その②
最近、同じ夢を見る。
夢の中で僕は、刀を携え、ある病院の前に立っていた。
ため息をつくとともに、ガラス戸を押して中に入る。ツンと鼻を突く消毒液の匂い。生ぬるい空気。靴墨がこびりついたリノリウムの床。コツン…と踏み鳴らして、一歩進んだ。
受付には、眠そうにした看護師さんがいて、僕を見るなり、怪訝な顔をした。
「どうされたんですか? 間宮さんならもういないですよ?」
まるで人の心を抉り出すかのような、棘のある声。
「こっちは忙しいんですよ。さっさと出て行ってもらえますか?」
傍らにあった書類を掴み、看護師さんがそう言う。
その瞬間、僕は刀の柄を掴むと、漂う埃を裂くように抜いていた。
もうずっと納屋に仕舞い込んでいた刀はどうしようもなく錆びていて、抜いた衝撃で、赤錆の粉が、煙草をくゆらせたように舞った。
そっと刃に触れると、指先に痛みが走る。切れる痛みというよりも、棘が刺さる痛みだった。
もう斬ることは叶わない。だが、その重厚な様相は、「殴打」という文字を僕の胸に刻んでくれるようだった。
突如刀を抜く僕を見て、看護師さんの目が丸くなる。
「何やっているんですか?」
僕はため息を吐くと、一歩、看護師さんに近づいた。
看護師さんが鼻で笑う。
「あんまり人のことを馬鹿にしていると、警察、呼びますよ?」
その強張った顔に、僕は刀を振り上げた。
そして、鈍りに鈍った、重々しい刃が、その顔に叩きこまれる…。
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