第8話 買い物!
大型ショッピングモールセンターの「A-ON」。
ここは、県内でも最も大きく広い大型のショッピングモールだ。
休日は、駐車場が満車になるほどの人気ぶりだ。ブティックからスーパー、フードコートや映画館まで幅広くある。映画は、三階にありいつも人の往来で賑わっている。
まずは、「ストレンジャーハウス」のチケットを買いにいく。
峠崎は、慣れた手つきで券売機を操作し、チケットを二枚購入する。
「はい、畝間君」
そういうとチケットを差し出してくる。
「ありがとう。いくらだった?」
財布を取り出し、彼女に訪ねる。
そうすると、
「いいえ、チケット代はいらないわ。今日無理矢理付き合わせたのよ?チケット代を貰うのはかえって失礼だわ」
そうきっぱり断る。彼女なりのプライドなのだろう。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん、よろしい」
顔を破顔させる。やはり、彼女のこの世の者とは思えないほどの端正な顔立ちと、笑顔が合わさると反則級に美しい。
「十五時からだから、後十分弱くらいだな。もう、スクリーンの方まで行くか?」
時間もちょうどいい頃合いなので、そう彼女に問いかける。
「ええ、行きましょう」
そう言うと係員がいる入場口まで行く。九番スクリーンのようだ。
A-7と書かれた一番前の席を探す。
彼女は、その隣のA-8だ。
彼女が、先に座ると俺も続いて座る。今は、どうやら幕間の時間のようだ。カメラのコスプレをしたキャラが撮影をしたり、警察のようなキャラがそれを捕まえようとしている。映画を撮影したり、録音することは違法だからな! 良い子はしないように。
暫くボケー、っと幕間を見つめていると、ゴジラのカウントダウンが始まる。どうやら映画が上映されるようだ。
「ストレンジャーハウス」の物語を簡単に解説すると、大学二回生のアンディと、同じく二回生のアンジェリカのカップルが肝試しを兼ねて、不気味なポルターガイストが起こるという、通称ストレンジャーハウスと呼ばれる廃館に行きその中で様々な不思議な現象が起きるというホラー系のものだ。
ハリウッドが製作を手がけたこともあり、かなりのクオリティだ。また、主演の女優のアンジェリカ役と男優のアンディ役の人の演技も新鮮で観ていて飽きない。B級映画になるのでは? という不安もあったが、そんなことは微塵も感じさせない出来映えだった。真に迫った完成度だ。
ともあれあっという間に約二時間の映画が終わり、エンドロールが流れる。今でも、気を抜くと小便をちびってしまいそうな感じで、鳥肌が今も立っている。
ともかく原作ファンも納得の仕上がりの映画であった。
エンドロールが終わり、館内の明かりがつくと彼女が話しかけてくる。
「畝間君、畝間君!かなりのクオリティの映画だったわね!」
ホラー系の映画を見た後とは、思えないほどのハイテンションで喜んだ様子をみせる。
「ああ、主演の女優と男優がいい演技をしていたな。原作を忠実に再現していて、CGも違和感なかったな」
「確かに多少のオリジナルストーリーは入ってたものの、原作を忠実に再現していたわね」
なおも、少し落ち着きつつあるテンションで話しかける。
「さすがハリウッドだな」
「家に帰ったら原作を読み返そうかしら?」
お互いに映画の感想を言いながら、映画館を出る。暗闇の中にいたせいか、ショッピングモール内の光が白色の床に反射して眩しい。
「ところでこの後どうする?適当に店を見て回るか?」
時計を見ると、十七時十七分を示している。
良い子の学生的には、帰るなり何なりとする時間だ。
「ええ、適当に見て回りましょうか。あそこのTwiceという洋服屋さんに行きたかったのだけれど、行ってもいいかしら?」
「うん、いいぞ」
そういうと、店内に入っていく。
どうやら今日は、三十%オフの日らしい。今日からGW終わりまでのセールみたいだ。
あれもいいわねや、こっちもいいなとかいいながら服を見ている峠崎についていく。そうこうしながら十分くらい店内を見て回る。結局、彼女は何も買わなかったようだ。
店内を出て時計を見ると、十七時半を示している。確か、十八時ちょうどに帰りの電車があったよな、と思っていると、
「十八時に帰りの電車があるからそれに間に合うように、もう帰りましょう」
そう彼女から提案される。
異論も反論もないので、おう、と答える。
そういうと、ショッピングモールの南側の出口まで歩いていく。
暫くの沈黙が続く。こんな沈黙の時が続いても気まずくなったりしないのは、恐らく彼女との距離感が近づいたからだろう。ショッピングモールを出て、黙々と駅のある方角まで歩いていく。
切符買い、改札機を通るとエスカレーターに乗り、二階のホームまで向かう。
ホームは、あまり人がおらず閑散としていた。そうすると、目的の十八時発の電車が二番線のホームまでやって来る。ガタンゴトン、と音を立て等速で走って来る。ホームに電車が着くと、フシュー、と音をたてて扉が開く。彼女が先に乗り、続いて俺も乗車する。
来たときと同じく、BOX席が空いていたのでそこに二人とも向き合う形で座る。
徹頭徹尾無言な二人。
しかし、そこには気まずさ等は、微塵も感じさせない様子が写っていた。互いに窓の景色を見つめる。景色が移り変わり、趣を感じさせる。俺は、ふとこんな何気ない時間がいつまでも続けばいいのにな、と思う。
しかしながら、時間は有限。永遠などない。片道一時間の砂時計は、落ち始めたばかり。少しずつ落ちていき、最後の一粒まで落ちていく。ゆっくり、ゆっくりと時間が経過する。
いつか逆さまにした砂時計のように、彼女との関係も終わりを告げていくのだろうか。
砂時計は、不可逆で元には戻らない。彼女との関係も元には戻らないところまでゆくのだろうか。そんなことを考えている内に、始発点まで電車は着実に等速で向かっていく。
彼と彼女の物語は、今日はひとまず終着点。
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