気が気じゃない夜
晶が風呂から戻ってきて、とんでもない格好で俺の目の前に現れた後。
俺は自分の邪な感情と、今の晶から目を逸らすように、
晶はというとベッドの縁に腰掛けている俺の後ろで、ゲームが映し出されているモニターを見たり、俺の部屋にある漫画を適当に読んだり。それと時たま俺と適当な雑談をしたりとか。
あぁ、うん。晶が遊びに来たりとかするときは大抵こんな感じだし、なんなら昼もこうやって暇潰ししてたし、いつも通りの光景ではあるな。
まぁ? 晶が裸ワイシャツなんて姿でなければの話だけどさ。
「あとちょっと。頑張って」
晶の言葉に、死にゲーをプレイしている俺の手に思わず力が入る。
気色の悪い大型の獣の姿をしたボスの体力はミリほどしか残っておらず、こちらの回復薬も残ってはいない状態。油断しておざなりに攻撃しようとすると、広範囲の高火力な攻撃でご臨終なんて未来が待っている。
夕飯までの暇な時間にも同じゲームをしてたけど、数時間ほどこいつに食われたからな。そろそろ決別させていただきたい。
だから、こういう時は焦らず初心に帰って――
「――よしっ!」
確実な隙に一撃を加えて、フィニッシュ。
最終的な見た目は地味だけど、俺は確かな充足感を感じて、思わずガッツポーズしてしまった。
「お疲れ様、ナツくん」
「おう、さん……きゅ」
俺は後ろから声をかけられて反射的に振り返ると、そこには先程見た姿と変わらない晶が。
あー…………ボス倒せたの嬉しすぎて、今の晶の恰好の事、忘れてた……
ほんのりと頬を赤くしている晶は静かに俺の隣に座ってから体を寄せてきて、潤んだ瞳で俺を見上げてくる。
そんな状態の晶を見下ろすと、必然的に彼女の肢体が目に入った。
ワイシャツに包まれて、深い谷間を作り出している胸に目が行き、次いで裾から伸びる健康的な太ももを目でなぞってから、最後はその付け根――――ってなに考えてんだ俺!?
「ナツくんは、もう寝る?」
「え? えっと、そうだな……」
欲望を振り払いながらスマホで時間を確認すると、午後10時半頃。ゲームに熱中しすぎてて、1時間とちょっとがあっという間に経ってしまっていたらしい。
確かに、そろそろ寝たほうがいいかもしれないな。
明日明後日は休みだし、特に朝に起きるような必要もないけど、『習慣ってのはなるべく崩さない方がいい』というのは母親の談。
あのときの母さん、とんでもなく遠い目で話してて今でも印象に残ってるんだよな。
「晶はまだ起きてるか?」
「ううん、ボクもそろそろ……眠くなってきちゃった」
「じゃあまぁ、寝ますか」
「うん」
頷いた晶は、そのまま俺のベッドに潜り込んでから、俺を見つめてくる。
…………え、あれ?
なんで晶は俺のベッドで寝ようとしてるんです?
「こっちで寝るんじゃないのか?」
俺は呆然としながらも、晶がわざわざ美佳の部屋から持ってきた布団を指して問いかける。
そんな俺に対して、晶はもじもじとしながら答えた。
「そのつもりだったけど…………やっぱりナツくんといっしょに、ねたいな?」
うわぁ、かわいいねぇ――――じゃなくて。
「い、いやお前……自分が何言ってるかわかってるのか? 俺、その……お前のこと、その……結構そういう目で見てるんだぞ?」
自分で言っておいてなんだが、結構恥ずかしいなこれ。
いやでもこれくらい言っておかないと、仮に何か間違いが起きないとも限らないから……な。
いや、別に起こすつもりもないしそうならないように頑張るけど、一応予防線は張っておきたい。
……本当に、そんなつもりはないけどね?
「……いい」
「は?」
「ナツくんなら…………なにされてもいい、よ?」
そう言って少しだけ恥ずかしそうにしながらも、悩まし気な表情で「来て?」とでも言うように両腕を広げる晶。
あぁ、駄目だ。断れないだろこんなの。
恥ずかしがりながらこんなこと言うのって、本当に勇気出したんじゃないかなぁ……なんて思ったりしたら、そんな晶の誘いを断ることなんてできなかった。
それに、俺だって晶のことが好きなんだ。なら、添い寝くらいしてみたいって気持ちに素直になってみても……いいよな?
「……しねぇよ、なにも」
「うん、しってる」
ややぶっきらぼうに返してしまった俺に、晶は嬉しそうに微笑んだ。
「消すぞ」
「……ん」
リモコンで電気を消して、深呼吸を一つ。
いつもの掛け布団に薄い毛布。そこに晶が加わるだけで、こうも緊張してしまうものか。とはいえ、断れなかったのは俺だしなぁ。こうなったら覚悟を決めるしかない。
幸い、今は薄暗さで晶のことをよく見えない状態だ。ひとまずのプランとしては、目が慣れないうちにさっさと眠りに落ちる。うん、これで行くとしよう。
心の中で『平常心』と唱え続けながら、俺はベッドに入る。
最悪本当にヤバそうなら、俺が布団に移ろう、そうしよう。
「流石に、狭いな」
「……ね」
まぁ、何の変哲もないシングルベッドに二人が寝っ転がれば、そりゃ当たり前のことではある。
「こうすれば、どうかな……」
「ん? …………!?」
薄闇の中、よく見えないまま晶が身じろぎしている気配を感じてから、腰と首に暖かな感触がして。
「すこしだけ……広くなったね?」
「っ……お、あぁ」
晶が俺に抱きついてきたのだとすぐに思い至る。
いや、あのやばい、まともに声が出せない。
今の状況のせいか、教室で抱きつかれたときよりも何倍も強く晶という女の子を感じてしまう。
まず感触。次に体温。トドメに匂い。
どれもこれもが俺の本能を刺激してきて、すでに臨界寸前と言っても過言ではない状況だ。
それに、晶のあれこれの状態を完全に把握できてないのもちょっとまずい。
見えないものに想いを馳せるのは人の
なんて適当に考えてみてるけど……本当にまずいなこれ。予想していたよりも遥かに早く、俺の理性がガタガタと音を立てていて、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
ていうか……俺、何も考えずに晶と向き合うような状態になったけど、これ背中向けてたらもう少しだけマシだった気がするな。
やってしまった。緊張でそこまで頭が回らなかった。
「あったかい……」
俺のささやかな後悔など知る由もない晶は、さらに強く俺に密着してくる。
「ナツくん……寒くない?」
「……へっ?」
「今日、ちょっとだけ肌寒かったから」
「あ、あぁ、大丈夫。むしろ、いつもより……温かいというか」
「ボクも……ナツくんのおかげで、あったかい……な」
甘えるような声でそう言い放った晶は、俺の胸に顔を埋めて「えへへ」と小さく笑った。
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