第6+1話 日常 悪い顔しても僕の顔は悪くないから

「魔法学校っていう割にはあんまり普通の学校と変わらないよね。

授業の内容も魔法を使うのってそんなにないし」


「そりゃそうだよ。卒業したら僕らは普通の職業に就くんだから。

『職業・魔法使い』ってあまりないし。

スポーツとか楽器の演奏が得意なのと一緒だよ。

特技のひとつみたいなもんだよ、魔法って」



 午前中の授業が終わり、リウとエリックは食堂で並んで座って“あんまり普通の学校と変わらない”昼食のサンドイッチを食べていた。


入学初日の夕食の時は寮ごとに固まって座っていたが、それ以降は生徒たちは所属寮に関係なく、それぞれ好きな場所に座っていた。


リウとエリックは、食堂の西側の席に座っている。


窓に近い席で、裏庭からまる見えなので好んで座る生徒はいない。


二人はむしろ裏庭がまる見えのこの席を気に入り、指定席にしていた。



「呪文とか無いし、杖も使わないし、ホウキで飛んだりしないし、薬を調合したりしないし」


「呪文を唱えたかったら唱えればいいし、杖を使いたかったら使えばいいし、

ホウキで飛びたかったら飛べばいいし、薬を作りたかったら研究生になって調合資格をとればいい」


「そうなんだけど。もっとこう……ファンタジーみたいなの」


「話してる言葉が違うリウと僕がこうして話してるだけで充分ファンタジーだと思うよ」

 

世界中から生徒を集めているフジサキ魔法学舎は、生徒や教師の話す言語が違っても理解できるよう翻訳される魔法が敷地内にかかっている。


そのおかげで母国語が違うリウとエリックの会話が成立している。


他にも学校生活に不便がないように様々な魔法がかけられているらしいが、その全てを把握している生徒はいない。



 食事を終えたエリックが食器を横に押しやって呆れた顔をした。


釈然としないリウはサンドイッチからトマトを引っ張り出して先に口に入れた。


その様子を見ていたエリックは「行儀が悪いな」と言いながらテーブルの上のぺーパーナプキンを取ってリウに差し出した。


リウはトマトの汁で汚れた指で受け取ってそのまま拭くと、サンドイッチに齧り付いた。



 エリックの名前を呼ぶ声が聞こえ、リウはサンドイッチを持ったまま振り向くとマックスだった。


マックスエリックに、夕食前にある委員会の会議を忘れていないかと確認しにきたらしい。


「大丈夫だよ」


「そうか」


マックスはリウを一瞥いちべつして、食堂から出て行った。


「私、マックスのあの表情しか見たことない」


「他の顔を見る方法教えようか」


「なに?」


リウは無表情以外の顔のマックスに興味は無かったが、マックスの表情を変える方法には興味があった。


実は小動物が大好きで子猫をみたら破顔するとか、お化けが苦手で怖がらずにはいられないとか、そういうものをエリックが教えてくれることに期待していた。


「まず、マックスをぶん殴る」


マックスを良く知るエリックは、全人類に共通するであろう『他人の表情を変える方法』を教えてくれた。

 

「やらないよ」


「僕はやれなんて言ってないよ」


テーブルに頬杖をついているエリックは何故か少し得意そうな顔をしていた。


今度はリウが呆れ顔になった。


「初めて話した時より表情変わるようになったなって思ってたのに。

悪い顔ばっかり得意になったね」


「悪い顔しても僕の顔は悪くないから」


「うわ、ナルシスト」


「僕はナルシストじゃないし事実でしょ」


悪びれず言うエリックにますます呆れ顔になるリウ。


実際、どんな悪どい表情をしてもエリックの綺麗な顔は画になる。


エリック本人はナルシストではないが、自分の整った容姿を自覚していることは確かだった。


「確かにそうだよ。じゃあその悪くない顔で笑顔の練習してよ」



 エリックは少し考えてから、

わざとらしく片方の口角だけ上げて悪い笑顔を作った。

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