【彼が殺人鬼になったわけ】
【新事実! 二十年前の事務所襲撃事件の本当の動機! 殺人鬼幸田宗也とそのクローン、そして尼崎翔太の全貌に迫る!】
二十年前に起こった殺人事件の犯人、幸田宗也。
なぜ幸田宗也が、二十六人の殺害という、凶行に及んだのかは、彼が自害したために、明らかにされていない。
今回、我々は、出所した尼崎翔太と、赤波夏帆に接触することに成功した。独自取材により、幸田宗也の犯行の動機を入手した。
幸田宗也の凶行の真相を語るには、まず、彼の幼少時代、そして、『木漏れ日の烏』の結成の話から始める必要がある。
今から四十年前。A県××町××村。山際に位置する、小さなアパートのトイレにて、幸田宗也は産声を上げた。しかし、その声を聞いた母親は喜ぶことは無く、手で顔を覆って泣いた。出産の一報を聞いた彼女の母親(幸田の祖母)は、娘を糾弾した。父親も同じだった。
幸田宗也は、生まれることは誰にも望まれていなかった。そして、誰にも喜ばれなかった。なぜなら、彼が産まれたのは、愛ある性行為などではなく、強姦によるものだったからだ。
幸田の祖母は、すぐに孫を縊り殺そうとしたが、何とか母が宥めた。父親も合わさって絞めようとしたが、それも、身を呈して守った。例え憎い男との子でも、殺すことは憚れたのだ。もちろん、「我が子だから」というわけではなく、「刑法一九九条・殺人罪」を考慮しての行動だった。
母を孕ませ、悪魔の子を産ませた元凶は、××村・村長の息子だった。
妊娠が発覚した頃、母は一度だけ警察に相談し、そして、中絶のことも視野に入れて動いた。しかし、当時はまだ、村人同士、地区同士の差別意識が強く、彼らが住んでいた地域は、周りに蔑まれ、忌み嫌われる場所だった。そんな嫌われた地区の人間が、村で最も偉い者の子の不祥事を告発しようが、誰も信じなかった。警察や病院にも、村長の手は回っていて、彼らは母親を退けた。そして、「虚偽を吐いた」などと言って、村ぐるみで母を糾弾した。孤立させた。
中絶することも、警察に相談することもできず、母は幸田宗也を生んだのだ。
母は、憎き男の面影が残る息子を育てることにした。おむつを替え、母乳を与え、泣きじゃくれば抱いて揺さぶった。しかし、そこに母性など存在しなかった。惰性だけが彼女を突き動かしていた。フリードリヒ二世の人体実験のように、ただひたすら、能面のような顔で育児をしたのだ。そのため、幸田宗也の発達は遅れていき、五歳になっても、まともにしゃべることも、食事を摂ることができなかった。感情を上手く表現することができず、腹が減れば泣き、痛ければ泣き、怖ければ泣き、何も無くても泣いた。
この頃になると、母の息子に対する興味は完全に薄れていた。彼が泣けば、黙って台所に向かい、保存してあった適当な食事を皿に出して与えた。飼い犬を相手にしているような気持ちだったのかもしれない。
すっかり無気力になってしまった母親。その周りをついて回る獣のような息子。
悪評はその地域だけでなく、村全体に広まった。やがて、彼女らが住むアパートに近寄る者は少なくなった。
彼が六歳になった時のことだった。母が病を患い、布団から出られなくなった。
幸田宗也は、生まれて初めて外に出た。
初めての感覚に高揚した幸田宗也は、走り出した。土の匂い、風を切る音、空の青さ、陽光の熱さを一身に感じ、突き進んだ。
そうして辿り着いた裏山にて、彼は、当時十四歳だった尼崎翔太に出会った。
尼崎翔太は××村にある中学に通っていたのだが、彼もまた、住んでいた地域のせいで周りから酷い扱いを受けていた。彼の母親は男を家に連れ込んでいたため、家にも居場所がなく、裏山にあった空き地に椅子と机を持ち込み、そこで勉学に励んでいた。
尼崎翔太が持っていた教科書やノート、筆記具に、幸田は強い興味を示した。そして、それらを指し示し、覚束ない言葉で、「これは何?」と聞いた。
この時のことについて、尼崎翔太はこう語っている。
「子どもの脳の発達には、主に三つの段階がある。〇歳から三歳までは脳神経細胞が増え続ける時期。三歳から七歳までに、脳の情報伝達回路が作られる。そして、七歳以降は、その情報伝達回路がさらに発達する。要するに、勉強するなら幼少期の内にしなければならない。そうしないと、勉強しても定着しない。だけど、幸田宗也は、優秀な子だった。『脳が』ってわけじゃなくて、彼の知識に対する欲望が、脳科学の常識を凌駕していた」
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