第10+1話 日常 マックスにも持たせなよ
同学年の風紀委員二人がテーブルに置いたバインダーを囲んでいるのを眺めながら、リウはハチミツの入った紅茶をすすった。
ハチミツは甘い物が好きなエリックが食堂で分けてもらったもので、紅茶にもトーストにも大量にかけていた。
「このハチミツおいしいね、いいにおいがする」
「だろうね」
「そう?良かった」
バインダーから顔を上げず、エリックは投げやりに、アズサはふんわりと笑って返事をした。
「ねえ、風紀委員って具体的には何をしてるの?」
リウに質問をされて、アズサが顔を上げた。
バインダーを覗き込んでいたエリックも顔を上げてリウを見る。
「寮の雑用だよ」
「寮のこと?」
「寮の新入生の面倒を見たり、行事を仕切ったり」
「備品の管理をしたりね」
アズサがバインダーからシートを一枚抜き取ってリウに見せた。
チェックリストのようだ。
リストにはトイレットペーパー、雑巾、掃除用洗剤といった消耗品の名前が並んでいる。
「必要なものがあったらこれに書いて、用務員さんに買い出しをお願いするの」
フジサキ魔法学舎は、教師ではない十数人の大人たちによって快適な環境が保たれている。
大抵のことは魔法で済ませているらしく、それなりに広い敷地面積を持つこの学校でも少ない人数で事足りるらしい。
校舎の内外の様々なことを管理している用務員たち、食堂には料理人、喫茶室には学生から「マスター」と呼ばれている男性がいて生徒たちにお茶や軽食を出してくれる。
基本的に生徒たちは学校の敷地の外には出ずに生活する。
敷地の外を囲う湖を渡った先に小さな村があり、時々市が立ったり、祭りが行われたりしている。
生徒たちはそういった時や、必要な物の買い出しをするために外出許可をもらって外出することもあるが、まだリウは学校に来てから敷地の外に出たことがない。
「なんだか大変そうだね」
完全に他人事と思ったリウが適当な感想を口にすると、エリックが噛みつく。
「大変だったよ。
最近だと、二年生から編入したやつの課題を見てあげたこととかね」
「へえ、それは大変だったね」
「もう、そのおかげでリウと仲良くなれたからいいでしょ」
アズサがたしなめると、エリックがどうだか、と口をとがらせた。
良かったね、とアズサの言ったことを盾にしてリウが調子に乗る。
確かにアズサとエリックと仲良くなれたのは二人が風紀委員だったからだ。
同性のアズサは毎朝リウを起こしてくれた。
人の領域に土足で上がり込んでくるエリックの失礼さのおかげで、短期間でここまで何でも言い合える仲になった。
風紀委員会には感謝するべきだろう。
課題を手伝ってもらった恩もあるし、二人の役に立ちたいと改めて思ったリウは胸を張って言った。
「何か手伝えることがあったら言ってよ」
「そう?なら、今度の買い出しに一緒に来てほしいな」
ニコニコしながらアズサが買い出し用のチェックリストらしき紙をバインダーから引き出した。
リストには細かい文字で大量の品物の名前が並んでいた。
「いいね、荷物持ちが一人増えるならマックスが来なくて済む」
「マックスにも持たせなよ」
「マックスは忙しいから来ない方が良い」
「だね。事務室にいてもらった方が良い」
大量の品物の買い出しに荷物持ち。
リウは教科書から物を軽くする魔法か物を小さくする魔法を探さなきゃ、と心の中で思った。
それと同時に、二人と一緒に学校の敷地の外へ出かけるのを楽しみに思った。
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