第12話 弱まる心と身体
崇明に求婚の返事をしてから数日が経った。
今日も普段と変わらず桜河と共に居間で夕食をとっていると、食べ始めてすぐに撫子の箸が止まった。
ほんの数口しか料理を食べていない撫子に桜河はすぐに声をかける。
「撫子どうした?」
「食欲があまりなくて……」
そう話す撫子はいつもより顔色が悪く息遣いも荒い。
出会ったときから撫子は小食で桜河や使用人が料理を勧めても申し訳なさそうに断り、目の前に出されているものさえ残すときもあった。
最初は料理が口に合わない、体調が悪いのではと問いかけたが本人は頑なに違うと言っていた。
しかし姿をよく見てみると服から覗く首元や手首はひどく痩せていて病気ではないというなら過去の食生活に問題があったとしか考えられなかった。
水鏡の儀のあと、鈴代家に内密で送った使役獣から送られてくる念話で虐げられている撫子を見た。
撫子の異常な細さの原因を考えるとしたらそこしかないだろう。
ふつふつと怒りがこみ上げてくるが撫子を驚かせてしまうため今は必死に抑える。
腕を伸ばし撫子の額にそっと触れると掌にじんわりと熱が伝わる。
「熱があるな」
「で、でもこれくらいすぐ治ります」
鈴代家にいた頃も今のように体調が悪くなることも多々あった。
しかし休むことは許されず必死に苦しさを抑え働き、どうしても辛いときには他の使用人に頼み込んで薬を分けてもらった。
桜河やここで働いている使用人達は無理しなくて良いと言うと思うが撫子には分かっていた。
経験上これくらいだったら一晩寝れば治るはずだと。
心配させないように桜河に笑いかけようとするが頬の筋肉が凍りついたように思うように動いてくれない。
(あれ……?)
急な体の異変にじわりと額から汗が出てきた。
「大丈夫だから」と伝えたいのに喉がなぜか詰まったような感覚がして声すら出ない。
撫子が動揺していると一瞬ふわりとした感覚になる。
気づけば撫子は桜河に抱きかかえられていた。
「……!」
普段だったら驚きが声として出てしまうのに今はそれすらも伝えられるような気力もない。
「休んだ方が良い。百合乃、医者を」
「かしこまりました」
近くに控えていた百合乃に視線を向けると彼女を筆頭に慌ただしく他の使用人も動き始める。
龍神の花嫁が体調不良など彼女らにとって一大事なのだろう。
厨房へ向かう者、毛布を取ってくる者、あちこちに撫子を看病する為の準備で動き回るが決して体に障らないように大きな声やバタバタとした足音を立てなかった。
それだけ龍神とその花嫁に仕える者として心得ているのだろう。
無駄な動きが一切なかった。
撫子は桜河の腕の中から自分の為に動いてくれている使用人達を見て泣きそうになった。
そのときふと脳裏に過去の出来事が走馬灯のように流れ撫子はそっと瞳を閉じたのだった。
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