𝑑𝑜𝑟𝑚𝑖𝑟 𝑎𝑢 𝑝𝑎𝑦𝑠 𝑑𝑒𝑠 𝑓é𝑒𝑠 おとぎの国の眠り

𝟝『共同生活』

―――私たちの仮共同生活が始まって一日目

「うぇえええええっ」

iceが大きな声を出す。

「どうしたの？」

「いや、だって……」

私はその問題の物を指でさした。

翔香は分かったのか、

「いやー、だってしょうがないじゃん。ベット2つしかないし」

と事も無げに言う。

そうなのだ。この部屋にはベットが2つしかなかったのだ。

「……でもさぁ、私達って友達だよね？だったら別に一緒の部屋でもいいんじゃない？」

「そりゃまあ、いいけど……」

私がそう答えたあと真都の方を見る。

「あー………まぁ、ベッド、一つは俺のだし。もう一つは好きにしてくれ」

真都もあっさり承諾する。

「じゃ、決まりね。よろしく！」

こうして私たちは同室になり、一つのベットにて寝ているのだが……。

夜中、ふと目が覚めた。

時計を見ると午前3時を指している。

まだ起きるには早い時間だなと思いつつ寝直そうとするが、何だか眠れなかった。

仕方なく起き上がる。

部屋を見回すと二人ともぐっすり眠っているようだ。

とりあえずトイレに行くことにする。

廊下に出ると少し肌寒かった。

もうすぐ夏とはいえ、深夜はまだ冷える。

私は足早に歩いた。

そして用を済ませて戻ってくる途中、妙なものを見た。

それは窓の外に浮かぶ人影。

一瞬幽霊かと思ったがすぐに違うことが分かった。いや、違うのか??

それは見覚えのある人影だった。

『…………てるの？』

分からない。というか聞き取れない。

首をかしげていると、もう一度言ってきた。

「ふぁぁ…………。こんな夜中に何してるの～？」

眠そうな声で聞いてくる。

だが、こちらとしてはそんな場合ではない。

目の前にいる人物は間違いなく人間であるはずだ。しかし……。

「ねぇ、ちょっと無視しないでよぉ。寂しいじゃないのぉ」

その人物は明らかに透けていた。

さらに言えば浮いていた。

これは夢だろうか？それとも現実だろうか？ 私が混乱している間にも、その人は話しかけてくる。

「あれぇ？聞こえてないのかなぁ？」

そこでようやく我に返った。

「き、聞こえています！すみません！！」

慌てて返事をする。すると、

「良かったぁ～…………ふぁぁぁ…………」

分かったかもしれない。この人が誰なのか。

まず、馴れ馴れしい話しかけ方

そして、この家にいる。さらには。浮いている。幽霊にもなれる。人間にもなれる。

そう、あれは確か。翔香だ。

昔、翔香は乾燥わかめが原因で破裂して死んだ。

つまりは、幽霊となっていてもおかしくはない。

これ以上は彼女のことには触れないが、彼女は幽霊だから浮くこともできる。

そう確認して私はほっとした。

これで安心して寝られる。

「あの……それで何かご用ですか？」

「んー……特に無いんだけどぉ。でも、なんか物音したからかなぁ」

そう言ってまたあくびをした。

「あー……じゃあ、お休みなさい」

「うん。寝に行こうか」

部屋に戻る。

部屋に入ると真都だけが眠っていた。

私と翔香はそっと布団に入る。

目を閉じてもなかなか寝付けなかったがそのうち眠りについた。………………

翌朝、目覚めると翔香の姿は無かった。

隣の部屋に向かった。リビングで間違いなかったはずだ。

「うーん。おはよう」

声をかけると二人は起きてきた。

「おはよ……」

（スンスン…………）

鼻を動かす。匂いをかぐ。

うん…？…………良い匂いがする。

「あ、もしかして気づいた？」

何だろう。なんか知っている匂いではある。

「？」

「ふふふ……実はね…………今日の朝ご飯は肉じゃがだよぉ～」

!!好物!!

「!!!肉じゃが!!!!!でも、なんでそれを知ってるんですか!?」

「え？この前言ってたでしょ？」

いつ言いましたかね…………

――数日前――

「ねぇねぇ、そういやiceって何が好きなの？」

「好きなものですか…………。そうですねぇ、冷えたものとか、肉じゃが……小説とか高身長？動物は大体好きですよ。他には…………」

「ストーップ!!ストップストップ!」

何故かいきなり止められてしまった。どうしてだろうか。

間違ったことはしてな…………

「ながいよ!!私も悪いけど、もう少し絞って!!!てか、iceだからice系の物好きなんだね!でも、温かい肉じゃがも好きなんだね!!

じゃなくて、高身長ってなんやねん!!!私よりは背高い…………？のに！」

――――――――

この時のことだろうか……………

「え、じゃがバター好きだったりする？」

「うん。好き…かなぁ～」

「ちなみに何が……」

「おい、飯できたぞ。冷める前に食おうぜ」

真都が呼びに来た。

「ほら、早く食べよう」

―――つづく