𝑑𝑜𝑟𝑚𝑖𝑟 𝑎𝑢 𝑝𝑎𝑦𝑠 𝑑𝑒𝑠 𝑓é𝑒𝑠 おとぎの国の眠り

𝟜「新しい友情」

目的地に着く。

分からないが、どこかに似ている。そんな気がするのだ。

それは、ごく普通の外観だった。アパートだ。

二階建ての木造建築だが、アパートという感じがしない。

「……ここですか？」

「うん、そうだよ」

私はその建物を見上げながら呟くと、彼女はあっさりと肯定した。

そして、そのままスタスタと中に入っていくので、私も慌てて付いていった。

建物の中は薄暗くて埃っぽく、あまり人の気配がない。

「……ここって」

「ん？どうしたの？」

私の問いかけに振り返る彼女を見て、確信に変わる。

この雰囲気には覚えがある。ここは……。

「いや、何でもないです……」

私はそう言って首を横に振った。何故なら、この場所を私が知っているはずが無いからだ。

そもそも、こんな場所に来る理由など無いし、来たことも無いはずだ。……それなのに、どうして懐かしさを感じるのか。

その理由が分からず、少し混乱していると、いつの間にか彼女が階段の前に立っていた。

「こっちだよー！」

彼女は笑顔を浮かべると、元気よく手招きをする。

私は戸惑いながらも彼女の後を追い、二階へと上がっていった。

***

案内された部屋は質素なものだった。家具もほとんど無く、必要最低限のものと、ゲームしか置いていないようだ。

「お邪魔します」

「どうぞ！遠慮なく寛いでね～」

靴を脱ぎ、畳の上に座ると、何とも言えない安心感に包まれた。

やはり、実家と似ているからだろうか。……いや、それよりも気になる事がある。

「あの、聞きたいことが……」

言いかけたところで、人影が現れた。

「はぁ……勝手に連れ込むなよ…………ってか、不法侵入だから！」

現れたのは男の人だ。年齢は20代前半くらいだろう。髪は黒色でボサボサで、無精髭を生やしていた。

服装はジャージ姿で、見るからに不健康そうな顔色をしている。

彼はため息をつくと、こちらを見たまま立ち尽くしてしまった。

「えっと……誰？」

困惑気味の表情で彼が尋ねると、彼女は満面の笑みで答えた。

「私の親友～」

「へぇ、そうなのか。俺は……まあ、適当に座ってくれればいいから」

男はそう言うと、再び大きな溜息をついた。……かなり疲れている様子である。

「あの……大丈夫ですか？」

思わず心配になり声をかけると、男は驚いたように目を見開いた。

「……君こそ平気かい？見たところ普通の女の子だけど……」

「はい、問題ありませんけど……」

私が答えると、男は納得していないような顔をしたが、「そっか」と言って目を逸らした。……何なんだろう、この人は。

そんな事を考えていると、男が口を開いた。

「それで？俺達は一体何をすればいいんだ？」

確かに。私たちは何をするのだろう。

「あ～……その前に、自己紹介したらどう？」

「めんど……」

その割にはしっかりと言おうとして

「あー……名前は真都、歳は23」

と言い直した。意外にも律儀な性格らしい。

しかし、それ以上は何も言わずに黙り込んでしまった。……何か喋るべきだろうか。でも、何を話せば良いのか分からないし……。

困っていると、彼女が明るい声で言った。

「じゃあ次は私の番ね！私は……」

話そうとし始めて真都が

「あーはいはい知ってるよ、そこの子親友なんだし、俺も聞いたし」

と真都が呆れたように言った。

でも、正直詳しく聞いてない。だから聞いてみようと思って話を聞いてみた。

「あ、でも私翔香さ……翔香のことそんなに知らないかも…………だから教えてくれる？」

それを聞いて翔香は喜んでいた。

表情がころころ変わって可愛い。と正直思った。

「じゃあいうね？私は翔香、永遠の14歳。死因は乾燥わかめを食べてのどが渇いたから水を飲んだんだけど、わかめが膨らんでお腹が破裂しちゃったんだ～」

――は？……え？なんて？

死因が乾燥わかめ？？？

「は……はぁ……？」

それに気づいたのか、真都が翔香へ向けて

「おいこら、困ってんぞ」

と言った。

「え？だって本当だし。しょうがないじゃん！」

翔香は口を尖らせて反論した。

どうやら、冗談ではないようだ。

私は苦笑いしながら

「あ、ありがとう……」

と言うと、翔香は嬉しそうに

「えへへ～、どう致しまして！」

と答えた。…………。

「えっと……とりあえず、話を戻さないか？」

真都が申し訳なさそうに呟くと、二人はハッとした表情になった。……何だか二人とも似てるな。と思ったが口には出さなかった。

「ごめんなさい……つい」

「あ、いや大丈夫」

そう言って落ち込んでいると、彼女は急に立ち上がって宣言するように言い放った。

「よし！まずは、友達になろう！」

「えっ？」

「はぁ！？」

突然の提案に、私と真都の声が重なった。

「いや、もうなってんじゃん……」

と真都が小声で突っ込むと、翔香は

「細かいことは気にしないの～」

と笑顔で言う。そして続けて

「というわけで！よろしくね！」

と手を差し出した。……よくわからないけど、まぁいっか。

「うん。これからよろしく！」

私が握手に応じると、真都は小さくため息をついてから

「……はいはい。よろしくな」

と言って微笑んだ。

こうして、私たちの奇妙な【仮】共同生活が始まった。