第8+1話 日常 ばっちこい!

 休日、暇を持て余したリウとエリックは裏庭で紙飛行機を飛ばしていた。


紙飛行機を投げ、魔法で飛距離を伸ばして競っていたが、飽きるにつれてお互いに紙飛行機をぶつけ合うことに夢中になった。


魔法を使うのに慣れているエリックの方が一枚上手うわてで、リウは防戦一方だった。


「次のは痛いよ。ちゃんと避けてね」


「ばっちこい! ……痛ぁ!!」


 魔法で誘導された紙飛行機がリウの顔面に直撃した。


誘導する以外にも紙飛行機の重量が増す魔法がかけてあったため、当たったリウは相当痛そうだ。


鼻を抑えながらうずくまるリウに、大丈夫?と全く悪びれず声をかけてエリックが顔を覗き込んだ。


裏庭に隣接しているグラウンドから、クラブ活動に励む生徒たちの元気な声が聞こえてくる。


一際大きく響く男子生徒の声に、エリックが顔を上げてグラウンドの方を見た。


赤くなった鼻の頭をさすりながら紙飛行機を拾ってリウが立ち上がると、

エリックが向いている方を一緒に見た。


「休みの日も練習してるんだね」



 フジサキ魔法学舎は一般の学校と同じようクラブ活動が存在する。


運動部から文化部まで幅広くあるが、リウもエリックもクラブに所属していなかった。


エリックは風紀委員の活動で忙しく、リウは遅れた一年を取り戻すための課題でクラブ活動の見学に行けなかったため、無所属のままだ。


「リウも入ればいいのに。この前誘われてたでしょ、なんで断ったの?」


寮生たちや授業が一緒で話すようになった生徒たちにボードゲーム部やティーパーティ・クラブに誘われることもあったが、所属しないまま時々活動に参加させてもらっていた。


リウが気まぐれに遊びに行くと、両クラブの部員たちは大歓迎して席を増やしてくれるのだった。


「クラブに入ったら、義務感とか責任感とかで楽しめなくなっちゃいそうなんだよね」


「無責任だなぁ」


「エリックだって私と一緒に遊びに行ってるじゃん」


リウが歓迎される理由のひとつとして、リウが来る時はエリックとワンセットだからという点があった。 


兄たちにボードゲームで散々負かされ、鍛えられた末っ子のエリックはボードゲームが強かった。


学年が上のボードゲーム部の部長は、得意だというゲームでエリックに負けてから、二人が来るたびに勝負することを楽しみにしていた。


ティーパーティ・クラブは女子生徒が多く所属しており、エリックの顔は当然持て囃された。



 リウに紙飛行機を持たせたまま、エリックは芝生に腰をおろした。


「僕は無責任な男になりたくないから、行くのもう止めようかな」


「ティーパーティ・クラブの副部長が、次の水曜の活動日にシナモンロールを焼くって言ってたのに残念だな」


「今のナシ。来週水曜日はティーパーティ・クラブに遊びに行こう」


エリックの素早い変わり身に、笑いながらリウはエリックに向かって紙飛行機を投げた。

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