告白、願望
「まちきれなくて……会いにきちゃった」
まるで恋人にでもかけるような言葉を、ほぼ無表情で発した晶。
そんな晶の声は、いつの間にか静まり返っていた教室に響いていたらしい。それによって、教室内が再びざわざわ……いや、がやがやと騒がしくなる。
「すごく可愛いけど……誰?」
「もしかしてそういう関係、なのかなぁ?」
「不釣り合いじゃない?」
「リア充死ねやまじでよぉ……」
「デッッッッ」
「ッッッッッカ」
「いや小さいでしょ」
「……え? ドスケベボディ過ぎない?」
適当なやっかみや晶の容姿への言及などが溢れて、途端に教室に声の嵐が起こる。
……というか、最後のやつ俺の後ろから聞こえた?
「ボク、A組になっちゃって。学校が終わったら会いに行こうと思ってたけど……全然終わらなかったから」
その嵐を引き起こした本人はさして気にするでもなく、俺にここに来た理由を述べる。
「いや……というか……なんでこの学校にいるんだ? 転勤に付いていくって言ってた……よな?」
晶の突然の登場に絶賛困惑中の俺には、それを確かめる以外の選択肢が浮かばなかった。
「……ごめんね。嘘、つくつもりはなかったんだけど。その……」
晶はそう言い淀んだ後に、その顔に貼り付けられたような無表情を消して。
「ボク、ね? ナツくんとはなればなれ……やっぱり、いやだったから。おかあさんとおとうさんにワガママいって……ひとりぐらし、はじめたんだ」
その次の瞬間には熱さの灯る目を伏し目がちに、頬をとたんに赤く染めて、舌足らずに甘い声を響かせた。
――――って、え?
あの……俺の知ってる幼馴染は、人前でそんな顔しないんですが?
彼女は昔から、傍から見たら本当に感情を顔に出さない、無表情な人間だと思われがちだったのは確かだ。
それでも、ほんのり頬が緩んでるから、嬉しかったり楽しかったりするのかなぁ、なんて気づけたり。雰囲気が明らかに暗かったり、俯きがちだったりしたら、嫌なこととか悲しいこととかあったのかなって、察せたりと。
晶は感情を全く表に出していない、というわけでもなかった。
だけど、今俺の目の前でにいる晶の表情には、明らかに感情が浮かんでいて。そんな新たな一面を魅せた晶に、俺はどうしようもなく動揺してしまう。
自分に寄せられた視線も気にすることなく、外野の騒ぎにもなんの反応も起こさない。そんな晶の、先程までの無表情はどこへやら。
俺の目の前で、まるで異性に告白する直前のような、恥ずかしそうな
えっと……こういうのを、ギャップって言うんだよなぁ……
いや……あの……破壊力ゥ、がね? ヤバいですね?
まるで恋する乙女のような表情に教室内の人たちも、見惚れて声も出ないといった様子だった。
もちろん俺も例外ではなく、可憐な表情の晶を見た瞬間から心拍数が跳ね上がって、顔にほのかな熱さを感じている。
ただ、そこは全く必要のない意地をもって、表には出さないように務める。
……仮に姉にこういうの知られたら暫くの間からかわれるからなぁ。まぁ、それが嫌なだけだ。
「ぉ……おお、そうかぁ?」
とか考えてたら、めっちゃ声上ずったんですけどね。
「うん。こんど、あそびにきて? いっぱい、おもてなしするね」
俺の絞り出したような返事に、気にした様子もなく晶は明らかに喜びを言葉に滲ませている。
「お、おう。そうな、今度な」
「きょうでも、いいよ?」
……やめろ晶、嬉しそうな顔で首をこてんってするな。
可愛すぎて変な声が出そうになっちゃうって……
「……いや、いきなりは、困るだろ。片付けとか、色々と」
「うん。まだね、にほどき、おわってなくて。だから、てつだってほしい……かも」
「いやでも、俺男だから」
言外に『男に女の子の部屋の片付けを手伝わせるのはどうなの?』と聞いたのだが。
「ボクは、ナツくんなら……いいもん」
蕩けたような笑顔でそう答えた彼女を見て、俺の表情筋は呆気なく限界を迎えた。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
咄嗟に顔を覆って、声にならない声を上げて発散を試みるが、土台無理な話というものだ。
というのも。
恥ずかしながら、俺こと相沢知懐。
小学生低学年の頃から、雛瀬晶に恋をしてしまっているんです。しかもませたことに、小学三年生で告白もしてしまっているんです。
まあ、それは曖昧な返事されて結局有耶無耶になったんですけど。
そんな人間が、
今まで見たことのない、幼くともどこか魅惑的な笑顔を向けられて、平静でいられるだろうか。
いや無理だろ常識的に考えて。思春期舐めんなよ?
「……あと、ね? ナツくんに、いいたいこと、あるんだ」
「……ぃ、言いたい、事?」
悶え……萌え苦しみ、もはやふらつきを覚えてさえいる俺に、晶はそう言いながら近づいてきた。
背もたれを右に、机を左にといったように、横向きに座る俺。その両足に跨るようにして、俺と対面になるように晶は座る。
あまりにもさらりと、それこそ当たり前のように行なわれた動作に反応が遅れる。
「…………っ!? な、何してんだよっ……」
驚いた俺の体がビクリと震えて、俺にまたがる晶の身体も震えた。
視界に彼女の育ちすぎた二つの果実が大仰に震えたのが目に入り、思わずそちらに行きそうになった視線を、理性を総動員して彼女の顔に固定する。
「…………ね、ナツくん」
そしてそれが間違いだったと気づく前に、晶の手が俺の首の後ろに回されて。俺の顔と、それより下にあった彼女の顔が近くなる。
「ボクは……キミがすき」
蕩けきった彼女の微笑みと、誤魔化しようもない
至近距離でそれを受けた俺の思考は、ホワイトアウトした。
「だいすき」
「……いや、ちょっとま――」
「あいしてる。キミのためなら、なんでもできるとおもえちゃうくらい」
顔が熱い。体が震える。何も考えられない。
そんな状況をどうにかしたかった。
だが、俺の待ったすら遮って、彼女は続けてしまう。
「だから……ね?」
柔らかい。
晶がその身体を、俺の身体に押し付けてくる。
彼女の胸が潰れて、何重もの布に遮られているというのに柔らかさを主張してくる。その中に、早鐘を打つなにかを感じて、彼女も俺と同じなのだと、少しだけ安堵する。
「ボクを……キミにあげたい。ボクのはじめて……これからさき……ボクのからだ……こころも」
嬉しい。吐きそうなほどに。
好きな人に、『好き』と言ってもらえるのがこんなに心躍るなんて、考えもしなかった
教室の中にいて、周りには俺たちを見るクラスメイトがいる。その自覚はあるけれど、今すぐ喜びを叫び出したいとさえ思う。
あぁ。もういっそ、叫んじゃうか……
正常なはずのない、自分の熱に浮かれた思考でそう思い至った瞬間。
「ぜんぶ、キミの
その言葉で、違うと気づいた。
いや、なぜか気づけてしまった、か……
「……ね、ナツくん」
彼女がなりたいのは、俺の彼女……というわけではなくて。
「ボクを……キミのモノに、して?」
本当に、俺の所有物……なのだろうと。
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