第12+1話 日常 暗闇を照らせ!ミッドナイトスター!
あー、とだるそうに息を吐いてからリウは叫んだ。
「もうちょっと魔法使いっぽいことがしたい!」
突然の大声に耳を塞ぐのが遅れたエリックがうるさいよ、と文句を言った。
二人は抜け道ではなく、寮の前の芝生に座りこんで暇を持て余していた。
エリックは持ってきたペンを遠くに置いたり引き寄せたりして、物を動かす魔法を練習していた。
リウはカラス寮を囲んでいる憎き木から落ちた枝を組んで遊んでいたが、それも放り出してしまった。
周りではカラス寮の生徒や他寮の生徒たちがキャッチボールをしたり、レジャーシートを引いて寝っ転がったりしていた。
「したかったらすればいいだろ。魔法使いなんだから」
「そうだよ。魔法使いなのに杖も持ってない、ホウキで空を飛ばない、魔法の薬を調合しない、
不思議な生物もいない、冒険もしない!魔法使いなのに!授業すら普通!」
「前にも言ったけど、やりたかったらやりなよ。
法律にひっかかるけど、不思議な生物も作りたかったら作ればいい。
校則にひっかかるけど、冒険したかったらすればいい」
同い年のくせに、やけに冷静なエリックに冷たい視線を送る。
リウが八つ当たりに投げた枝はエリックの魔法ではたき落とされた。
落ちてきた枝をもう一度拾って、杖みたいに振ってみた。
「こんな感じで、魔法使いっぽく……」
実際は杖があってもよく使い方がわからないのが正直なところではある。
昔は力を集中させるための媒介として皆杖を持って魔法を使っていたらしい。
現代ではそこまで強力な魔法を使わずとも生活できるので、誰も使っていない。
エリックも枝を一本拾って、先っちょで円を描くように振ってみせた。
「魔法使いっぽいことをしたいんなら、すればいいじゃないか」
「なに?とんがり帽子でもかぶる?それとも呪文でも唱えようか?」
「呪文ね。いいじゃん。やってみてよ」
リウは手に持った枝を空中に模様を書くように動かしながら、呪文っぽい言葉を考えた。
やっぱり、かっこいいやつのが雰囲気出るよね、と心の中で呟くと思いついた中で一番かっこいい言葉を叫んだ。
「溢れんばかりの光をもたらせ!暗闇を照らせ!ミッドナイトスター!!」
枝を振りながら、光の玉を出す魔法を使った。
昼間でも眩しいくらいの光量の光の玉がリウの目の前に現れた。
周りで遊んでいた生徒たちが、リウの声量と魔法の光量に驚いて、一斉に二人に注目した。
「えっ、なに?呪文?」「ミッドナイトスターって何?」「夜なのに明るいの?」
「あれって……」「カラス寮の代表生の弟と、変な編入生じゃない?」
集中する視線とツッコミがリウのメンタルをチクチクと刺した。
隣では苦虫を噛み潰したような顔をしたエリックが、少しでも視線を避けたいと言わんばかりに身を縮こませていた。
やっちまった顔のリウと顔を見合わせ、ますます小さくなる。
リウは自分が出した光の玉のまぶしさを防ごうと、顔の前に手をかざしたが、指の隙間から光が漏れてくる。
「声が大きいよ。深夜なのか明るいのかハッキリしないし」
「そんなに明るいやつを出したつもりはなかったんだけど……」
エリックが光の玉を消そうとしたが、リウの気合いの入った呪文と共に使った魔法は強力だったらしい。
どう魔法を使っても光の玉は消えなかった。
まだ生徒たちは二人をチラチラ見ながらお互いに何かささやきあっている。
「これで気が済んだ?魔法使いっぽい気持ちになれた?
偉大な魔法使いリウ、この視線から逃げられる呪文を唱えて」
「もう呪文はいいよ!」
リウは勢い良く立ち上がると、視線から逃げるようにカラス寮の方へと駆け出した。
「ちょっと、ミッドスターが置き去りだよ」
エリックもリウを追って走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます