指しゃぶりを卒業するまで


生まれたばかりの息子はいつ見ても指しゃぶりをしていた。


出産後、入院していた産婦人科から受けた指導のなかで

「おしゃぶりを使う必要はない。鵞口瘡を起こす危険がある。」

と言われたことがある。

 ※ 鵞口瘡(ガコウソウ)・・・ カビの一種


一人目の子供ということもあり、産婦人科から教えてもらえることが私にとって絶対であり、全てだった。


なので妊娠中期に購入していたおしゃぶりは退院後すぐに破棄。





息子は生後10ヶ月頃まではよく寝る子だった。

(それ以降から入眠困難に。)


しかし睡眠中、口に入っている親指を引っこ抜くと一瞬で起きてしまうのだ。


ものすごい力で親指を口の中に戻すし、嫌がって噛みしめている。


どれだけ深く眠りについていても、どれだけそーっと指を引き抜いても、ほぼ100%の確率で起きてしまう。


最初は「指しゃぶりしてたらよく寝てくれるから良いや」という気持ちだったが、保育園に通い始めて困り始めた。


病気をすぐにもらって帰るからだ。


A園にいる間は様々な年齢の子供たちが同部屋で過ごしていたけど感染したことは無かった。


病気をもらいはじめたのは

B園に通い始めてからだ。


今でもよく覚えている・・・

初めて感染したのはアデノウイルス。


いつも通り保育園に迎えに行くと、先生(担任ではない)から

「息子君、熱は無いんですけど片目が充血してて・・・ほら、真っ赤なんです。」

と、息子を抱きかかえて左目を見せる。


もともと息子はよく目を充血させるし、目やにも出やすかった。

何度か眼科を受診したが、先天性のものだろうと言われていた。


私は先生にそのことを伝えると、

「へぇ~」と言いながらも「実は息子君のクラスでアデノウイルスが出たんですよ」と。


アデノウイルス?

何やそれ?


当時の私は初めて聞く病名に首を傾げる。


アデノウイルスには様々な症状があるらしいが、息子のクラスで感染した子は目が充血していたらしい。


私は慌てて眼科を受診しようとするものの時間帯が遅く、付近の眼科は診察時間が終了していたため翌日は仕事を休むことに。

(欲を言うならば、病院に行った方が良い症状であれば早い時間に連絡が欲しかったナ・・・。)


働いていた職場からは”目が充血しているだけで休む”ということに納得していない様子だったが、私が休むことを申し出た以上何も言えない様子・・・。

(職場もアデノウイルスって何?って反応だった。)


話の最後には

「病気だったとしても今時は病児保育があるから良かったね」と・・・。


預けて仕事に来いってことですかい!?

私が病児保育を自ら願いでるならともかく、職場から言ってくるなんて・・・。


結局息子はアデノウイルスに感染していた。


いつ完治するかも分からないし、完治後2日は保育園に通えない。


元々病児保育を利用するつもりはなかったが、

病院へ問い合わせてどのようなシステムなのかを聞いてみることにした。


しかし病児保育はいっぱいなので利用できないことがすぐに分かった。


常日頃から病児保育の利用を希望する人が多い。


私は職場へ”既にいっぱいで利用できない”と連絡すると、職場も仕方なさそうにしていた。


息子は目が赤いだけで元気だったので、私は実家に帰ってゆっくりしていた。


そうしていると2日後にはもう片方の目(左目)も赤くなっていた。


医師からは、もう片方の目が赤くならないように注意を受けていたため気を付けていたのだが、潜伏期間も長いので手遅れだったのだろう・・・。


受診先を実家近くの眼科に変えて

反対の目(左目)が完治して2日後に治癒証明を手配してもらえた。

(今でもよく覚えているが、保育園付近にある眼科では完治後2日経ってなくても治癒証明を手配してもらえたらしい。)


アデノウイルスは大人が感染しても軽微なものだと思っていたが、息子が完治した後に私も実家の母も感染して目が真っ赤になっていた・・・。





アデノウイルスの流行が落ち着いたと思ったら、

手足口病・ヘルパンギーナ・インフルエンザ・RSウイルス(2回)など・・・

B園にいる約1年6ヶ月の間だけで次々と病気をもらった。


息子が感染しなかったのは(園で感染者有りで)

頭しらみ・マイコプラズマ・ロタウイルスくらいだろう。


私が病気とは無縁だったからか、

園に掲示されている感染情報を見て初めて知る病名ばかりだった。


息子は寝る時以外も暇さえあれば常に指しゃぶりをしているので、すぐ病気をもらってしまう。


このようにB園での感染率はすごかったが、C園に変わってからは学年の感染情報は色々掲示されていたもののRSウイルス以外感染していない。


単に息子の身体が強くなっただけなのかもしれないが、

今考えるとB園は衛生面があまり良くなかったのかも・・・?

(あまり言いたくないがハイハイしている赤ちゃんがいる教室でも埃が丸見えだった。保護者は教室に入ることができないのに丸見え・・・。C園はすごく清潔感があった。)





2歳の時に通っていた歯科では

「3歳になるまでに指しゃぶりは辞めさせましょうね~」と言われ

私だって1日でも早く指しゃぶりを辞めさせたかった。


外でドロドロになったフェンスを触ったかと思えば、そのまま親指を口の中に入れる・・・ひえぇ~~~・・・。


3歳を過ぎてからも歯科の先生に

「そろそろ指しゃぶりを辞めましょうね~」と行く度に言われる。


しかし息子は指しゃぶりをしないと本当に眠ることが出来なかった。


試しに絆創膏を貼っただけで、叫び泣きが始まる。


いつかはワサビを親指に塗ってやろう!と何度も思ったが結局それは出来なかった。


そして個別療育に通い始めてから精神科の先生に言われたことは歯科とは全く反対。

「指しゃぶりは無理に辞めさせないで下さい。歯医者からはよく早く辞めさせるように言われるけどそれは間違ってる!」とのことだった。


歯科的には早く辞めさせるべき。

精神科的には無理に辞めさせないようにと。


もちろんそれぞれの正解があって、どちらも正しいのだろう。


この時の私に出来ることは、

まずは日中の指しゃぶりを”無理なく”辞めさせること。


寝る時は我慢できないとしても、日中は常に何かをさせておけば口に入れることもないだろう、と思った。


家の中にいる時は、おか〇さんといっしょを見ながら一緒に歌ったり踊ったり

ボーっとする暇がないくらい手を使って遊ばせる。


好きな水遊びをさせていれば親指を口に入れることだってない。

冬場でも風呂場で水遊びをさせていた。


息子は言葉が遅かったが、とりあえず常に話をさせる。

何を言っているか分からなくても良いから、とにかく口を動かす。


吹き戻しのおもちゃや笛などもよく使った。

口周りの筋肉を鍛えれるから、言葉の遅れにも少しは効果があり一石二鳥だ。


このように、日中指しゃぶりをしないために次々と出来ることをやった。


そうすると、

怒った時や不安な時、テレビをボーっと見ている時を除いて、日中の指しゃぶりをしなくなった。





残るは睡眠時の指しゃぶりのみ。


次に私が始めたのは、絵本による洗脳。


私は生活面で困った時、よく絵本に助けてもらう。


最初は頻繁に絵本を買っていたが、キリがないので途中から図書館で借りることにシフトした。


そしてこれは絵本が好きな息子だからこそ出来た方法なのかもしれない。


例えば、日常生活全般のお助けは

『おや〇そくえほん』

全てが息子の役に立つかどうかは別として、一つでも心に残れば良いという軽い気持ちで読み続けた。


一番助けられたのは、息子が予防接種で注射が必要なとき。

『ちゅ〇しゃなんかこわくない』や『ノン〇ンがんばるもん』


予防接種の1週間前から毎日読み始めるので、次第に息子も「そろそろ注射があるんだ・・・」と心構えできるようになった。


おかげで病院に入ることすら泣いて嫌がった息子が病院に入れるようになったし、

息子自らが病院に絵本を持っていき、何度も読んで注射に立ち向かう。


3歳から6歳の間、2回に1回は泣かずに注射が出来た。


絵本を参考にして「蝶々とてんとう虫が、少しチクッてするだけの注射を先生に渡してくれるからね」と言うと虫が好きな息子の気持ちは少しだけ明るくなる。


少しイジワルだが、絵本に出てくる注射の大きさを使って

「前回みたいに暴れまわってたら、ゾウさんの大きな注射が来ちゃうよ~」

「動かずに注射が出来たら、アリさんの小さな注射だよ~」

と声掛けしたりもしていた。



そんな絵本効果が期待できる息子に

指しゃぶりを辞めてもらうため用意した絵本は

『ゆび〇こ』

指しゃぶりをしていたら、親指に顔ができる話。


3歳を過ぎた頃に一度読んだことがあったのだが、怖がり泣いてしまっただけで効果はなかった。


なので5歳を過ぎた頃に再び読み始めた。


すると・・・

怖がったものの泣きはせず、親指を気にして

初日は指しゃぶりをせずに寝たのだ!


ただ・・・寝る際にはしなかったものの寝ている最中には無意識にしてしまっていた。


同じく指しゃぶりをしていた次男も絵本を見たあと自ら「絆創膏して」とお願いしてきて指しゃぶりをしなかったのだ!


それだけでもすごい効果だと思い、その日から読み続けたが翌日からは兄弟揃って指しゃぶりをしてしまっていた。


絵本に出てくる親指の顔を怖がってはいるものの

「指しゃぶりをしても顔なんて出てこない」と言い始めたのだ。


くっそぅ・・・

現実を分かってやがる・・・泣


それでも絵本は定期的に読み続けた。

図書館で借りていたので読めない週はあったが、返したあともすぐに予約を入れて借り続けた。

(予約を入れるたびに待ち人数は必ず1人から2人はいた。)



そして何か他に方法がないかと考えていたある日・・・

息子が6歳になって数日後のことだった。


C園で遠足があるのでお弁当を作らないといけない。


100均へ、”食べられるデコシール”を買いに行こう!・・・と足を運んだ。


お弁当を作る時は毎回恒例なのだ。


いつものデコシールを買おうと売り場へ向かったら、その日は複数の種類のデコシールが置かれていた。


初めて見るデコシールたち・・・

そこで目にしたのは、おじさん顔のデコシール。


絵本の『ゆび〇こ』に出てくる顔とは違うが、共通点がある・・・おじさんの顔だということ。


ふとよぎる疑問。

可食性・水溶性フイルムが皮膚に貼りついてもいいのだろうか?


保管上の注意に”濡れた手で触らないでください”と書かれてある。


指にひっついたシールは剝がれなくなるが、洗い流すと簡単に落ちた。


私は”すぐに洗い流すこと”を条件にして

息子が指しゃぶりをした時、口の中から親指を取り出して「親指見せて~?」と言いながら即座にデコシールを貼った。


デコシールは湿った指にすぐ馴染む。


そして「あれ!?絵本みたいに顔が出てきてるよ!?」と白々しく言うと、息子は「いや~!!」と言いだした。


「まだ口に入れたばかりだからすぐに消えてくれるかもしれない!洗いにいこう!」と言ってすぐに洗い流した。





息子は泣きはしなかった。

本当に親指に顔が出てきてしまった驚きの方が勝っていたのだろう。


ただ、すごく嫌がってその日は指しゃぶりをしなかった。


そして次の日も・・・その次の日も・・・それから息子が寝る時に指しゃぶりをすることはなくなったのだ。


次男も同時期に同じ方法で指しゃぶりを卒業した。


 ※ 私には危険性が分からないのでおすすめはしません。

   真似はしないで下さい。




今では新型コロナウィルスが流行しているので、指しゃぶりをしてほしくない親は多いだろう。


指しゃぶりは卒業したものの、息子は小学生になっても手や物・・・なんでもかんでも口に入れる。


それでも指しゃぶりほどのストレスはなくなった。


ただ・・・息子の前歯は少し出っ歯になってしまっている・・・ような・・・気がする。

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