𝟚「一時」

昨日、翔香と供に買い物などをした。

楽しい一日だった。きっと私の中では一番の思い出かもしれない。

あの事さえなければ――


今日も出かける。

翔香と待ち合わせだ。

目的とかは分からないけれど呼ばれた。楽しみだ。

翔香が9時の方向から走ってくる。


「ごめん!!待った~?」


私は首を横に振る。


「いいえ。今来たところです。」


そして歩き出す。


「今日は何をするですか?」


「なんだと思う??」


目を輝かせてこちらを見てくる。

聞いてほしかったのか。とてもワクワクと返事を待っている。

彼女、翔香のその素振りが少し可愛く見えた。


「……ショッピングですかね?」


いつもの買い物かな?と思って聞いてみたが、

少し違う気がしてきた。


「うーん……正解はね……水族館!!」


満面の笑顔でこっちを見ながら答えた。


「すいぞくかん………?」


聞いたことのない場所の名前が出てきた。

どこにあるんだろう、何があるんだろう。

聞いた途端、知らない場所で少し怖かったが、冒険のような感じがしてワクワクもしていた。


「そうだよ~!」


「初めて聞く名前ですね……」


「え!?この世の人は水族館を知らない!?ice、お前どこで育った……。まあ…とりあえず行けば分かるよ!」


そう言って私の手を握って走り出した。


「え?ちょっ、ちょっと!」


いきなり走ったため転びそうになった。

だが彼女は止まらず走って行く。

人混みを掻き分けながら走るのはとても大変だったが、彼女がしっかりと手を放さずにしていてくれたのが嬉しかった。

しばらくすると目的地に着いたようだ。

「着いた!ここだよ!」


そこには大きな建物があった。

中に入ってみるとたくさんの魚がいた。

水槽の中にいる魚たちはみんなキラキラとしていて綺麗だった。

思わず見入ってしまった。

ふと横を見ると翔香がいない。

どこに行ったか周りを見てみる。

奥の方へ歩いていく彼女の姿が目に入った。

急いで後を追いかける。

彼女はある所で立ち止まりじっと見つめていた。

そこはトンネル状の水槽になっている所だった。

そこに様々な種類の魚たちが泳いでいる。


「きれい……」


つい言葉に出てしまった。

本当に綺麗な光景だったからだ。

隣にいる翔香はただ黙って見ていた。


「こんなにもたくさん見たことがない魚がいるなんて知らなかった。」


今まで海の中を見たことがなかった私は感動してしまった。

もっと色々なものを知りたいと思った。


「気に入ってくれてよかった!」


そう言うとニコッと笑った。

私もつられて微笑む。

その時の笑顔はとても眩しくてずっと眺めていられるようなそんな顔だった。

その後も二人でいろんなところを回った。

どの場所に行っても楽しかった。

また来ようと思いながら過ごした。

そろそろ告げる時が来た――


「あ、あの……翔香さん……」

緊張しながら話しかけると、


「どうした?」


優しく聞き返してくれた。

その声を聞いて安心し、勇気を出して言った。


「私……少し前、翔香さんに会ったの覚えてますか?」


「うん。それがどうかした?」


「…私、あの時ローブを着ていました。」

「……うん。…………うん?」


意味が分からないといった顔をしている。

当たり前だろう。いきなり言われたら誰だってそうなるはずだ。


「……………………ローブを着ていて変だとは思いませんでしたか?」


言おうかどうか迷ったのだ。でも言わないと何も始まらない。だから話を続けることにした。


「……私は人間ではありません―――。」


~第四章~完~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る