瞳でリウの顔を見上げている。



「先日わたくしを助けてくれた方ではないですか!」


「カエルが喋ってる!!」


カエルの口から、少し掠れた男性の声が発されたことにリウは驚いた。


「課題に使った『魔法を使う生物図鑑』にも載ってたよ。

帰ったら確認したらいい。

このカエルは“水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”って呼ばれてる。

君はリウに助けてもらったの?」


「はい。足が滑って、突然水に落ちて混乱してしまって……。

あの時はありがとうございました」


水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”は、大きな頭部をぺこりと下げてリウにお礼を言った。


友好的な“水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”の態度をみて、リウは本題を切り出した。


アズサが落としたネクタイピンの話を、“水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”はうんうんと頷きながら聞いていた。


話を聞き終わると、“水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”は少し考える素振りを見せた。


 “水辺の隣人ゲローダ・メ・マギ”がもしネクタイピンの行方を知っているのなら、何かしら手がかりにはなる。


どんな情報でもいいから、教えてほしい。


期待を込めて、リウは“隣人”の目をじっと見た。


“隣人”は恥ずかしそうに水かきのついた手で口の横を掻いた。


「そんなに見つめられたらしゃべりにくいです。

もしかしたら、お探しのものはわたくしどもの住処にあるかもしれません。

わたくしもあなた様に助けていただいたのを父に話した時、会いたがっていましたし……」


一拍、間をおいて“隣人”は、まだ照れているような声で続けた。


「あなたたちを、わたくしたちの住処に案内したいのですが」

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