第2話 恐怖

私は今、また外に出かける準備をしている。

あれ以来から、私たちはよく花畑で遊んでいた。

その時には私と望愛は、花についての話をしていた。


「ねえ、今日は一緒に私の国に来ない?」


望愛は答えた。


「うん! 行く!」


そう言って、花束を抱えて望愛が嬉し気に返事をした。


「やった…!!」


私がそう言うと、望愛は嬉しそうにこっちを見た。

そして私たちは手をつないで、歩き出した。

あの日、あの時……望愛に出会っていなかったらどうなっていたのだろう? 今でも時々考えることがある。

でもそれはもう過去のことなのだ。

考えても意味がないことは分かってる。

それでも…会っていなかったら……


そんなことを考えながら、私は望愛と一緒に外を歩いていた。

―――これから先もずっと一緒にいられるように……

せめて、この願いだけは…叶うといいな……。


そうこう考えているうちに、私の国についた。


「わぁっ!ここが、あなたの住んでいる国なんだねっ!!」


望愛は目を輝かせていた。

私は微笑んで言った。


「えぇ、今日は沢山遊んでって!!」


「もちろんよ!じゃあ、早速行こう!!」


「うん、分かった。」


そして私たち二人は走りだした。



初めに行ったのは、私がよく通っていたお店だった。


「ここは、どんなものが売っているところなの?」


望愛は興味津々といった様子で聞いてきた。


「ここにはいろんなものがあって楽しいんだよ。」


私がそういうと、望愛は嬉しそうな顔をして店内を見回していた。


「本当だ! すごく楽しそう!」


「ふふっ、良かった。」


それからしばらく色々なところを回ってから、今度は街の中心に向かった。

そこには噴水があったり、綺麗なお店がたくさん並んでいたりする場所があるのだ。


「見て!! 人がいっぱいいるよ!!」


「そうだね。この街では一番人が多いかも……」


そう言いながらも、私は辺りをキョロキョロ見渡している望愛の方に目を向けた。


「ねえ、何か欲しいものとかある?」


私が聞くと、望愛は首を横に振った。


「うぅん、大丈夫だよ。それより早く行こっ!」


「あっ、ちょっと待って!!」


そう言って走っていく彼女の背中を追いかけていった。

それから少し時間が経って、


「そろそろ帰ろうか。」


私がそういうと、彼女は残念そうな顔をしながら返事をした。


「えーっ!?まだ帰りたくないよぉ~。」


彼女が駄々をこねる。


「でももう遅い時間だし……それに、また明日も会えるからさ。」


「……うん、わかった。」


そういって納得してくれた望愛を連れて、私たちは家に帰った。

そして次の日の朝、いつものように花畑で会う約束をしていた。

望愛はいつものように、いつもの場所にいた。


「やっほー!望愛」


昨日のうちに気軽に名前を呼び合えるような友達になったのだ。


「おはよう! ice!」


望愛が元気よく挨拶をする。

私も笑顔で返す。


「ねぇ、今日は何をして遊ぶ?」


すると、望愛は満面の笑みを浮かべて答えた。


「実はね、この近くに川があるんだけど…そこで魚釣りでもしない?」


「うん!いいよ!……でも釣れるかな?」


不安になって聞き返した。


「とりあえず、やってみようよ!きっとiceにもできるよ!」


「そうだね。よし、じゃあ行ってみようかな」


そして二人で森の中を歩いていった。


「ここがその川だよ。」


望愛に言われてみると、確かに大きな川が見えた。


「わぁ……すごい大きいね!!」


「そうでしょう?……じゃあ、早速始めましょう!」


そういって、私たちは準備を始めた。


「準備できた?」



「うん!バッチリ!」


そういって私たちは、それぞれ竿を持って川に糸を流し込んだ。


「なかなかかからないね……。」


「まぁ気長に待ちましょう……。」


そういってしばらく待っていると、急に竿が引っ張られた。


「えっ?……きゃっ!!」


あまりの突然のことに驚いてしまった。


「わぁっ! 私のほうも来たよ!」


望愛が嬉しそうに声をかけてきた。


「わっ、わわわわわわっ!!」


焦ってしまい、うまく言葉が出てこない。


「落ち着いて!ゆっくり引き上げれば大丈夫だから!」


望愛がそういって、なんとか引き上げることができた。


「やったぁ!釣れたよ!」


望愛が喜んでいる。

私が釣れただけで喜んでいる。

私も嬉しい。


「わぁ……こんなに大きな魚が……。ありがとう!望愛!!」


「いえいえ、どういたしまして!」


そういって、私たちは笑いあった。

その日は結局何匹か釣って終わった。

そしてまた次の日も同じ場所で遊んだ。

望愛と一緒にいる時間は本当に楽しくて、ずっとこのまま一緒に居たいと思った。

だけどそんな日々は長くは続かなかった。


―――ある日のこと。

「ねえ、今日も遊ぼ!」


望愛は嬉しそうに答えた。


「うん!」


何かを隠すように答えた。

何故かはわからない。でも、また一緒に出掛けた。

望愛と一緒に出会ったあの場所。

そう、花畑に。

着いたら二人で晴れた空を見上げながら寝転がっていた。


「覚えてる?望愛」


あの日のこと、忘れるはずがない。

そう思って聞いた。

だけど、


「…あ、うん!」


望愛が、また隠すように答えてきた。

気になって仕方がなく、聞いてしまった。


「どうしたの?望愛」


聞かれたくなかったのか、戸惑っていた。

聞かれたら仕方が無かったのか、答えた。


「あ…あのね!…」



そう望愛が言おうとしたとき、

私の国、スィーニュ国から煙が上がっていたのだ。


「…な…何あれ…」


嫌な予感がした。

早く国に帰らなきゃいけない気がした。

でも怖かった。

一人が怖かった。

考えているうちに複数の人の足音と金属音が聞こえてきた。


鎧を着た敵国の「minuit国(ミニュイットこく)」の兵だった。

それだけではなかった。

よく見たら、幹部だった。

その国の幹部は、私たちを見るなり、


「敵だ!!殺れ!絶対一人残らずに殺れ!!」


と叫び、こちらに走ってきた。

私は恐怖で動けなくなった。

だが望愛は違った。


「iceを殺させない!!!」


そういうと、剣を取り出し、戦い始めた。


「望愛!?」


私は驚いた。

そして急いで加勢しようとした。

でも、足が出なかった。

足は震えている。動けない。


(どうしよう…どうしよう…どうしよう!!!)

(私、何もできないなんて絶対嫌…でも…でも……)


考えても考えてもまとまらない。


始まってしまった。


しかし、圧倒的人数により殺されてしまった。

望愛が……


死んだのだ。

目の前で、殺されたのだ。

私のせいで、私が弱いせいで。

私は望愛を抱えた。


「ごめん…ごめんね…ごめんね……」


私の声は弱くなっていく。

怒りが込み上げてきた。

敵に対する怒り。

望愛を殺した怒り。

そして、弱い自分への怒り。

私は叫んだ。


「許さない……絶対に……!!」


懐から杖を取りだした。

本によく出てくる杖だ。

でも、小さい。

iceがとった瞬間、大きくなった。

そして、彼女はこう言った。


「ティモリア(罰)」


と。言葉を走っている最中に、紫色の何かが杖に纏っていた。

言い終わったと同時に、周りにいた敵すべてが吹き飛んだ。

死んだのだ。


(やってしまった…)


殺めたことに罪悪感を感じる。

それよりも怖かった。


(まだ怖い…ここにいるのが怖い……)


分からない。でも怖かった。


(逃げたい……そうだ、逃げよう……逃げなきゃ……)


必至に走って逃げた。

望愛が死んでしまったあの場所から……敵から……敵を殺めてしまった私から……


~第二章~完~𝑑𝑜𝑟𝑚𝑖𝑟 𝑎𝑢 𝑝𝑎𝑦𝑠 𝑑𝑒𝑠 𝑓é𝑒𝑠 おとぎの国の眠り 一話につづく~

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iceの秘話 ice・ソレイユ @soreiyu_ice27

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