第4話 そして、部活

 桜が散り、季節が移ろう頃、俺、畝間苗太と峠崎こみちは出会う。


 ボーイ・ミーツ・ガール的な事は無く、ごくごく普通の出会い。


 いや、ラブコメ展開は無いんですか神様。


 やはり、俺の青春ラブコメはどこかか間違っている。


 自己紹介の後、暫くどこからともなく沈黙が続く。

 その沈黙を破ろうと、


「と、峠崎は何で文芸部に入部したんだ?」


 当たり障りの無い質問を投げ掛ける。

 少し考える素振りを見せた後、峠崎は回答する。


「そうね。読書が趣味だからかしら? それ以外に理由は無いわね」


 凛とした様子で答える。

 改めて彼女を見ると忖度抜きに、美しいとしか言いようがない。

 漆黒の光さえ飲み込み、支配しそうな艶やかな髪に、黒色の大きな瞳とピンとした睫毛。後ろに流している髪は、どうやらリボンで結ばれているようで、様になっていた。


「そうなのか。俺も読書は、結構する方だな。まぁ、主にライトノベルだが」


「そうなのね。いわゆるオタク、いや、ナードかしら? ライトノベルは読まないから分からないけれど」


 おっと、いきなり右ジャブからの死角外のアッパー!

 この子口悪くないかしら?

 フラジャイルな男子高校生としては、かなりの悪口だと思うのだが。


「な、ナードで悪かったな。てか、高校生でオタク趣味は普通だろ」


 悔し紛れの反駁をする。


「いや、悪いとは言ってないわよ? オタク文化…サブカルチャーは、今では日本を代表するポピュラーなコンテンツと言っても過言ではないものだとオタクではない私が知ってるくらいだもの」


 案外、肯定的な意見が出てくる。

 偏見を持たれるかと思ったが、そんなことも無いんだな。

 話を変えるついでに、部活に入る前から気になっていたことを彼女に質問する。


「そういや、文芸部って具体的にどんな活動をするんだ?」


 一呼吸をおいてから、


「…そうね。図書館便りのコラムの作成をしたり、文集の製作、コンクール等への応募もやったりするわ。取り敢えず、こんなところかしら?」

「意外にも活動内容はあるんだな。退屈しなさそうで良かったと思う反面、少し面倒くさいという気持ちも湧いてくるな」


 部室を見渡すと、本や電子レンジ、ポット等が小綺麗に置かれているようだ。

 なかでも本は、太宰治や夏目漱石等の文豪と呼ばれた作家の作品があり、整頓されて並んでいた。

 勿論、漫画やライトノベル等も置いてあり、バラエティーに富んでいる。

 部屋の大半を本棚が占有しており、約十五畳程の部室が狭く感じる。


「それで、決めなければならないことがあるのだけど、いいかしら?」


 いつの間にか開いていた本を閉じて此方を見据える。


「おう。いいけど。何を決めるんだ?」


 オウム返しではないが、質問に質問で返してしまう。


「部長と今後の活動方針を決めなければならないのよ」

「そうなのか。部長は、峠崎でいいだろ。俺は面倒くさがりだから向いてないと思うし」

「分かったわ、私が部長を務めるわね。それで、活動の方針…予定を決めなければならないけど、何かあるかしら?」

 活動の方針、もとい、予定と言われてもいまいち思いつかない。

「そうだな… 文化祭に向けて文集を作り、それ以外の日は部室で読書したり、図書館便りのコラムの作成でいいんじゃないか?」

 無難なアイデアを出す。彼女も異論は無いのか、首肯する。

「それじゃあ、今後はそれらの活動を中心にやっていきましょう」

「了解」


 窓の外を見ると夕陽が出ていて、非常に綺麗だった。峠崎は、窓の近くの方に座っているので必然と、夕陽が当たるポジションにある。夕陽に照らされた彼女は、どこか神秘的で不可侵な感じがした。

 そんな彼女に目を奪われていると、


「畝間君。今日はもう部活動の終わりの時間が来たから、解散しましょう」


 暫く遅れてから、


「お、おう。じゃあ、帰るか」と返事をする。

 席を立ち、椅子を片付ける。一番扉に近い俺から出て来て、次に彼女が退出。

「じゃあ、私は職員室に鍵を戻してくるから。明日も部活はあるから忘れないように」

「分かった。それじゃあ、また明日な」

「ええ、また明日」


 そう言うと、控え目な感じで胸元で手を振る。

 その様子は、どこか小動物のようで妙に面白可笑しく、ついつい微笑しながら手を振り返した。

 廊下は夕陽に照らされてオレンジ色に染められている。


 明日も明後日も、相も変わらず太陽は沈むのだろう。そして、暫く時が経てば月が表れる。

 そんなことを思いながら、窓から見える太陽を眺める。


 太陽は何時も通り燦然と輝き、地球は自転と公転を繰り返す。


 このようにして、月は満ち欠けを繰り返し、太陽は昇ったり、沈んだりして季節は移ろい、巡り行く。

 そういえば、人の人生にも四季があるという。


 青春、朱夏、白秋、玄冬。


 畝間苗太と峠崎こみちは、今、その四季のうち「青春」を生きている。


 いつか暑い夏を迎え、静かな秋を過ごし、寒い冬を過ごすのだ。


 先のこと等想像もつかないが、全ての人々にその四季は訪れる。


 また、太陽の地平線に沈み行く姿も全ての人々に平等に、等速でやって来るのだ。


 太陽は、現在進行形で沈み、次の朝陽が現れる。

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