𝑑𝑜𝑟𝑚𝑖𝑟 𝑎𝑢 𝑝𝑎𝑦𝑠 𝑑𝑒𝑠 𝑓é𝑒𝑠 おとぎの国の眠り

𝟛「本当の姿」

「……私は人間ではありません―――。」

「………うん。…うん。…………？」

なぜそんなに驚かないんだろうか。

不思議な人だ。本当に。

「なぜそんなに驚かないんですか？」

「うーん……。だってソレイユも驚いてなかったじゃん。」

確かにそうだった。

彼女は私のことを知っていたのだ。

だから、私のことも驚かなかったのだろう。

「そう…………ですか。」

そう思うと少しほっとした気持ちになった。

おかしかったからだろう。

二人とも、お互いについて驚かないことが――

「フフッ…………」

ついには口に出てしまった。

それを見ていた翔香も私につられて一緒に笑う。

少ししたら落ち着いた。

そして話を続ける。そうしようとした途端翔香が突然、

「ね、場所変えようか。」

と言ってきた。

その提案はすごく嬉しかったのだが、さすがにこれ以上翔香に迷惑をかけるわけにはいかない。

「いえ、もう大丈夫ですから……」

「いいからいいから！」

しかし、押し切られてしまう。

「はい……」

仕方なくついて行くことにした。だが、どこへ行くつもりなんだろう？ まさか、家に連れて帰る気ではあるまいな……。

だとしたらまずいぞ。

こんな姿を見られてしまっては――

「あの、やっぱり帰ります！お世話になりました！」

立ち上がって帰ろうとすると、翔香に手を掴まれた。

「ちょっと待てっ!!」

「じゃあどこに行けばいいんですか？」

「うちに来て。」

即答されてしまった。

しかしそれは困る。いくらなんでもそこまでしてもらうわけにはいかない。

「そんなの悪いですよ。」

「いいから来なってば！」

また強く言われてしまった。ここまで言われたら仕方がない。

私は翔香の家に行くことになった。

電車で二十分ほど揺られ、私たちは翔香の家にたどり着いた。

翔香の家はごく普通な一軒家だった。

中に入ると、リビングやダイニングなどの他にもう一部屋あった。

そこを覗くとたくさんの服が置いてあった。

どうやらここは翔香の部屋らしい。

翔香は自分の部屋に私を連れてくるなり

「じゃあ、さっきの続きを話そうか。でも、ちょっと待ってね。お茶もってくる。」

翔香はそれだけ言うと部屋を出て行ってしまった。

一人になると急に心細くなってきた。

早く戻ってこないだろうか……。

しばらくするとドアの向こう側から足音が聞こえてきた。

ガチャリという音と共に扉が開かれる。

そこにはティーポットを持った翔香がいた。

「ごめんごめん遅くなった。紅茶しかなかったけどいいかな？」

「はい、ありがとうございます。」

それから二人で話をした。

「まずは、私の友達についてです。」

「うん。」

「私の友達の名前は望愛と言います。彼女はとても優しい子です。いつも私と遊んでくれて、私に笑顔を与えてくれます。」

「うん……」

「ある日のことです。私が彼女を遊びに誘った時です。敵が私の国へ攻めに来ている最中だったのでしょう。」

私の声は震えている。翔香が息を吞む。

「突然、私たちを襲ってきました。」

遂には私の頬を涙が伝っていく。

泣いていた。

「そ………それに………望愛がっ………望愛が戦っていたけど………」

泣きながらだから、途切れ途切れになる。

「私………私…………何もできなくて…………」

「それで…………望愛が…………望愛が……………………」

そこで言葉が出なくなってしまった。

そこから先は言えなかったのだ。

だが、言わなくても分かるはずだ。

翔香の顔を見ていれば――

「うぅ……ぐすっ……ひくっ……」

私は泣き続けた。

翔香は何も言わずただじっと聞いてくれた。

突然、私に翔香が襲い掛かった。

私をぎゅっと抱きしめてくれたのだ。

「わかった。わかったから」

彼女も泣きそうだ。

「ありがと……」

しばらくして落ち着いた私はお礼を言う。

「無理してまでも話してくれてありがとう」

「いえ、そんなことは……」

「ねえ、ソレイユ。」

「何ですか？」

「あなたのことを教えてほしい。」

「どうしてですか？」

「知りたいから。あなたのことをもっと知って、あなたを助けてあげたい。」

「助けるなんて、そんな大層なことではありませんよ。」

「いいから！」

「はい……」

私は自分のことについて知っている限り話した。

―――

「なるほど、まとめると名前はice・ソレイユでiceはスイーニュ国に住んでいて、望愛という友達と一緒に遊んだりしていたのか。」

「はい。その通りです。」

「なんか変な感じだなー。」

「どういう意味ですか？」

「だって、違う世界なのに名前とかは一緒なんだもん。」

「そうなんですか……」

「まあ、いいや。それより、アイス～♪アイス～♪」

「なんですか？その歌は。」

「ああ、これはね、私の好きなアニメの曲だよ。知らない？『アイ○ツ！』っていうんだけど。」

「すみません、わかりません。」

「えっ！？マジで？」

「はい、マジです。」

「そっかぁ。残念だなあ。」

「どんな内容なんですか？」

「それはねぇ――」

「ふむふむ。」

「というわけなのだ！」

「へぇ、面白そうですね。」

「でしょ！今度一緒に観よう！」

「はい、ぜひ！」

こうして私たちは意気投合し、その後も色々と話をした。

そして時間は過ぎていき、外はもう暗くなっていた。

「今日は泊まっていきなよ。」

唐突に翔香が言った。

「でも、それは悪いですよ。」

「大丈夫大丈夫。」

「でも……」

「ほら、行くぞ！」

「あっ、ちょっと待ってください！」

翔香は私の手を取り、部屋を出るとリビングへ向かった。

リビングに着くと翔香は料理を始めた。

「今日はシチューかな」

美味しそうな匂いがした。お腹が減ってきた。

シチューとは何だろう。

シチューというもののいい匂いが私のお腹をくすぐる。

「できた！」

湯気が漂っている。

「待ちきれません…………」

「どうぞ」

「いただきます！」

私はスプーンを手に取り、一口食べた。

「おいしい！！」

思わず声に出してしまった。それほどまでにおいしかったのだ。

「よかった～」

翔香も喜んでくれたようだ。

その後二人で夕食を食べ終えた後、二人で片づけをした。

「じゃあそろそろ寝るか。」

「はい。」

「あ、私このソファで寝ます。翔香さんの方は普通にベッドで…………」

そう言って私はソファに横たわった。

「ダメに決まってるじゃん。」

「でも、翔香さんは女の子ですし……」

「でも、じゃない。」

「でも……」

「でも、でもない。」

「でも、でも……」

「でも、でもでもでも……ってうるさい！！さっさと来いっ！」

結局、私が折れて私は翔香の部屋で布団を敷いて寝た。

「お休みなさい」

「うん、お休み」

電気が消され、部屋が真っ暗になった。

しばらくすると隣からスヤスヤという音が聞こえてきた。

「すぴぃ…………すぴょぉ…………」

これだけ翔香は気持ちよく寝ている。

（よく眠れない……）

私はなかなか眠ることができなかった。

（どうして……？)

その理由はすぐに分かった。

とても心地よいのだ。

誰かと一緒にいるというのがこんなにも気持ちの良いものだったとは知らなかった。

（望愛……）

望愛のことを思い出した途端、涙が出てきた。

望愛に会いたい……。

そんな思いが込み上げてくる。

だが、望愛に会うことは叶わないだろう。

なぜなら、私はもうそこから逃げてしまったから。

元の世界に戻りたくはない。

だから、私はここで生きていくしかないのだ。

だが、私には不安がある。

それは――

私は明日を迎えることができるだろうか？ 私は明日の朝を迎えられるだろうか？ 私は朝起きて今日のことを思い出すことが出来るだろうか？ 私は生きていると言えるのだろうか？

―――と。

考えているうちに私は眠りに落ちていた。

――――

「おはようございます」

目が覚めた時、私は翔香に声をかける。

「んー、おはよー」

翔香はまだ眠そうだ。

「顔洗ってきていいよー」

「はい」

そう言われた私は顔を洗いに行く。

――

「ふぅー」やっとすっきりした。

「あのー」

「なーに？」

「着替えたいのですが……」

「あ、ごめん」

そういうと翔香は自分の部屋へと戻っていった。

（本当にわかってくれてるのかなあ）

そんなことを考えながら服を着替えた。そして、朝食を済ませた私たちは家を出た。

「どこへ行くんですか？」

「それは着いてからの楽しみということで。」

「わかりました。」

そして電車に乗り、目的地へと向かっていった。