第4+1話 日常 うちの寮と違って新しいね
「あっちがカワセミ寮で、あっちがヤマセミ寮」
カラス寮の前の芝生にレジャーシートを引いてお菓子をつまみながら、アズサが少し離れたところに見える、道を挟んで建つ他の寮棟を指差しリウに教える。
「うちの寮と違って新しいね」
リウは他の二つの寮を見てから、自分の寮の建物に目をやってから言った。
新しいとは言ってもカワセミ寮棟もヤマセミ寮棟も新築ピカピカというわけではない。
あくまでカラス寮と比べると、だ。
カラス寮は共用部分こそ魔法で整えているものの、生徒が寝起きしている各部屋は生徒自身で管理することになっているらしい。
リウの部屋は長い間誰も使っていなかったらしく、床板は踏むときしんで音を立てる箇所があるし、ドアのレバーハンドルの端っこはガリガリ削れた跡があった。
なんとか自分で直せないかと魔法を使ってみたのだが、効果はなかった。
アズサも横にあるカラス寮を見た。
壁にはツタが這い、木立に囲まれてどことなく淀んだ空気が漂っている。
「他の寮を建て替えるときにもう一棟建てたらよかったのにね」
ヤマセミ寮の隣に、もう一棟同じような建物が建っているのを見てリウが「ほんとにね」とこぼす。
リウがうらやましそうに見ている建物は特別生と研究生のための宿舎、通称「大人寮」だった。
特別生は、一般の学校を卒業してから魔法を学ぼうと思った大人の学生たちだ。
受験するのに年齢制限と、魔法使いとしての素質の有無が問われるらしい。
特別生たちも各寮に所属はしているが、大人寮で寝起きする。
リウも、子供たちに混じって授業を受けたり、クラブ活動に参加している大人たちをよく見かけていた。
どの大人も魔法を学べる喜びで目がキラキラしていた。
それとは反対に、死んだ目をしているのが研究生たちだ。
フジサキ魔法学舎で六年間魔法を学び、卒業したあとさらに四年間、学舎に残って魔法の知識や実技に磨きをかける。
研究生になるには教師に推薦してもらう必要がある。
成績優秀で品行方正、クラブ活動や委員会などで目覚ましい成績があれば、確実に教師から声をかけられて学校に残留できるだろう。
「古いのは我慢するけど、暗くてジメジメしてるのはなんとかならないのかな」
「あの木、カラス寮の昔の先輩たちが卒業記念に植えていったんだって。
最初に植えた生徒を真似して毎年植えてたらああなっちゃったってことみたい」
「私が卒業する時に何本か切っていったら、毎年みんな切ってくれるようになるかな」
「いいかも。私も切っていこうかな」
アズサが面白い冗談だと思って笑っている横で、リウはどの木を切ったら寮の日当たりが良くなるか本気で考えていた。
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