第6話 常習ショートカット

 全ての課題の提出を終えたからには、エリックは寄ってこないものお役御免だとリウは思っていた。


しかし、それに反してエリックはこれまでの日々と同じようにリウと行動した。


並んで授業を受け、昼食を一緒に食べた。


夕食はマックスの隣の席にいる時もあったが、必ず自分の左隣の席を空けてリウが座れるようにしていた。


そのせいでリウは週に一度はマックスの正面の席で夕食をとる羽目になった。



 兄弟の会話を聞いていると、マックスはドライだが冷酷な人物ではないということが読み取れた。


風紀委員の活動についてが話題になることが主だったが、

弟に体調や授業のことを尋ねる時になると口調が和らぐ。


冷淡に聞こえていた声も穏やかで優しいものに聞こえ、案外兄弟を大事にしているのだとわかった。


リウに対しては変わらず無表情で冷淡な話し方だったが、前のように近寄り難い印象はなかった。



 エリックと行動することが多くなってからというもの、リウは寮から食堂に行くまでの抜け道を多用する、ショートカット常習犯になっていた。


そもそもエリックがショートカット常習犯であった。


他の寮生は急いでいる時や遅れそうな時にだけ抜け道を使っていたが、リウたちは時間に余裕がある時も抜け道を使うヘビーユーザーだった。



 ある日――雨が降った日の翌日だった――、リウはいつものように抜け道を使って食堂に向かっていた。


時間に余裕はあったが、午前中の授業でたくさん頭を使って空腹だったので少し早足で抜け道を歩く。


池の横に誰かが敷いた板おかげで、ぬかるみに足をとられずに歩けるようになっていた。



 板を渡っていると、すぐ脇の池の中で何かが小さな水飛沫をあげているのが見えた。


近寄ってみると、カエルのような生き物が水の中でもがいていた。


――もしかして、カエルのくせに溺れてる?


溺れているカエルは自力で陸地に戻れそうには見えなかった。


リウは袖を濡らさないよう捲ってから、腕を伸ばしてカエルっぽい何かをすくって手のひらに乗せた。


青みがかった緑色の背と白っぽい腹。


実家の近くでよく見たアマガエルに色は似ているが、サイズはアマガエルよりかなり大きく、リウの両手を合わせたくらいの大きさだ。


背中に赤みのあるコブが一直線に並んでいた。


課題のための資料として渡された『魔法を使う生物図鑑』の中で似たような生き物を見た気がしたが、空腹のリウは思い出せなかった。


カエルは突然すくい上げられたことに驚いたのか、大きく口をあげてぜえはあと息をしていた。


しばらく眺めていると、カエルの呼吸が落ち着いてきた。


リウは足元の板の上にカエルを置き、さっさと食堂へと向かった。

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