結果報告をする僕と、困惑気味の彼について。
「……まぁ、いい。ところで、立花。昨日はどうだったんだ?」
「え?」
「いや、昨日はあいつに付き合わされたんだろ? それともまさか、誘われなかったのか?」
「えっと、あいつって……如月さんの事?」
「……それ以外に誰がいるんだ?」
「ま、まあ……そうだけど……」
卯月はジト目で僕を見ながらそう言ってきたので、僕はつい言い淀んでしまった。いや、だって……いきなり如月さんの事について聞いてくるとは思わなかったから。
とりあえず僕はそれを話す前に、自分の席へ移動をしておいた。いつまでも入口付近で立っているのは邪魔だろうから。そして自分の席に座った後で、僕はまた彼の方に向き直る。
「で、どうなんだ?」
「うん。それで、その……昨日は如月さんと一緒に帰れたというか、えっと……」
「……それで?」
「なんか大判焼きのお店に行ったり、レンタルビデオ店に行ったりして……」
「……ん?」
「最終的にはなんか、僕の家でビデオ鑑賞会をする事になって……」
「……」
「それで、色々とあって……如月さんとの関係は改善されたって感じかな」
僕は苦笑いをしつつ、卯月にそう答えた。僕もそんな展開になるとは思ってもいなかったから、本当にどうなるか分からなくて、正直……ちょっと大変だった。
というか、如月さんは本当に何を考えているのかが分からないから、戸惑う事や困る事もあったりしたんだけど……でも、最終的にこうなれたのは良かったと思う。
そんな想いも込めて、『あはは……』と僕は苦笑いを浮かべていると、何故か卯月は怪訝そうな表情をしていた。
「え、あの……どうかしたの? 僕、なんか変な事でも言ったかな?」
「……いや、そういう訳じゃないんだ。別に、その……お前が悪い訳じゃない」
「あっ、そうなの?」
「ただ、ちょっと……な。……てか、あいつマジかよ。それであんな事を聞いてきたのかよ……」
そして彼はそんな事を呟きながら、頭を手で押さえていた。そんな様子に、僕は首を傾げる事しか出来なかった。
「えっと……大丈夫?」
「あ、あぁ……問題ない。だから、気にするな」
「う、うん」
そう言って何でもないアピールをしてくる卯月だけど、本当に何があったのだろうか。こんなに狼狽えている彼の姿は見た事が無いので、珍しい……というか、新鮮にも思えた。
もの凄く気にはなるけど、僕はあえて追及する事はしなかった。だって、ここで変に藪蛇をつついたら、大変な事になりそうだし……そんな危ない冒険はしたくないから。
「まぁ、でも……大体は分かった。とりあえず、その様子ならあいつとは仲直り出来たんだな」
「……そうだね。うん、如月さんのおかげで……ね」
「そうか。……だったら、俺も解放されるって事だな。はぁ……もう付き合わされずに済むと思うと、清々するぜ」
「なんか、その……よっぽど大変な目にあってたんだね……」
「もう、思い出したくもない……」
卯月はそう呟きながら、遠い目をする。それだけ大変だったという証拠なのだろう。
「けど、良かったな。下手したらもっと掛かるかと思ったが、案外すぐに仲直りが出来て」
「……」
「あ? なんだよ、その顔。仲直りした以外に、なんかあったのか?」
「いや、実は……卯月に言っておかないといけない事があってさ」
「言っておく事……って、どういう事だよ」
「うん。多分、後々できっと分かると思うから、今の内に言っておこうと思って……」
「はぁ?」
卯月はそう声を漏らして、首を傾げる。
「その、昨日は如月さんと色々と話し合いをして……それがあったから仲直りが出来た訳なんだけど」
「おう。それはさっき聞いたから分かってるが……だから、どうしたんだよ」
「それが切っ掛けで、えっと……如月さんとの関係を改める事になって……」
「……ん? 関係を、改める……?」
「なので、その結果……如月さんとは別れる事になったんだ」
内容が内容だけに、あまり変な空気感で言うとなんか深刻な感じになりそうだと思って、僕はあっけらかんとした感じで卯月にそう言ってみた。
すると、周りの喧騒が一瞬だけピタリと止んだ気がした。さっきまでワイワイガヤガヤしていた教室の中がシン……と静まり返って、何人かの視線が僕達の方へ向けられた。
「……は?」
そして目の前の卯月はというと、口をポカンと開けながら固まっていた。
「……なぁ、立花。お前、今……あいつと別れたって言ったのか?」
「あ、うん、そうだね。だから、今後は如月さんとは晴れて友達の関係になれた感じかな」
「……」
「あ、あれ……? 卯月?」
僕は呆然としたまま固まっている卯月に声を掛ける。しかし、反応が無くて……どうしたら良いのか困ってしまった。そして少しした後で、彼は眉間に指を当てながら口を開いた。
「晴れて……? 何でそこで晴れてなんて言葉を使うんだか……いや、どういう事なんだ……?」
そしてそんな事を呟きながら、未だに困惑としている様子だった。そうした卯月の様子を見て、僕はこう思った。これ、伝え方を間違えたかな……と。
「……おい、立花」
「は、はい……?」
「聞きたい事は色々とあるが……その別れるってのは、あいつが急に言い出した事なのか?」
「え、いや、違うけど」
「違う?」
「如月さんからは友達になりたいとは言われたけど、別れるって言ったのは僕の方からで……」
「……いや、待て待て。意味が分からん。なんでお前があいつに別れ話を持ち掛けてんだよ」
「なんでって……それは僕が望んだから、如月さんには別れて貰った訳で……」
「ますます良く分からん……」
そう言って卯月は頭を抱えて、溜息をつきながら項垂れた。
「とりあえず、お前は今……あいつと別れてるって認識で良いんだよな?」
「そ、そうだね」
「ったく、なんでそうなったのか、さっぱり分からん。しかも、お前から別れたいって言い出すなんて……」
「あはは……まあ、そう思われるのは仕方がないかもしれないけど……僕はこれで良かったって思ってるよ」
「あいつと別れたのに、か?」
「うん。それにね、如月さんから言われたんだ」
「……何をだ?」
僕はそう言ってから卯月に顔を向ける。そして少ししてから口を開いてこう答えた。
「僕と友達になりたいって。だから、僕は如月さんと友達になる事にしたんだ」
僕の答えに卯月は唖然としていたけど、すぐにまた頭に手を当てて溜息を吐いた。そしてやれやれと言った様子で口を開く。
「ったく、お前。本当におかしな奴だな」
「ま、まぁ、そうだね。それは自覚しているかな。ははは……」
僕は苦笑いを浮かべながら、卯月にそう答えた。すると、卯月は呆れた様子でまた1つため息を吐いてから口を開く。
「本当に変なやつだよ、お前は。あいつと別れたってのに、前よりも良い顔してる」
「えっ? そ、そうかな?」
「あぁ。……けど、お前らしいと言えば、お前らしいか」
卯月はそう言うと軽く笑ってから、僕の肩を叩く。
「ま、何はともあれだ。お前らがそう決めたのなら、俺からは何も言わねえよ」
「卯月……」
「ま、でも。もし、あいつとまた何かあれば、いつでも相談しろよ。話し相手ぐらいにはなってやる」
「う、うん……ありがとう」
「おう」
卯月はそう返事すると、自分の席へ戻っていった。そして僕はそんな卯月の背中を見ながら、内心でホッと胸を撫で下ろす。
そして僕が安堵したと同時に、教室の扉がガラッと開いた。そしてそこから1人の女子生徒が入ってきて、教室内を見渡す。その女子生徒とは、如月さんだった。
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