𝑑𝑜𝑟𝑚𝑖𝑟 𝑎𝑢 𝑝𝑎𝑦𝑠 𝑑𝑒𝑠 𝑓é𝑒𝑠 おとぎの国の眠り

𝟙「親しい友達」

※iceの秘話の続きです。

辛い…悲しい…何もかもが嫌なんだ…

もう疲れた…

――望愛のいないこの世界は

　　　　　　私にとっては廃墟に過ぎない――

(歩き疲れた。せめて食事をしなくては…)

そう思ったが、手元に食料なんかない。

杖で出すことなんかもできない。

出来たら羨ましい。

MPもどんどん削れていく…

そんなとき、誰かが話しかけてきた。

「君、面白いねぇ～」

「？？？」

ちょっと意味が分からなかった。

何が面白いのか。おかしいのか。

「だってぇ～こんな街中でローブ来てる人見たことないよぉ～？」

「え？」

さっぱり分からない。とりあえず持っていたローブを着ていたが、

ここの人々は着ないのだろうか。

「どういうことですか？？」

気になったので質問してみた。

「？どういうことって、ここ、街、だよ？」

いや、それは分かっているのだが。

そういう事を聞きたいわけじゃない。

「あのですね……」

言いかけたところで遮られた。

「あー分かった！名前聞いてないから聞きたいんだね！」

確かにそうだ。私は名乗っていない。

「あぁすみません。自己紹介がまだでしたよね」

と、一応謝った。

「私は……ソレイユ………ソレイユといいます」

すると彼女は

「へぇ～珍しい名前だねっ！わたしは翔香。」

と言ってきた。

「それで……ここはどこなんでしょう？」

と聞くと

「え？この街のこと知らないの？？ここ、日本だよ？」

「ニホン？？聞いたことがないです……」

と返すと、

「うそ！？まじで言ってんの？？」

と言われた。

嘘をついてどうするのだか。

「本当ですよ」

と言うと、

「ふぅん……。じゃあどこから来たの？」

と聞かれたので

「ここからずっと遠いところです」

と答えた。

「へぇ～そうなんだぁ～」

と返された。

「それで……そのニホンというのはどんなところなんです？」

と聞くと

「えっとね～人がいっぱいいるところかなぁ～」

と答えてくれた。

「人はたくさんいるけど……それだけではなさそうですね」

と呟くと

「うん！……うん…？」と疑問形で返してきた。

「まあいっか！それよりご飯食べようよ！」

と誘われたが断った。

「ごめんなさい。今は持ち合わせがないのです」

と答えると

「大丈夫！お金ならあるから！」

と返ってきた。

「いや、あの…そういう問題ではなくて……」

と断ろうとすると

「いいから来なってば！！」

と強引に連れて行かれた。

―――これが彼女との出会いだった。

そしてこの出会いが私の運命を変えることになるなんて思わなかった。

―――この出会いが私の運命を変えた。

彼女に連れられ、飲食店に着いた。

中に入るととても賑わっていた。

「いらっしゃいませっ！！何名様でしょうか？？」

「2人です！」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

2人で席に座る。

「何食べる？なんでも頼んで良いよ！」

と言われてしまったので遠慮なく頼むことにした。

「お決まりになりましたらそちらにあるベルを押してください」

「はい！」

注文を終え、料理が来るのを待つ。

その間、彼女が話しかけてきた。

「ねぇ、あなたってどうしてここに来たの？」

いきなり聞かれても困る。それに答えられるはずもない。

「なぜそんなことを？」

「だって、こんなところにくる人ってあんまいないし、それになんか不思議だからさ」

「そうですか……」

「あとね、私と同い年くらいなのに敬語使うんだもん！もっと砕けて話せばいいじゃん！」

と返されてしまった。

「いえ、これは癖なので……」

「ふぅん……」

しばらく沈黙が続いた。

それから少し経った頃、彼女が口を開いた。

「あのね、ここに来る前、何してたの？」

また難しい質問をしてくるものだ。

だが、もう慣れた。

「普通に生活していましたよ。何も変わりない日常を過ごしていました」

「ふぅん……」

また同じ言葉で返事をされた。

相手のことも気になるので、

「あの、逆にあなたの話を聞かせてもらえませんか？？」

と聞いてみた。

すると彼女は

「うーん……。別に良いけど……」

と言い、話し始めた。

「あのね、わたし、実はね…死んでるんだぁ～」

衝撃的だった。まさか自分がもう死んでいたとは……。

「それは……いつの話なんですか？」

「えーっと、？年前かなぁ……」

意外にも最近だ。でも、生きていた頃の話は聞けない。

「あの、今の生活には満足していますか？？」

と聞くと

「そりゃぁ、とっても楽しいに決まってんじゃん！」

と答えてくれた。

その後も会話をしていると、注文していたものが来た。

「お待たせしましたっ！」

と店員さんの声が聞こえた。

――望愛……この世界の人たちは幸せそうだよ……

（食事を済ませ、会計をして外へ出た）

「翔香ちゃん……ありがとう。とても美味しかったです」

とお礼を言うと、

「翔香でいい！それと、その言葉使いは禁止！」

と言われた。

「じゃあ翔香、これからどうするの？」

「うーん……」と悩んだ素振りを見せた後、

「ちょっと買い物したいからついてきてくれない？」

と言った。断る理由もないので、

「うん、分かった」と返すと、

「ありがと！じゃ、行こっか！」

と言って歩き始めた。

（翔香に連れられやってきた場所は服屋だった。しかも女性物しか置いていない）

「ここは……？」

と聞くと、「洋服屋だよ」と返ってきた。

どうやらこの世界には様々なものがあるらしい。

「これどうかな？」

と聞かれたので

「とても似合っていると思いますよ」と返した。

そう言うと

「そうじゃなくてぇ～、着て欲しいんだけど」

と返された。

正直戸惑った。私が日本の服を着るなんてことは今まで1度もなかったからだ。

「いや……私は……」

と、言いかけたとき、

「あ、お金は心配しないでね！ちゃんと持ってるから！」

と言われた。どうしたものか。

（その後、試しに1着だけ買うことを許してもらった。そして家に帰ると早速買ったものを着てみることにした）

……なんだこれは。凄く心地が良い。それに動きやすい。

こんなに良いものを貰ってしまったのだ。感謝しかない。

その日はずっと鏡の前でいろんな角度から自分を見たりしていた。

（それからというもの、毎日のように街へ行くようになり、彼女と過ごす日々が増えてきた。彼女のことをよく観察して見ると、いつも誰かと一緒にいて、笑顔が絶えず、とても楽しそうにしている姿を見ると私まで楽しくなる、といった感じだった。私もこの世界に馴染んでいくにつれて自分の名前を忘れつつあった――。）

――この世界での暮らしに慣れ始め、数ヶ月が経ったある日のこと。

今日もまた彼女に会いに行く。最近はそれが楽しみになっている。

――しかし、この日は違った。

待ち合わせ場所に着くと、そこには彼女の姿がなかった。

おかしいと思い、しばらく待ってみることにする。

すると数分後に彼女が来た。

「ごめんごめん～遅れちゃった！」

と言うので、

「大丈夫ですよ」と答えた。

「それでは行きましょうか」

と言い、目的地へと向かう。

そして到着してから数十分経つと、彼女が口を開いた。

「ねぇ、私たちってさ、もう結構仲良くなったよね？」

突然何を言い出すのかと思ったらそんなことか。確かに、私もそう思う。

「そうですね。もう友達と言える仲になったかもしれませんね」

と返してきた。

これからも私の、いや、私たちの生活は続いていく。

彼女、翔香によって私の生活はともに続いていく。

～第三章～完～