第20話020「幕間:ローラ・ウォーカーの愛の伝導計画①(ローラ3〜13歳)」



 私の名は、ローラ・ウォーカー。



 セルティア王国ウォーカー辺境伯家の末っ子長女として生まれた私は、ラルフお兄様大好きっ子としてこの世に生を受けました。


 物心ついたのは3歳の頃——今思えば早熟だったのかもしれませんが、結果的にそれは私にとって必要なものだったと思いますし、それが、その後の人生に大きく影響を与えたのは言うまでもありません。


 そんな早熟だと感じるくらいには、3歳のとき初めてラルフお兄様を見た時、私の体の中に電流が走ったことを覚えています。


 ただ、不思議なのはラルフお兄様を見て一瞬で一目惚れみたいな感じで『大好き』になりましたが、しかし『異性としての好き』とは少し違っていて、それは今でも変わりません。


 私がラルフお兄様に向ける愛は『偉大な方に捧げる無性の愛』とでも申しましょうか。


 とはいえ、最初は私がそう思っているだけで、ラルフお兄様がどんな人かなんてわかりませんでしたが、その後、話をしていくうちにラルフお兄様が『タダ者じゃない』ことがわかってきました。


 きっかけは、私が4歳の頃——お兄様が「自分の使う生活魔法がちょっとおかしい」という話からでした。


 結論から言うと、お兄様の編み出した『ラルフ式生活魔法』につながる話だったのですが、個人的にお兄様の本当にすごいところは『魔法』ではなく『知識』だったり『発想』でした。


 お兄様とお話しをする時、基本『魔法の話』になるのが多いですが(まーお兄様は私が魔法の話を好きだと思っているようなので)、でも私はどちらかと言うと、お兄様の『魔法以外の話』に強く興味がありました。


 そんな『魔法以外の話』の中で、今の私の『裏の活動』の原点となった話があります。それは、お兄様がライフワークである生活魔法の研究で発見したことをお父様に報告するか悩んでいるときでした。


「父上に報告すると、もしかすると王様にまで報告するようなことになるかもしれない。そうなったとき、私はどうなるのだろうか?」


 お兄様は『国の内情』を考えると「自分は殺されるか、幽閉されて良いように利用されるのではないか」と恐れていました。


 そのとき、ふとお兄様が、一人ブツブツと小声でしゃべっていたのを、私はこっそり盗聴⋯⋯⋯⋯ゲフンゲフン、『聞き耳』を立てました。すると、


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「はぁ〜⋯⋯こんな命の軽い『異世界・・・』じゃ、父上にこのチート級の生活魔法の報告はやめたほうがいいよな〜。仮に『前世の日本・・・・・』みたいに人権が保障されている民主主義国家ならここまで悩むことはなかったんだけど⋯⋯(ぶつぶつ)」


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「はうあっ!?」


 この時、私はラルフお兄様を初めて見た時以上の『電流』が体中を駆け巡りました。



 異世界? 前世? チート? ニホン? 人権? 民主主義国家?



 そのどれもがまったく聞いたことのない単語でしたが、でも、何やら『心ときめくワード』でした。


 私はお兄様にこれらの単語の意味とこの話をもっと詳しく聞きたいという衝動に駆られ、すぐにお兄様に声をかけ、今の話を詳しく聞こうかと思いましたが⋯⋯⋯⋯寸前でやめました。


 何となく、それは「今聞くべきタイミングじゃない!」という、何か『内なる声』のようなものに言われたのを今でも覚えています。


 お兄様はその後、たまにさっきのような話を断片的にですが話したりすることが何度もありました。お兄様は「幼い私にはわからないだろう」ということで話していたようです。


 当然、私は「知らないフリ」をしていましたが。


「前の人生では地球というところで75歳まで生きていて、その時の記憶やその世界の知識が残っているんだ〜⋯⋯」


「空を飛ぶ乗り物や馬より何倍も早い乗り物を誰もが当たり前のように使っている世界でさ〜⋯⋯」


「国民一人一人が選挙というもので投票して自分たちの代表を選ぶ社会システムがあってね⋯⋯」


「国民のほぼ全員が当たり前のように字の読み書きができる識字率ほぼ100%の国なんだけど⋯⋯」


 お兄様の話は聞けば聞くほど、まるでお伽話を聞いているかのような信じられないお話のオンパレードでした。私はお兄様の全ての話に感動していたのですが、しかし、そんな感情は隠さなければなりません。


「う〜ん、よくわかんな〜い」


 この一点張りで、私は「お兄様の話は理解できない」といった姿勢でシラを切り続けました。お兄様にこの感動がバレないよう、それはもう、必死に!


 しかし、そんな『知らないフリ』を演じていたのが今となっては懐かしい思い出です。


 そんな、ラルフお兄様との触れ合いを幾度も重ねたおかげで、私はラルフお兄様が『人類を導く偉大な存在』であることに気づくことができました。



「そう⋯⋯私の全人生をかけて、ラルフお兄様を支えていく。これが私の使命!」



********************



 そんな、ラルフお兄様の正体に気づいた私は次に「どうやったらお兄様の夢を実現させることができるだろう」「どうやったらお兄様の望む世界を用意・・できるだろう」と考えました。


「ラルフお兄様の偉大さに気づいた感動をそのまま伝えればいいかしら? いえ、それだけじゃダメね。私の言葉が嘘じゃないと、真実だとわかってもらえるようにするには、その証拠となるものを用意しなきゃ⋯⋯。そうだ! それなら私が『高威力版生活魔法』を習得して披露すればいいじゃない! それこそ一目瞭然じゃない!」


 その後、私はお兄様の編み出した『高威力版生活魔法』を習得するべく、お兄様に師事を仰ぎ、努力を重ねた。お兄様の『高威力版生活魔法』は豊富な魔力量と高精細な魔力制御を求められるので習得には困難を極めた。⋯⋯が、私はその困難に見事打ち勝ち『習得』に成功した。


「こ、これで、やっと⋯⋯計画を進められるわ!」


 私は『高威力版生活魔法』がある程度安定して使えるようになったら行動を起こそうと考えていた。そして、その日が来たらすぐに動けるよう随分前から『計画表』を作っていた。


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『ローラ・ウォーカー愛の伝導計画〜ラルフ教・愛の十戒〜』


1. ラルフお兄様をただひたすらに信じ、愛すること

2. ラルフお兄様の偉大な計画を邪魔するものは排除すること

3. ラルフお兄様に気づかれないよう秘密裏に事を運ぶこと

4. ラルフお兄様に無性の愛を貫くこと

5. ラルフお兄様の手を煩わせないこと

6. ラルフお兄様の像に向かって毎朝祈りを捧げること

7. ラルフお兄様に我らの存在を知られてはならない

8. ラルフお兄様との直接接触はやむを得ない事情でない限り禁止とする

9. ラルフお兄様に危険が及んだ場合手段を選ばず守ること

10.ラルフお兄様に常に無性の愛を捧げること


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「うん、いいんじゃない!『ラルフ教』っ!!」





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「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404


毎日お昼12時更新(現在は投稿休止中。4月27日(土)から再開予定)。


よかったら、こちらもお読みいただければ幸いです。


mitsuzo

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