第7話「あなたは殺人鬼です」
あの日のことを鮮明に思い出した僕は、我に返る。
飢えた獣のような目で見ると、その先には、週刊誌が落ちていた。
もう、先を読むまでもない。後のことは、容易に想像がついた。
「…幸田、宗谷が、死んだ、あと…」
幸田宗也の死を目の当たりにした静江さんは、当然のごとく心を病んでしまった。
もちろん、尼崎翔太も、赤波夏帆も、絶望の淵に叩き落とされた。
精神に異常を来した尼崎翔太は、己を救うために、禁忌を犯そうとした。
そう…。幸田宗也の死体から入手した体細胞を使って、彼をクローンとして復活させようとしたのだ。
尼崎翔太は、優秀な医師で、特に、不妊治療を専門としていた。
彼になら、クローンを作成することが、可能だったのだ。
だが、クローンを作成するには、母体が必要だ。
尼崎が頼ったのは、赤波夏帆だった。
そして、赤波夏帆は、幸田宗也の遺伝情報が含まれた受精卵を子宮に宿し、僕を産んだ。
「…これが、僕が、生まれた理由…」
知らされた…というよりも、思い出した。
細胞に刻まれた、生前の記憶…。
次の瞬間、胸の奥が熱くなり、吐き気がこみ上げた。
「うっ…」
トイレに駆け込む余裕もなく、その場に胃酸を吐き出す。
「ちょっと、青葉君? 大丈夫」
梨花の声がして、足音が僕に駆け寄った。
震える肩に触れられる。
「ねえ、何が起こってるの? 外にいる人たちはどういうことなの? 青葉君、大丈夫なの?」
状況が読み込めていない彼女は、震えた声でそう矢継ぎ早に聞いてきた。
「…大丈夫」
僕は苦い胃酸を飲み込むと、首を横に振った。
「本当に、大丈夫だよ。梨花は気にすることじゃない…。大丈夫。扉の前にいる奴らは、僕が追っ払うし…、僕の体調も、すぐに良くなる。だから…」
だから、君はもう少し隠れていて。
そう言おうと顔を上げた瞬間、心配そうな顔をする梨花を視線があった。
彼女の顔を見た瞬間、視界に赤い閃光が弾け、僕は吹き飛ばされたみたいに、後ずさった。
壁に背中をぶつけて、止まる。
「あ、ああ…、ああ」
まるで幽霊を見た後のように、足が震えた。
「え…、青葉君?」
僕の大げさな反応に、梨花はすっかり困惑している。
「本当に大丈夫なの? 何があったの?」
「…おい、待て…」
僕に近づこうとした彼女を、手で制する。
「…どういうことだよ…」
「は?」
視界にノイズが走り、首を傾げる梨花に重なって、別の女性の姿が見えた。
その女性は、華奢な身体に白衣を纏い、濡れ羽色の髪を肩の辺りまで伸ばしている。顔は小さく、頬の輪郭はなだらか。目は猫のようにツンとしているが、その瞳は、春の陽光のような優しい光が宿っていた。唇は瑞々しく、鼻筋は通っている。
抱きしめたくなるくらい、美しい女性。
それはつまり、梨花と、同じ顔。
「なんで、梨花が…、穂乃果さんと同じ顔をしてるんだよ?」
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