第22話022「幕間:ヘンリー・ウォーカーのひとり言」



 僕の名はヘンリー・ウォーカー。


 14歳。父ヘミング・ウォーカーの二番目の息子として生まれた。


 上には僕の崇拝する『ラルフ兄上』がいて、1つ下には愛しき妹ローラがいる。


 僕は、兄上のかわりにこのウォーカー辺境伯の次期当主となった。というのも、それは兄上をないがしろにしたということではなく、すべては『大きな計画』のもと動いた結果だ。


 しかし、周囲の貴族たちの反応は「嫡男が生活魔法の称号じゃ次男が次期当主になるのも無理もない」とか「そりゃ、次男のほうが父親と同じ称号で優秀だから妥当だろう?」などと影で兄上を揶揄していた。


 はぁ〜⋯⋯愚か、実に愚かです。


 たしかに、ここは『称号』がすべての世界。その視点から考えれば、このような貴族の反応は至極『まともな反応』ではあるが、しかし、



 それは近い将来『過去』の話となるだろう⋯⋯。



 これから、少しずつラルフ兄上の能力の素晴らしさが民から民へと伝わり、さらには、そのラルフ兄上自身が『人々を幸せへと導く神の使徒であること』もいずれ広く知れ渡ることとなるだろう。


 そして、私の役目は、そんなラルフ兄上の能力の素晴らしさと神の使徒であることを伝える——『伝道師』。



「これから僕やローラの布教により、世界がひっくり返る・・・・・・こととなるだろう。⋯⋯とても、とても、楽しみです。フフフ⋯⋯」



 そんなことを考えながら、今朝もいつものように『ラルフ式生活魔法』の訓練をローラとしていると、


「ヘンリーお兄様」

「何だい、私の可愛い妹マイエンジェルローラ?」


 声をかけてきたのは、我が最愛の妹——ローラ・ウォーカー。


「キモいですね。えーと⋯⋯今日私は西の町と村を回りますので、ヘンリーお兄様は東にある2つの村のほうをお願いします」


 フフフ⋯⋯ローラも「キモい」なんてハイカラな言葉を使うようになったんだね。成長を感じるよ。ああ⋯⋯それにしても今日もやっぱり天使だな、君は。


「ああ、わかった。まかせろ」


 僕は妹を安心させるようしっかりとした返事を返す。


「⋯⋯えーと、ヘンリーお兄様?」

「何だい?」

「たま〜〜〜〜に、言葉や態度が危うい・・・ところがありますので注意してくださいね? ラルフお兄様の能力の素晴らしさと神の使徒であることを説くことは大事な行いではありますが、しかし、それはあくまで、冷静に⋯⋯冷静に⋯⋯お願いしますよ」

「うむ、わかった。まかせてくれ!」

「⋯⋯⋯⋯(不安しかない)」


 こうして、布教活動の段取りを早朝の魔法訓練のときに確認するのが、兄上が魔法学園へと旅立ったあとの僕とローラのいつもの日課だ。


 ちなみに、僕も来年15歳になるが魔法学園へ通わない。理由は僕が領主となるからだ。


 この国では次期領主となる者は15歳から領主である父について領地経営を学ぶため、学校に行くような時間的余裕がない。


 とはいえ、領地によっては魔法学園を卒業した18歳から領地経営を学び、20歳前後で領主となる者も多いので、次期領主の者でも魔法学園に通う者はいる。


 ただ、この国の成人は18歳からとなるため、国としては次期領主は魔法学園などには行かず、15歳から17歳までの三年間で領地経営をしっかりと学んで、成人となる18歳で領主となることを望んでいる。


 ちなみに、ほんの数年前までは次期領主の子供が魔法学園へ通うことはほとんどなかったのだが、近年は次期領主の子供でも魔法学園へ通う者が増えている。


 これまでの『18歳領主』という常識は、今では「領地を引き継ぐにはあまりに早熟だ」という意見が多数を占めたからだ。


 私としてもその意見には賛成の立場だ。とはいえ、私は布教に忙しいので学園に行くことはない。


「まー布教に必要となれば話は別ですが⋯⋯」



********************



 さて、話は変わるが、ローラが突然「ラルフ教を改名します」と言ってきた。


 理由は、さすがに領地以外に布教することとなると、いずれラルフ兄上の耳に入ってくる可能性が高くなるからということだった。


 ということで、ローラは「これからラルラブ教と改名します!」と宣言。


 ちなみに、名前の由来は『ラルフお兄様ラブラブ愛している教』略して『ラルラブ教』とのこと。



⋯⋯⋯⋯。



⋯⋯⋯⋯。



 まー⋯⋯⋯⋯ローラが良いというのであれば異論はない。


 僕はローラが望むのを全力で支持するだけだ。


「ああ、さすがだねローラ。僕のマイエンジェル⋯⋯⋯⋯はぁはぁ」


 おっと。ついローラの素晴らしい命名に心の声が漏れ出すところだった。


 危うく、また、ローラにドン引きされるところだったよ。


 僕は過ちを繰り返さない。ただ、



「ローラもラルフ兄上の話をする時、僕と似たような感じになるので、これくらいは大目に見てほしいのですがね⋯⋯」



********************



 僕はローラを愛している。


 それは、血のつながった妹を想う以上・・の愛だ。


 もちろん、そんなこと言うのはおかしいことだとわかっているし、ローラが好きなのは今も昔もラルフ兄上だけということもわかっている。そして、私はローラがラルフ兄上を好きであることに嫉妬や恨みを抱くことはない。



 だって、僕もラルフ兄上が大好きだから。



 もちろん、それは、恋慕の情ではない。言うなれば『畏怖』であったり『崇敬』のような⋯⋯⋯⋯それこそ神を崇めるような感じだ。


 僕が引きこもったあの日——ローラは僕の部屋に来ると、ラルフ兄上の秘密を教えてくれた。


 そのローラの話は『ラルフ式生活魔法』の話から、ラルフ兄上が生まれる前の記憶の話だったりと、それは驚愕な内容ばかりだった。


 僕はそんなラルフ兄上の話に惹きつけられると、ローラに早朝の訓練に自分も参加したいと⋯⋯実際にラルフ兄上のラルフ式生活魔法を見たいとお願いした。


 ローラはその僕のお願いを快諾すると、次の日——早速、早朝訓練をしている敷地内の森に連れて行ってくれた。


 そこで、僕はラルフ兄上に久しぶりに声をかけた。


 僕はこれまで兄上に色々と酷いことばっかり言っていたので、兄上が僕を拒否するかも⋯⋯と覚悟していた。しかし、兄上はこんな僕を突っぱねるどころか、昔と変わらず笑顔で僕のお願いを聞いてくれた。


 そして、ラルフ兄上はローラが言っていた『ラルフ式生活魔法』を惜しげもなく僕に披露した。


 僕はそれを見て、ローラが言っていたことがすべて真実だったということと、兄上は「本当に神の使いに違いない」と確信した。



********************



 それから、僕はローラと色々なことを話した。


 聞くと、ローラはすでに前から計画をしていたようでその全貌を僕に教えてくれた。


「な、なんて、壮大な⋯⋯且つ、愚直なまでに地道な計画⋯⋯なんだ! ここまで、ローラが考えていたとは⋯⋯! ローラ、君が⋯⋯君こそが、本当の天才なんじゃないのかい?」


 私は思わず、そんな感想を口にした。すると、


「やめてください、ヘンリーお兄様。この程度、ラルフお兄様の足元にも及びませんわ。だからこそ、この程度・・・・のことは、お兄様の手を煩わすことなく、我々だけで行動し、『来るべき時』のために準備をしなければならない。⋯⋯そうでしょう?」

「ああ、まったくその通りだよ。ローラ!」

「ふふ⋯⋯ありがとうございます。ヘンリーお兄様」




 こうして、僕は今日もローラマイエンジェルの笑顔に幸せを噛み締めながら、いつもの布教活動に精を出す。






********************


「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404


毎日お昼12時更新(現在は投稿休止中。4月27日(土)から再開予定)。


よかったら、こちらもお読みいただければ幸いです。


mitsuzo

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