第21話021「幕間:ローラ・ウォーカーの愛の伝導計画②(ローラ3〜13歳)」
その後、ローラはこの『愛の伝導計画』に基づいて布教を開始。最初に布教したのは⋯⋯⋯⋯まさかの『両親』だった。
「辺境伯であるお父様とお母様を味方にできれば⋯⋯その恩恵は大きい! 賭けではあるけれど、私がお兄様から教えてもらった生活魔法の話はもちろん、お兄様が実はこの世界よりも文化や技術がだいぶ先に進んだ世界で生きていたという前世の知識や記憶の話をすれば、お父様もお母様もラルフお兄様が『この世界をより良い未来へ導く人物』であることをきっとわかってくれるはずっ!!」
ローラは『辺境伯』というこの国でも上位の爵位を持つ両親を説得できれば大きな力になると考え、ここを先に『落とす』ことが最重要だと思っていた。
そんな覚悟を決めたローラの行動は早く、早速、両親二人がいる状態での『正式な面談』を父の専属である領主専用執事へ伝える。ローラの覚悟を感じ取った領主専用執事は「すぐに手配します」と言って、そのローラの要望を父ヘミングへ報告。
そして、それから2日後には両親との正式な面談が決定した。
——コンコン
「ローラです。失礼致します」
「うむ、入れ」
ローラがかしこまった神妙な挨拶をすると、父ヘミングもまた合わせて厳格な声色で部屋に入るよう促す。
「どうしたんだい、ローラ? こんなにかしこまったことをして⋯⋯」
「うふふ⋯⋯何か欲しいものでもあるのかな?」
この時の二人は、まだ6歳のローラがこのような『正式な面談』を取り付けること自体驚きだったが、同時に「ウチの娘も天才かな?」と親バカ感想程度しか頭になかった。すると、
「お父様、お母様⋯⋯。ラルフお兄様は神様の使いです」
「「⋯⋯へ?」」
「ラルフお兄様は、この世界から不幸を無くし、すべての民を幸せに導くためこの世界に現界されたお方⋯⋯」
「「ポカーン」」
「つきましては、これからラルフお兄様を100%全面バックアップの元、お兄様の⋯⋯⋯⋯いえ、神のご意向を成就させるべく、我々ウォーカー家で支えていってもらえないでしょうか」
「「ポカーン」」
ローラの初っ端のこの口上に度肝を抜かれた両親はただただ唖然とした。せざるを得なかった。
しかし、何とか正気を取り戻した父ヘミングが口を開く。
「い、一体、何を言っているのだ、ローラよ。ラルフが神の使いだと? それはオプト神の⋯⋯ということか?」
「いえ、わかりません。ただ、個人的にはオプト神ではないかと思っています」
「何? その理由は?」
そんな父親の問いかけに、ローラはラルフから聞いた『人を乗せて空を飛ぶ乗り物の話』や『この世界の常識では考えられない社会システムの話』などラルフから聞いた『前世の話』を語る。
「そ、空を飛ぶ乗り物⋯⋯だとっ?!」
「え? え? い、一体、何の話っ?!」
すると、最初はまだ柔らかい態度だった両親の様子が一変。ローラはその両親の目の色が変わったのを見逃さなかった。
「お父様、お母様! ラルフお兄様はこの話をした当時まだ6歳で私が4歳のときでした」
「な、なんと⋯⋯!」
「ろ、6歳⋯⋯」
「はい。⋯⋯当時、私はお兄様の話はちゃんと理解していましたが、しかし、そんな態度を見せるとお兄様が話さなくなるんじゃないかと恐れ、
そう言って、ローラが苦笑いする。
「でも、お兄様はもうその話は一切しません。ずっと隠すつもりなのでしょう。仮に、ラルフお兄様に問いただしたところで、知らぬ・存ぜぬでシラを切り続けるでしょう。——実際、この話が本当ならお兄様は自分の身が危ういと思うでしょうから⋯⋯」
「う、うむ。そうだろうな⋯⋯。だがしかし、にわかには信じられない話⋯⋯⋯⋯⋯⋯ではあるのだが、ラルフが同い年や他の子と違うのは昔からよくわかっていた」
「お父様⋯⋯」
「そうね。生まれたばかりの赤ちゃんの時から文字を理解していたし⋯⋯そもそも手がかからなかったしね⋯⋯」
「お母様⋯⋯」
「そうだな。私はこれまでそういうところが不思議でたまらなかったが、今、こうやってローラの話を聞いたら⋯⋯とてもしっくりくる」
「お父様!」
両親もまたラルフが実年齢に比べてかなり大人びた性格や知性・ふるまいをすることを以前から感じていたと告げると、しかし、その『違和感』がローラの今の話を聞いてやっと点と点がつながったと本音を漏らした。
「⋯⋯はは、そうか。やはり、ラルフはただ者ではなかったか」
「で、でも、ちょっと、予想の斜め上過ぎて、まだ実感が湧かないわ⋯⋯」
ヘミングも母ステラも苦笑いをしてそんなことを呟くと、一度深呼吸をした。そして、
「いいだろう、ローラ! 私もできることは何でも協力しよう!」
「お父様!」
「そうね。前世の話を抜きにしても、ラルフの『高威力生活魔法』の話だけでも物凄い可能性を秘めているわ。それこそ、この世界の常識がひっくり返るくらいに⋯⋯」
「ああ、そうだな。それにラルフが15歳になればセルティア魔法学園へ行くことになる。そこはラルフにとってもプラスとなるはずだ」
「えっ?! ラルフお兄様は魔法学園へ行くのですか!」
「ああ、そうだ。この家の後継ぎはヘンリーにするからな。幼い時から聡明だったラルフの将来を考えたら、魔法学園に通うことが一番だろうと思っていたのだ」
「まー! 素晴らしいですわ、お父様!」
「うむ。ただ、その魔法学園へ行けば、おそらく本人の望む・望まないに関係なく、いずれラルフの『才覚』は周りに知れ渡るだろう。その時、ラルフの処遇がどうなるかは私もわからない」
「そうね。他の貴族や王族がラルフにどういう態度を示すのか⋯⋯⋯⋯それが一番心配ね」
二人は、ラルフが魔法学園へ行った後のことを考えて少し顔を暗くする。しかし、
「だからこそ! だからこそ、その間に私たち家族が中心となってラルフお兄様をしっかりと支えられるよう、強靭な力を身につければ良いではないですか、お父様っ!!」
「! ロ、ローラ⋯⋯」
ローラが力強く、父親に詰め寄る。
「フフ、そうだな⋯⋯ローラの言う通りだな」
「お父様!」
「現在、この国は貴族だけでなく、王族も含め、自分の既得権益を守ることだけに心血を注いでる。⋯⋯嘆かわしいことだ。そして、それらはすべてラルフが気づいたように『神託の儀』で授かる称号の『高位貴族への優位性』から来ていると私も感じていた」
「⋯⋯そうね。あまりにも偏っているものね」
「それにラルフの発見した『六大魔法』の
「! お父様⋯⋯⋯⋯そうだったのですね」
「ああ。⋯⋯この国の腐敗はもはや限界にきている。そういう意味でも、今のうちから力を蓄え、有事に備えることは重要だ」
「そうね。それは、もしかしたらラルフがそのきっかけになるかもしれないわね」
「うむ。⋯⋯ローラが言うようにラルフがそのような『世界を導く存在』であれば、自ずと頭角を現し、注目されていくだろう。しかし、その頃には世界の
「⋯⋯はい」
「だからこそ! そのためにも、今のうちから準備をするという意味で我々はラルフを全面支援する!」
「お父様!」
「ローラ。お前が思うようにやってみなさい」
「は、はい! ありがとうございます!」
そう言って、ローラが満面の笑みで何度も頭を下げる。
「あ! でも、この話は絶対にラルフお兄様に知られてはいけませんからね、お父様、お母様。この計画はお兄様の知らない水面化で形にしていく必要がありますので。なので、そこも理解した上でご協力をどうかお願いいたします!」
「フフ⋯⋯もちろんだ。私もラルフにはバレないよう動くつもりだ」
「そうね。ラルフが成長して『その時』がきたら種明かし⋯⋯でいいんじゃないかしら!」
「はい! わたくしもそう思いますわ、お母様!!」
こうして、ローラは両親の説得に成功した。
********************
次に、アプローチをかけたのは1個上の兄ヘンリー・ウォーカー。
ちなみに、この時ヘンリーは奇しくも『絶賛引きこもり中』だったということもあり、ローラからすればそんな弱った兄を
ローラはヘンリーの部屋へ行き、そこで両親に話した話をする。すると、ヘンリーがすぐに話を信じたのを見て、ローラはさらに『
その後、ローラ指示のもと、ヘンリーと共に家の執事やメイド・使用人、さらには領民にも『ラルフの凄さと、故に神の使徒であること』を伝え広げていく。
つまり『ラルフ教』⋯⋯いやさ『ラルラブ教』を水面化で布教していったのであった。
そして、ラルフが15歳の誕生日を迎え、王都の魔法学園へと旅立つ頃には、領主・領主家族(自分含む)・執事・メイド・使用人・領民すべてが『ラルラブ教の敬虔なる信徒』となっていた。
結果、それが、あのような大規模な数の見送りになったのである。もちろん、
「いってらっしゃいませ、ラルフお兄様。お兄様が魔法学園で学ぶ三年の間に、私とヘンリーで必ずや偉大なお兄様の素晴らしさを布教し、広げて参りますので⋯⋯⋯⋯それまではどうかお元気でっ!!」
ローラはラルフを乗せた馬車の姿が見えなくなるまで手を振ったあと、誰にも聞こえないようにボソッと一人覚悟を持ってそう呟いた。
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