第8話 友人の心配事
「最近、アズサちょっと変だよね?上の空というか」
「僕もそう思ってた」
エリックが委員会でのアズサの様子を話すと、リウは腕組みをして唸った。
最近のアズサの様子を思い返したが、原因に心当たりはない。
リウと同じように腕組みをしてエリックも考え込んでいたが、エリックにも心当たりはなかった。
考え込む二人を、虫とカエルの鳴き声が包む。
ぬるい風が、草木の青臭いにおいを運んできた。
だめだ、これ以上考えても何も出そうにない。
リウは息を吐いた。察せないなら本人に聞いてみるまでだ。
「私がアズサに聞いてみるよ」
それがいいかもね、とエリックが頷く。
エリックは既に一度聞いてアズサに誤魔化されているし、異性に聞かれたくない悩みかもしれない。
あしたは、リウがアズサから話を聞くまでエリックは出来るだけ離れていることにした。
リウがもしアズサから話を聞けたとしても、内容は自分には教えるなとエリックが釘を刺した。
確かにリウにだけ相談した悩みがエリックに筒抜けになっていたら気持ちが悪いし、リウの信用問題にも関わってくる。
魔法学舎で初めてできた友達の信用を失いたくはない。
理解したリウは取り決めに同意した。
この取り決めをした時点で、リウはアズサの悩みの解決方法を一人で探すことが決定していた。
もちろん本人は気付いていなかった。
リウが泣きついてきた時は助け舟を出せばいいだろうと思っていたエリックが、本当に舟を出すことになったことにも本人は気付いていなかった。
お互いの提案を出し切った二人は寮に帰ろうとベンチから立ち上がった。
さっき後回しにした疑問を思い出し、リウがベンチを見ながら、
「このベンチ、誰が置いたんだろうね」と疑問を口にした。
ベンチの背板も座面も丁寧に処理され、ささくれが制服に引っかかるなんてことはなさそうだった。
ぬかるみ避けで敷いてあった板はおそらくこのベンチの端材なのだろう。
同じ種類の木材に見えた。
「DIYが趣味の生徒がいるのかも。もしくは、リウか僕のファン。
きっと、僕たちが抜け道をよく使うのを知ってるんだ。
僕らがここを快適に使えるようにするのが生き甲斐だったりして」
「どっちにしろ感謝しないとね。
あの板のおかげで雨が降った次の日でも靴を汚さずに済むもん」
「あんまり感謝しなくて良い人かも」
エリックがDIY、ともう一度口の中で繰り返した。
「木工作が得意な人に心当たりがあるの?」
「ちょっとね」
なめらかな背板の表面を指の背で撫でて、エリックは池の南側にある
抜け道側に面した窓がいくつも並んでいて、カーテンの隙間から中の明かりが漏れていた。
リウも首をかしげながら同じ方向を見たが、エリックが歩き始めたので池を後にした。
抜け道には、相変わらずカエルの合唱が響いていた。
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