第7話 4と9

~異世界メジューワ、アモリア国、リデニア国境付近~


アモニア国とリデニア国の国境付近に

布に包まれた荷物を背負い歩いて行く男が居た。

男はある時聞いた冒険者たちの話を思い出していた。

女「ホントにそんな像があんの?」

男「女神像があるのはホントらしいぜ」

女「いや、ホントにそんな“奇跡”の像があんのか?って意味よ」

男「真意は行った人間しかわからねぇが、火の無い所に煙は立たねぇって言うだろ?」

女「はぁ、もっとましな情報持ってきなよ!今月もカツカツなのよ!」

男「だからさぁ、その女神像の前で金が湧いたって話しだろ」

女「じゃぁその後の万病が治せるって話は?」

男「そう言う何でも起きるっているのが“奇跡”っぽくて夢があるじゃないか」

女「夢だぁ?」

ゴキ!!

男「イテ!」

女「寝言は寝て言え!このアホ!」

バキ!

男「イテェ!!」

母国アモニアで聞いた“女神像”の話し。

その男は、リデニア国に300年以上前から存在する遺跡を

藁をも掴む思いで目指していた。

「俺は諦めない・・・何でもしてやる・・・必ず・・・」

男の行く手に狼の様な魔獣が5匹現れ、

背後にも3匹取り囲むように現れたが、

一切ひるむことなく男は歩き続ける。

1匹の狼魔獣が遠吠えを発し、

残りの7匹が一斉に男に襲い掛かった。

男は手に持つハルバードの様な槍斧で薙ぎ払い、

そのひと振りで襲い掛かった7匹が全てを絶命させた。

号令をかけた1匹の狼魔獣は圧倒的な戦力差を

目の当たりにしても逃げるそぶりを見せない。

仲間を殺された怒りか、自身のプライドか、

逃げようとはしない。

しかし向かってくることもしない。

「・・・お前も後に引けないタイプか・・」

ズゴーン!!

直後、狼魔獣の脳天に雷が直撃し絶命した。

「しかし・・・立ち止まるぐらいなら前に進め、俺はそうする・・・」

そして男は歩き続ける。

“奇跡”など信じてはいない。

意味がないかもしれない。

何をすればいいのかもわからない。

しかし何かをしていたい。

「・・・この二年間、糸口すら見つかってないがな・・・」

“妹”の為に出来る事は何もない・・いや、

“人間”にはどうにもならない、

もはや“奇跡”を起こすようなものだと男は予感していた。

それでも立ち止まらない。

進む事しか出来ない。

男の予感は正しい。

“人間”にはどうにもならない“神”の力。

その力に“護られている”妹を“救う”など

人間には不可能なのだ。

しかし、進む事を止めず男が掴んだ藁は成就する。

男の向かうリデニア国には今、

“人外”が居る。

女神像の前で“4”は目覚める。


~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨトウ、中央街・東~

~食処「益々」~


朝から賑わいを見せる大きな店。

そこで食事をとっているソロル達がいた。

周囲からの視線を気にすることなく

食べ続けるナトスとミノアを

諦めの表情で傍観するソロルは

すでに食事を終えていた。

「・・・ねぇ、・・どうなってるのあなた達、食べてる量と体格の体積が合わないでしょ・・“俺の胃袋は異世界だ”とか言い出さないでよ」

『お前知ってる?』

『知らなーい』

「ひょろちゃん、ひょくが進んえ無いようあが、・・どうした?口に合わなかったか?」

モグモグしながらナトスがソロルに話しかけ、

飲み込んだ後質問した。

それに追従するようにミノアがモグモグしながら質問し、

飲み込んだ後感想を口にした。

「ほれあべて見る?・・美味しいよ♪」

ソロルは差し出された皿をそっと押し返しなが

大きなため息を付いた。

「はぁ・・結構です・・・(何なのさっきから会話がかみ合わない・・子供の様に夢中で食べてる姿は可愛いとすら思ったけど・・・食べてる量がヤバすぎる・・誤算だった・・どう稼げば良いの・・・)」

ナトス/ミノア「・・ご馳走様でした♪」

「い、いっぱい食べたね・・・」

苦笑いを浮かべながらソロルが言うと、

ミノアが申し訳なさそうに言った。

「やっぱり食べ過ぎてた?途中からわからなくなったんだよね・・」

「・・我を失っていた・・かもしれない」

「そ、そう・・そんなに美味しかったなら、よ、良かったわね・・」

ミノアはナトスに視線を送り、

それに気づいたナトスは軽く頷いた。

「お姉、僕らの事を話しておきたいんだけど、良いかな?」

「え?あなた達の事?・・・」

ソロルは突然の申し出に不安な表情を見せた。

それを見たナトスは補足しつつ自分からも再度申し出る。

「恐らくソロちゃんは、遅かれ早かれ知る事にはなると思う、その根拠も俺の中にはあるが、どちらにせよ俺達には協力者が必要かもしれない・・・だから話しておきたい」

「・・・知りたいのは知りたい、ずっと気になっている事もあるし、知る責任が私にはあると思ってる・・でも、それを知るのが怖い・・・」

「(気になる事?怖い??)」

ミノアはその返答に疑問を持ったが、

さっきの不安な表情からもナトスはその意味を

洞察していた。

「(責任ね・・)・・ソロちゃん、俺とミノアの家族はこの二人だけだ、友人恋人なども居ない、両親も含めもう死んでる」

「・・死んでる?」

そしてミノアも気付き、

ナトスの言いたい事を補足する。

「(あぁ、気になる事ってそれかぁ)・・ついでに言っとくと、僕らがここに召喚されたのも偶然では無いと思うよ」

「!?それはないわ、だって私が召喚の義を行ったのは本当に偶然だった、現に直前まで召喚の義をする気なんて無かった、無理だって諦め・・はっ!・・・」

ソロルの表情の変化にミノアが反応した。

「何か思い当たる節があるんだね」

ソロルは頷きながら、答えた。

「・・・あの時、声が聞こえた・・・ちょっと前にミノアの声が頭の中に響いたみたいに・・あの時確かに聞こえたの、“召喚して”って、知らない女性の声が・・・」

ナトスとミノアは、“今回”の様な事は

初めてではなかった。

“あの時”の様にイレギュラーが起きたと。

「それは“念話”と呼ばれる能力だ、女性の声は十中八九“アルモニア・セオス”」

あの時は“トゥルチア”にイレギュラーが発生し

“アルモニア”へプランBが託された。

故にナトスは、今回“アルモニア”から“ソロル”に

託されたのではないかと考えていた。

「“アルモニア”?知らない名前だけど・・いや、知ってる!ナトスのステータスでその名前を見た気がする!」

「そうだな・・その“アルモニア”だ」

ナトスは不安な表情を一瞬見せた。

ソロルの話はアルモニアからソロルへ託された事を

意味していたからだ、プランBが。

つまり“アルモニア”の身にもイレギュラーが起きていると。

「その女性の介入で、お姉は僕たちを召喚したとなると、アルモニアさんが僕らをここへ連れて来たかったって事になる、偶然ではなかったんだ」

「じゃ、じゃぁ何、むしろ私の方が偶然あなた達に関係してしまったって事?」

「それも、ちょっと違うかも」

ナトスもミノアも“アルモニア達”が

偶然や事故と言った現象と

無縁の存在だと認識している。

今回もプランB、あの時“アルモニア”が

そうであったように“ソロル”もそうなのだと。

「“彼女“達”がやる事に“偶然”は無い”、これはいつのころからか俺が念頭に置いている揺ぎ無い根拠の一つだ、つまり・・・ソロちゃんが俺達の召喚に関わった事も偶然では無く、何かしらの意味がある・・」

「・・私に?・・意味?・・・どんな意味があるっているの?・・・見当もつかない・・あなた達って本当に何者なの?・・・」

「よし、では早速その件について話をしようか」

「お姉の気にしてること、少しは払拭できたかな?」

「・・わかったわ、あなた達の事教えて」

ソロルは確かに気に病んでいた。

二人の兄弟を他の家族、友人、恋人、

いや妻や子供から引き離したのではないかと。

彼らにとってここは死地ではなかったが、

戻す方法もわからない。

自身の身勝手な召喚の義に二人を巻き込んだ責任は

ソロルにとっては重すぎて、

その背景を、大事な人がいる事を知るのが怖かったのだ。

しかしそれは杞憂に終わる。

この後聞いた二人の話はソロルの想像をはるかに超えるもので、

本来信じる事は出来ないほどものだった。

しかしすでに異能の力を目の当たりにしているソロルは

不思議と納得していった。

そして考えが及んでいく。

二人に関わった自身の意味に。


{ソロル達の“秘密”が明らかになっても

その“意味”を知る事は出来ない。

ナトスの言った“彼女達”がやる事に

“偶然”は無い”は、正しい。

“神”の意思に“偶然”は無い、

起きたことは全て“必然”。

しかし今回(107回目)もプランBだったのは間違いなく、

あの時(33回目)と同じく、

本来あるべき流れではなかった。

こういう時、得てして人間は“必然の範疇”を

超える事があるのだ。

あの時も1歩から100歩まで神の意志必然だった。

しかしナトスとミノアはそれに関わった

人々の影響で“偶然”にも101歩目を踏んでいた。

今回も1歩から100歩まで神の意志必然なのだろう。

しかしナトスとミノアはソロル達の

影響で“偶然”にも101歩目を踏んで行く。}

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