監視されながらの作業の末。



「……」


「……」


「……」


「……」


 僕が無言で紙に鉛筆を走らせ、それを如月さんが無言で見守るという、とても奇妙というか……不思議な光景が繰り広げられている。


 なんていうか、その……正直に言って、とてもやりづらい。自分の隣に座られて、それでいて作業に取り組むのが、ここまでやりにくいものだとは。


 僕は一旦手を止めて、チラリと横目で如月さんの方を見る。彼女は相変わらず僕の絵を見ていた。


「あ、あの……」


「なに?」


「いや、その……」


「どうしたの?」


「……なんでもないです」


「そう」


 僕がそう言うと、如月さんはいつも通り短くそう答えた。そして引き続き僕の絵に視線を向けてくる。


 ……うん。やっぱりよく分からないな。どうして急に、こんな行動に出たんだろう。


 僕の進捗があまりにも思わしくないからか、それとも不甲斐なさすぎて見てられなかったのか。


 どちらにしても、僕の絵なんか見ていても、あまり面白くはないとは思う。


 気持ちとしてはありがたい気もするけど、それでもやっぱりやりづらさは拭えない。


 そんな事を思いつつも、僕は作業を進めていく。まぁ、とはいっても……中々納得のいく様なものは描けないんだけども。


 と、そうしているうちにまたも手が止まる。今は目の部分を進めていたけども、上手くいかないのだ。


 うーん……やっぱり自分の顔って難しいな。どうしても絵にするとなると、特徴というか……どういう風に描けばいいのか分からなくなる。


「……とりあえず、また描き直そう」


 僕はそう呟いて、消しゴムを手に取って消そうとして……。


「蓮くん」


 と、そこで如月さんに呼び止められた。僕が手を止めて彼女の方を向くと、彼女はジッと僕を見ていた。


「ど、どうしたの?」


「描き直すの?」


「え? あ、うん……そうだけど」


「どうして?」


「えっと……それは……」


 僕は思わず口籠ってしまうと、そしてそのまま視線を逸らしてしまう。そんな僕の様子を見た如月さんは、少しだけ首を傾げる様な仕草を見せる。


「別にこのままでもいいと思うけど」


「いや、でも……」


「どうして描き直すの?」


 と、如月さんはそう尋ねてきた。それに対して僕は少し考えてから答える事にした。


「……えっとね。その……なんていうか……」


「うん」


「……なんか納得がいかなくてさ」


「どの辺りが?」


「こう、目元が上手く描けないというか……なんか、違和感があるんだよね」


「そう」


「だから、描き直そうかなって……」


 僕がそう言うと、如月さんは少し考え込む様にしてから……口を開いた。


「蓮くんは、こだわりが強いのね」


「へ?」


「自分の思うイメージに近くないと、納得がいかないのね」


「……うん、そんな感じかも。鏡に映る自分と比べて、なんか似てなくて……」


「ん」


「自分がこうだって思い描いてたのに、いざ描き始めてみたら全然違う感じになっちゃって……」


 どうしても自分の画力と現実を比較してしまって、その差を埋められないからこそ、描き直してばかりいる。


 それが僕が課題が終わらない原因の1つなのかもしれない。それを延々と繰り返してばかりだから。


「蓮くん」


「な、なに?」


 如月さんに声を掛けられた事で、僕は我に返ってそう返す。


「蓮くんはどうしたいの?」


「どうしたいって……それって、どういう……」


「鏡に映る様な、写真みたいな絵を描きたいの?」


「え、えっと……」


 僕は如月さんの問いに、思わず口籠ってしまう。そしてそのまま黙り込んでしまった。


 そんな僕の様子を見た如月さんは、少し考える様な仕草を見せた後……またも口を開いた。


「変に完璧を目指さなくても、いいと思う」


「如月さん……」


「こだわらないで、ありのままを描けばいいわ」



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