第5話 人格①

~~人格~~

~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨトウ~am5:00


ノウビシウム家でシェンターが

ソロルに足蹴にされていた頃、

“クヨトウ”の南街・中央にある

“公営ギルドA型事業局南支部”

の近くにユナの姿があった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・もう少し・・・」

私が概ね80kmの道のりを馬無しで踏破し、

街の入り口で馬を借りここまで約30km、

この時間にたどり着いたという事は

不眠不休だった事を意味してんだよね。

ギルドの前で馬から降りるのもやっとだよ。

「はぁ・・はぁ・・・カウンターってこんなに・・・遠かったか・・・」

マジで疲れ切った私がギルドのカウンターにたどり着くと、

受付の女性トコーナがびっくりして声をかけてきた。

「ど、どうしたんですか!?ユナさんフラフラじゃないですか!?」

「緊急で・・報告がある・・ギルドマスターは居る?」

「マスターに緊急!?しょ、少々お待ちください!」

私達アキトパーティー四人は、

ここ南支部を拠点として活動している

冒険者パーティーだからギルド職員とも

顔なじみなんだよね。

全員Cランクで実力は・・・だけど、

アキトの野郎が外面の良いのもあって

それなりの信頼は有ると思う。

その為なのか私の緊迫した状況を察してくれて、

何の疑問も持たずギルド職員のトコーナは

走り出してくれてた・・・って

さっきから私は誰に語り掛けてんだ?。

「ソロルの件も報告しなくちゃ・・・」

程なくしてギルドマスター“ベネー・プルカーノ”が

足早に姿を現した。

「どうなさいましたかユナさん、こちらも別件対応で忙しいので手短に頼めますか」

「はい。南の樹海内で猿魔獣オランアームレッド、レベル166を確認しました」

「!!!」

「“冒険者規定”にある“居住区100km圏内脅威報告義務”に伴い報告いたします」

「(ユナからこの報告が上がるとなると、情報源は・・・)個体番は解りますか?」

「はい。“鑑定”の結果13番です。アキト、ソロル、私の三人が確認しています。」

「(・・・間違いなさそうね)あなた達パーティーは“失踪者捜索”中だったと認識していますが、他のメンバーはどうしましたか?」

「はい。アキト、ミュウ両名は疲労困憊の為“黒岩野営地”で休息中です。パーティー内で“肉体強度”の一番高い私がここまで直行しております。・・ソロルは・・・撤退中私達三人を安全に避難させるため囮になったと思われます。ただ、ソロルの技能を考えたら生存していると思います!だ、だから、ソロル救出部隊を編成してください!!私もそのメンバーに志願しま・・!!」

毅然と報告を全うしていたユナだが

彼女自身も疲労困憊。

最後は感情的になり捲くし立てた反動で

フラ付き倒れそうになった。

「大丈夫ですかユナさん、ソロルの件は一旦預かります、確認させてください、しかし猿魔獣の件は同じ情報をすでに得ています」

「(え!?)」

ベネーは続けて力づよく発言した。

「“遺跡外高レベル魔獣報告”並びに“居住区100km圏内脅威報告”を合わせて“極めて社会貢献度が高い”緊急討伐任務を発令します!」

「まじか!」「ちょ、早くリーダーに」

「ランクアップ任務!?」「珍しなぁ」

「166はパスだろ!」等、

ギルド内に居た冒険者がどよめき騒ぎ出した。

「トコーナさん、各関係機関に情報共有を」

「はい!」

「みなさん!お聞きの通り“極めて社会貢献度の高い”任務となります!報酬はこの後しっかり掲示しますが、“冒険者規定”に則り、Bランク昇格は確実です、内容は単純明快、ここより南方に現れた“猿魔獣オランアームレッド、№13の討伐”のみです、166LVと高レベルではありますが腕に覚えのある“Cランク”冒険者も多いでしょう、このチャンスをつかみ取りなさい!」

私が檄を飛ばすとその場で話を聞いていた

“Cランク”冒険者の数パーティーが

反応し動き出してくれました。

彼らは、同じ“Cランク”冒険者パーティーの

アキト達が戦いもせず逃げ帰った166LV相手でも

「俺達ならやれる」「私達なら戦える」

と実力が圧倒的に上である事を

意味していますね。

何故これだけ同ランク帯で実力の差が

出てしまうのでしょうか。

それはこの国リデニアにある冒険者ランクに係る

悪しきシステムのせいなのです。

現在リデニア国内には約937万人の冒険者が居ますが、

“世界冒険者協会”規定の全12階級冒険者ランクの

内訳でBランク以上

(B+・A・A+・S・SS・SSSを含む)

の総数は47,081名と全体の1%にも満たないのです。

対するCランク冒険者の総数は約460万人と

半数近くに上っています・・

CランクとBランクの間には

大きな壁があると感じませんか?

この壁は前述通り“実力”ではなく

Bランクに昇格する機会が少なすぎる、

悪しき昇格システムの“壁”なのです。

私は常々、これを改善できない自分の実力不足を

嘆いているのです・・・ってあらあら、

私は誰に語り掛けているのでしょう?

「・・・さん!」

「ベネーさん!!」

ユナがベネーに呼び掛けている。

「はっ・・はいはい」

「ベネーさん!ソロルの件もよろしくお願いします!」

「わかっていますよ、いくつか確認してから必要ならあなたにも声をかけますから、では、これで」

そう言うとギルド職員と話をしながら

中へ引っ込んでしまった。

「(おかしい・・ベネーさんは日頃、ソロルを気にかけていた感じがあった・・もっと真摯に受け止めてくれると思ったのに・・魔獣の件はすでに情報を得ていた?・・なんか裏があるのか?)・・・とりあえずソロルの実家に行かなきゃ・・・」

ユナはそうつぶやくとギルドを後にした。


~~召喚者~~

~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨトウ~am5:00


~ノウビシウム家応接室~

カチャン・・。

ソロルに足蹴にされた左頬をさすりながら

受話器を置いたシェンターが

ソファーに座るソロルに話しかけた。

「(・・一つ解せん事があるのぉ・・・)魔獣の件は大方分かったが・・・」

コンコンコン。

扉をノックしオフィームが入ってきた。

「氷嚢でございます。」

「おぉ、ありがたや、すまんのぉ。」

「想定内でございましたので。」

「・・・」

「では、失礼します。」

オフィームはそそくさと退室していった。

シェンターは氷嚢を左頬にあてると、気を取り直し話しを再開させる。

「ソロルや、その二人も気になるところじゃが、一つどうしても解せん事があってのぉ、聞きたいのじゃが・・・」

「な、何よ・・・」

ソロルは魔獣の報告の中で、

アキトが自分を囮にしようとしたことを、

あえて触れないようにしていた。

「一緒に居ったはずのトラフォールのガギ達はどうしたんじゃ?」

「え、な何でよ・・・」

アキトの凶行により皆とはぐれ現在に至るソロルは、

実際にメンバーの所在を知らないでいた。

信頼を置くユナが先陣を切りその技能を行使すれば、

よほどの事が無い限り無事であると思ってはいても、

メンバーの所在を知らないソロルは

報告のしようがなかった。

さらにその理由をあえて隠す事で、

不自然極まりない報告となっていたのだ。

「高レベル魔獣の脅威なんて嘘をおぬしが言うとも思えんし、そこは大方真実として受け取ったが、ここに他のメンバーが居ない理由を“意図的”に隠した感じがしてのぉ、見知らぬそこの二人と関係があるのかのぉ?」

ナトス/ミノア「・・・」

余計な事はしてはならないと固く誓った二人が

この問いかけに反応する事はなかったが、

ソロルは致命的に嘘が下手であった。

「は?え?い、意図的って何よ人聞き悪いわね!あれよ、普通にはぐれたのよ・・そうよ!私にはシャリが居るじゃない?だからみんなを逃がす為囮になったの!そのままシャリでここまで帰ってきたから知らず知らずに追い抜いたのかもね、馬車を失った皆はまだこの街に帰り着いてないわ!」

「(へ、下手すぎる・・聞き様によってはソロちゃんが悪く聞こえる・・・)」

「(ヤバすぎ・・みんなを見捨てて一人で逃げてきましたって聞こえる・・・)」

シェンターは大きなため息とともに頭を抱えてしまった。

「ソロルや、おぬしがどんな人間かわしは良く知っているつもりじゃ、故に、誰の何を庇う為、おぬしがそんなへんてこな嘘をつくのか益々気になるぞ・・・」

「あぁーもう煩い!そんな事より、おじいちゃんこの二人を“鑑定”!」

ソロルが強引に話題を変えようと“鑑定”するように促し、

幸いにもシェンターの興味を引いた。

「ん?何故おぬしがそんな許可を出せるのじゃ?その辺も厳しい人間じゃろて」

「私が召喚したの!これでいい!?」

ソロルは“当たり前の事でしょ”と言わんばかりに言い放った。

「なんと!?・・今のは嘘に聞こえんかったが・・どう見ても人間じゃろぉ」

イラッ!

シェンターの“お前の嘘はバレバレだ”と

言わんばかりの言い様にソロルはイラついたが、

ソロルに全面的に協力しようと固く誓った二人が

これに即座に反応した。

「当主殿、我々は構いません」

ナトスが言うとミノアが追従する。

「おじいさん、僕達気にしないのでどうぞ」

二人に少なからず興味を持つシェンターは、

二人の同意もあった事からソロルの提案を飲む。

「・・・当人が言うのであればまぁ・・・“鑑定”させてもらおうかのぉ」

そう言うとシェンターの左目が青白く光りだす。

それと同時にナトス達はあの時と同じ違和感を

体中に感じていた。

『兄さんこれ、やっぱり感じるね、みんなそうなのかな?』

『いや違うだろうな、もしそうならソロちゃんが俺達を覗き見容疑で詰めた時それを言っているはずだ』

『僕達だけなら能力に関係してるってことかな』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

氏名:ナトス(ソロル・ノウビシウムに召還されし者)

職業:召還者(使途)

レベル:1 lv  年齢:23 歳  状態:普通

HP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

MP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


技能:有


肉体強度:S Rp   精神強度:S Rp

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

氏名:ミノア(ソロル・ノウビシウムに召還されし者)

職業:召還者(使途)

レベル:1 lv  年齢:19 歳  状態:普通

HP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

MP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


技能:有


肉体強度:S Rp   精神強度:S Rp

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シェンターは二人のステータスを確認し、

いくつか思う事があった。

それを思考しながらも二人に話しかけた。

「(・・うむ、ソロルが召喚した“者”で間違いはなさそうじゃな、・・しかしこれは何と言う事じゃ)・・話が通じるか・・・。」

「はい。当主殿の御認識の通り、我々は人間である自覚があります、ここへ召喚される前も後も人間として生活していた記憶を有しております」

シェンターの“気付き”に答えるように、

ナトスが“人間”である事を伝えた。

「(え・・・はっ!!)」

ソロルはこの時、自分がしてしまった事へ

“恐怖”していた。

どう見ても人間の様に見えるナトス達を見た時

気付くべきだったのだ。

もしかしたら二人の兄弟を、その生活、

他の家族から引き離してしまった可能性を、

自分の身勝手な召喚で。

「どうにか元の世界へ戻るすべはありませんか?」

ミノアの問いに慌ててソロルが付け加える。

「(はっ!)お、お願いおじいちゃん!何とか戻してあげれる方法無い?私のせいなの!!」

シェンター/ナトス/ミノア「(ん?)」

明らかに先ほどまでの態度と変わったソロルに

三人とも違和感を覚える。そして、

付き合いの長いシェンターは

直ぐに“答え”にたどり着いた。

「(なんじゃぁこやつ、今気づいたのか)」

そして本来話そうと思った事を後回しに、

祖父心から叱責の意味を込めて脅しをかける。

「ソロルや、気を付けねばならんぞ・・」

「え!?・・何を?」

トゥル・・・。

ソロルが聞き返した時一瞬電話のコール音が鳴る。

すぐに途絶えたが、切れた訳ではなく、

通話状態の様である。

「(別の部屋でオフィームが取ったか・・)」

話しの腰を折られたシェンターをソロルが急かす。

「ねぇ、何をなの!?」

「・・おぬしも学校で習ったであろう、この“メジューワ”に存在する生きとし生けるものすべてにレベルが存在する」

「そんな常識知ってるわよ・・・」

ソロル自身常識として認識していた事柄であったが、

シェンターが言い方を変える事でソロルにも伝わりだす。

「つまり“死”と言う概念があるものにレベルの表記があるのじゃ」

「え!?」

「おぬしも知る通りレベル表記の無い召喚獣“シャリ”に“死”は存在しない、おぬしの技能で“再生”出来るからじゃ、しかしおぬしに召喚されたこの二人はおそらく死ぬ、おぬしの力で再生も出来ぬであろう」

「!!!」

ソロルは絶句した。

シェンターの話はおそらく正しい。

自身が認識していた事以上に重すぎる事実。

先ほどまでと打って変わって、ソロルの心は

二人への贖罪で耐えられなくなっていた。

「(わ、私は無関係の人間を巻き込んだ・・二人はレベル1・・この世界では弱すぎる、すぐに死んでまう・・ちがう、すでに死んでいてもおかしくなかった、・・あの時に・・・私がおとなしく死んでいれば・・)・・・私はなんてこ・・」

「それぐらいにしておきましょう。当主殿。」

ナトスはソロルの思考と発言を遮るように声を発した。

短い時間とはいえ自身が感じているソロルと言う人間の人物像、

それを前から知るであろうシェンターとのやり取り、

心境の変化であろうソロルの違和感、その前後の話し。

その全てからナトスは洞察し

すでにシェンターのたどり着いた“答え”にとどき、

シェンターが今何をしたのかも察していた。

そしてそれを感じ取ったシェンターは

少し嬉しそうに同意し話しを続ける。

「(ふぉふぉ、なかなか切れるやつじゃて・・・)もとよりそのつもりじゃ、さて、結論から話すと、わしゃおぬしらを戻す方法は知らん」

ソロルにとってはすでに優先順位が変わっていた。

二人を守る方法を考えないといけないと。

「え!?ちょっと待って!た、確かにそれを知る為にここに来たけど、今はそんな事よりすぐにでも対策取らないといけない事・・」

「まぁ待て、ソロルや、少しは落ち着かんか」

自分のしてしまった事への罪の重さからパニックになるソロルを

シェンターはなだめようとしたが止まらない。

「落ち着けるわけないでしょ!!この二人はその辺にウジャウジャ居るレベル3の野鳥にすら突っつかれて殺される可能性があるのよ!あぁー何であの時私は召喚の義なんてしたのよ・・・私のせいだ!無関係の二人を危険にさらしてしまった!!」

ソロルはあの時聞こえた“知らない声”の事すら

記憶の彼方へ追いやり自分を責め続けていた。

自分の身勝手な判断だと。

死ぬべきは自分なのだと。

しかしソロルは直ぐに落ち着きを取り戻す事になる。

『お姉!落ち着いて!』

「(え!?)」

『僕と兄さんは簡単に死なない、安心して』

ミノアがいたたまれなくなり、“念話”でソロルに語り掛けた。

ソロルは“念話”を使えない。

ソロルから帰ってくる言葉は無いが、

ミノアの“思念”はソロルに届く。

そしてソロルは落ち着きを取り戻していたのである。

「(ミノアの声・・・確かあの時もこんな声が聞こえた・・)」

シェンターがソロルを落ち着かせようと声をかける。

「話が出来んじゃろ、一旦落ち着かんか!」

「え?う、うん、ちょっと頭が靄付くけど大丈夫・・」

一瞬で落ち着きを取り戻しているソロルの反応に

シェンターは困惑した。

「(!?なんじゃ、明らかに落ち着きを取り戻しおって・・感情の起伏が激し過ぎやせんか・・)よ、よいかソロル、わしは“鑑定極”を持っとる、おぬしが見えぬ範囲も確認できとる」

「“二段目”でしょ?知ってるわよ」

ソロルは“そんな常識知ってるけど、なにか?”

ぐらいのテンションで応答した。

「(ケロッとしおって・・ちょっとイラつくのぉ)・・・そうじゃ、自分自身のは“三段目”まで確認できるが、他人のは“二段目”まで見えとる」

ナトスは二人のやり取りから、“見え方の違い”に

そんな法則があったのかと納得しながら

再度自身のステータスを確認していた。

そして変化に気づく。

『ミノア、今自分を“鑑定”して見ろ』

そして“念話”でミノアに促した。

そしてそれを確認したミノアは驚愕する。

『え?・・うんわかった・・・え!?“寵愛”!?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

氏名:ミノア(ソロル・ノウビシウムに召還されし者)

職業:召還者(使途)

レベル:1 lv  年齢:19 歳  状態:普通

HP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

MP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


技能:有


肉体強度:S Rp   精神強度:S Rp


「武」「視」

「超能力」

「神の寵愛トゥルチア」

魂魄強度:SSS Rp

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シェンターの説明が続く。

「三段目の“魂魄強度”を確認出来なんだが、二段目の“肉体強度”“精神強度”共にアルファベットで記されておった」

「アルファベット?“シャリ”も数値じゃなくて記号の様に“C”“B”って記されてたって前に言ってたよね?」

ソロルは過去シェンターの前でシャリを召喚し、

見てもらった事を思い出していた。

そしてシェンターもその事を思い出し、

ソロルの言葉を補足する。

「そうじゃな“シャリ”は“肉体強度C”“精神強度B”と記されておった」

ソロルはシェンターに、ナトスとミノアの事も聞こうとしたが、

重要な事を思い出す。

「ナトスとミノアは?あ!!そう言えば“鑑定”使えるんだからあなた達自身は二段目見えてるんじゃない!?私に開示してよ」

この発言にシェンターは驚く。

「!!なんじゃと!“鑑定”が使えるじゃと!?」

「そうよ、私とシャリが覗きの被害にあってるの、あぁーもぉ頭がモヤモヤする!!さぁ、早く“お母さん”に見せなさい」

すでに“鑑定”どころか“鑑定極”が使えている二人は

一瞬躊躇した。

三段目までを開示する事になるからだ。

しかし、ミノアは話の流れ上自分たちが

“簡単に死なない”と理解してもらう為に

必要かもしれないと思っていた。

そして“念話”でナトスに促す。

『・・・覚悟を決めよう兄さん』

ソロルが二人に再度詰め寄る。

「どうしたの?自分でステータスを確認している状態で相手に見せようと意識すれば自然と開示できるわよ、イライラするからサッサとして!」

ナトスは開示すること自体概ね同意していた。

むしろ自分たちの“強い弱い”の話題において

情緒不安定なソロルを見て

急いだ方が良いとすら思っていた。

しかしその前に誤解を招かぬよう

“理解”してもらう必要があった。

「承知した・・ステータスの開示はしよう、しかしその前に2点話しておきたい。そして今はそれを信じて欲しい」

「うむ、なんじゃ言うてみい」

シェンターはナトスと言う男がいかなる人物か正直わからない、

しかしこの短時間でのやり取りの中で、

一定の信頼を置ける人間であると感じていた。

ナトスもまたシェンターに同じ感情を抱いていた。

“理解”してくれると。

「はい。まず1点ですが、俺達は“鑑定”や“鑑定極”をこの身に受ける事で、それが使用できるようになるようです」

「(なんと!?)」

「え?なに?どういう意味?」

「・・・つまり今は“鑑定極”が使えると・・・」

シェンターが補足するように答えるとソロルが噛みつく

「はぁ!ちょっと待って!!あぁーもぉ頭がモヤモヤする!!あんた達、私たちの“二段目”をも覗き見したって言うの!?スケベどころの騒ぎじゃな・・」

「騒がしいぞソロル!!」

騒ぐソロルの発言を遮るようにシェンターの喝が入る

「!!」

「落ち着けソロル・・わしじゃて、久しくあふれ出る知的欲求に興奮を抑えるのでやっとなんじゃ・・・わしは見たい、知りたいぞぉ、おぬしらの“三段目”が!はよ言わんかい、2点目は何じゃ!?」

ナトスは思いの他食いついてきたシェンターの反応に

苦笑いを浮かべながらも話しを続けた

「はい。2点目はその“三段目”に関する事で、俺達はそこに記載されている内容に関して理解が及んでいません。聞かれても答えを持ち得ていない為、詮索は無用です。よろしいでしょうか?」

「(・・・今は言いたくない・・か)・・・承知した。約束しよう」

「ちょっと待って、勝手に話が進んでるけど、私は納得してないからね!」

落ち着きのないソロルの反応にミノアが話に割って入る。

「お姉には後で分かるように説明するから・・・」

それにソロルが噛みつく。

「はぁ?何よ、“分かるように”って!私だけが頭悪いみたいじゃない!」

「何じゃ、おぬし分かっとるではないか、おぬしだけ理解できなんだアホたれじゃ」

「はぁ!?」

ソロルとシェンターのやり取りにミノアも苦笑いを

浮かべながら話しを続けた。

「お姉、僕らが“鑑定極”と言われる能力を使えるようになったのは今この場でだよ、おじいちゃんから“鑑定極”を受ける事で使えるようになった、自分の感覚的にも間違いないと思ってる」

そしてシェンターもヤレヤレとソロルに補足説明をしだした。

「おぬしの言う覗き見事件はそのずっと前じゃろて、その時は“鑑定”しか使えなかったから見られたのは一段目だけじゃ、もっと言うならおぬしが先に“鑑定”したのではないかのぉ?それで使えるようになったと言っておるんじゃ、分かったかアホたれ!」

ナトスはさっさと開示してしまおうと、

ソロルの意見を待たずに話しを進める。

「(ソロちゃんは未だポカンとしているが・・・)当主殿のおっしゃる通りです。では、開示します。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

氏名:ナトス(ソロル・ノウビシウムに召還されし者)

職業:召還者(使途)

レベル:1 lv  年齢:23 歳  状態:普通

HP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

MP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


技能:有


肉体強度:S Rp   精神強度:S Rp


「文」「聴」

「超能力」

「神の寵愛アルモニア」

魂魄強度:SSS Rp

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シェンターは最初に“鑑定極”で見た時に思った事を確信していた。

「(神の寵愛・・・触れられたくない部分はこれかのぉ・・・)魂魄強度SSS・・・」

「ホントだ、Sって記されてるわね」

『おじいちゃん聞いてこないね、お姉はわかんないけど』

二人の様子を見ながらミノアが“念話”でナトスに話しかけた。

ナトスは嬉しそうな笑みを浮かべ返答する。

『そうだな、信頼できる人物だな』

しかしソロルは空気が読めない。

「ねぇ、この“神の寵愛”ってなに?」

シェンター/ナトス/ミノア「!!」

シェンターは頭を抱えながら話題を変えた、

自身の得た確信を話す為。

「ソロルや、無用な詮索はしないとわしが約束しとる、ここはわしを立ててくれんかの?それよりもおぬしに質問じゃ、“召喚士”の歴史はどれぐらいかの?」

召喚士としての誇りを大事にしているソロルにとって

この質問は興味を引いた。

「“召喚士”?はっきり言って他の職業に比べたら全然浅いわ、100年ぐらいよ」

そしてシェンターは続ける。

「そうじゃな、それに輪をかけて人口も少ないときとる、故に“召喚獣”の事が殆ど解明されていないと言っても過言ではない」

「え、そうなの?“シャリ”と普通に意志疎通できてたからそんな風に感じた事なかったわ」

実際ソロルは召喚獣シャリが何を思い、

何をしようとしているのか手に取るようにわかる。

「大抵召喚士は皆そんな感じじゃ、じゃがその他大勢から見た“召喚獣”は得体のしれないものでしかないのでのぉ、そこに法的にも制限をかけとるじゃろ」

「まぁ・・・確かに」

「色々と前置きするのは好かんからの、はっきり結論を言うが・・・この二人は強い、現存する“冒険者”と比べて最も強いと言えよう・・・」

シェンターにはそう言える根拠を持っていた。

しかしソロルがそれを知る由もない事を

シェンターは知っている為、

真っ向から反発してくることも予想していた。

「はぁ?レベル1だよ?そこまではないでしょ!頭痛くなるからわけわかんない事言わないでよ」

しかし予想とは少し違う反応が返ってきた。

「(ん?“そこまで”?なんじゃ、一定の強さを認めるような発言じゃが・・)さすがに一々説明するのは疲れるからの、おぬしに一つだけ事実を突きつけるなら、その二人に聞いてみぃ、報告のあったオランアームレッドはどうした?今までの話からしてその場におったじゃろ」

「えっ!?」

シェンターはソロルが無事に戻ってきたのは

この二人を召喚したからだと確信していた。

そして、論より証拠、それを突きつけるのが一番早いと考えていた。

「大方、召喚の義でその二人を召喚した際、気力枯渇で今まで眠っておったのじゃろて、おぬしのフワフワした報告はそのせいじゃ、どうじゃ?当たりじゃろ」

「くぅっ!!」

論より証拠、ソロルのようなタイプは確かにそれが

早いかもしれないとミノア感じ

シェンターの話を肯定する。

「あの大猿さんは倒しましたよ」

「え!?」

ミノアの発言に驚愕の表情を浮かべているソロルに

ナトスもその事実を補足する。

「まだあの場に転がっております。ソロちゃん、俺達はそれを回収し資金に出来ればと思っていたよ」

「う、嘘よ・・レベル1でどうやって・・・」

ソロルの呟くような疑問を質問されたと受け取ったミノアが

本気で答えようとする。

「ん?えーと確か・・・」

「ガギーン!ジョパーン!だったか?」

しかしナトスが本気で質問してるわけではないと

言わんばかりにふざけて返した。

そしてミノアもそれを感じると同時に

ナトスの間違いに気づいた

「え?違うよ、バギン!シュパン!だったよ?」

お互いふざけあっているものの、

それぞれ間違いに気づき、

正しい答えを思い出した。

ナトス/ミノア「あっ!ガギーン!シュパン!だった!」

「ちょっと待って!わかんないわかんない!違いも分かんない!」

ソロルには全く伝わらなかったが、

シェンターには少し伝わったようだ。

「うーむ・・今のはわしにも難解じゃのぉ・・差し詰め2アクションによる斬殺と言った所かの?」

ナトスとミノアが「おお~」声を上げながら

パチパチパチと拍手を送り、

シェンターの発言を肯定していると、

考えるのに疲れたソロルが一旦すべてを

事実と受け止め拍手を遮った。

「はいはい、わかりましたよ、もうそこに行って回収しちゃおう、ナトスが何度も言ってた“算段”もこのことだったんでしょ?」

「!!そうだ、そうなんだよ!ソロちゃんわかってくれたか!!」

ソロルの発言にナトスは嬉しくなり、

素直に喜んだが、少し小ばかにした感じが否めず、

ソロルはイラッ!っとした。

「え、ええ、多少イラっとはしたけど、良いわ、許したげる、でも・・・残念ね、おじいちゃんの所に来ても大した収穫はなしか・・」

しかしそれ以上に二人を戻してあげる術が

見つからなかったことを残念がった。

それを見てシェンターが話しを切り出す。

「ん?そうでもないぞ、話が脱線して本来話したかった事が言えておらん、そこに行けば何かしらわかるやもしれん」

「え?そうなの!?」

シェンターは自身の手に負えないと判断し、

とある人物のもとに行かせようと考えていた。

そして二人の力を知った今、

なおのこと行かせる必要を感じていた。

「ソロルや、“コハキ”に隠居しとる“フィニクシー”と言う人物を訪ねるのじゃ、わしからの紹介じゃと言えば話しを聞いてくれよう」

「“フィニクシー”!?ま、まさか“大召喚士フィニクシー”様!?」

ソロルは“フィニクシー”を言う名前を聞き、

驚愕の声を上げた。

「こ、声がデカいのぉ、そのまさかじゃ、“元SSS冒険者”で三年前に引退してから“コハキ”の郊外に住んどる、おぬしからすれば“召喚士”の大先輩じゃから色々知っているはずじゃ」

ソロルはテンションが上がり、

興奮気味にシェンターへ聞き返す。

「ほ、ホントに会えちゃうの!?あの“フィニクシー”様に!?や、ヤバイ!ど、どどどうしよう・・っは!おじいちゃんとフィニクシー様はどういう関係なの!?」

「そんなもんどうでもいいじゃろ!そんな事よりオランアームレッドの換金が目的なら急いだ方がええぞ、今頃“緊急討伐”依頼が発令され取る事じゃ」

ソロルはこれを聞き一旦我に返る。

緊急討伐なら横取りや漁夫の利が起きかねないと焦りだす。

「うそ!ヤバイ!急がなきゃ、持ってる技能次第では三時間もあればここからたどり着いちゃう冒険者が居るかも!」

急いだ方がよさそうな状況にミノアが提案する

「そういう事なら早速行こう、直接ここから飛ぶよ」

その声に反応しナトスがミノアの肩に手を置くと、

シェンターに向かってお辞儀をした。

「また会いに来てもよろしいでしょうか?」

「あぁえぇぞぉー、その時は“今は”聞けなんだ話も出来るとありがたいがのぉ?」

「もちろん、そのつもりでお伺いします、当主殿」

「ふぉっふぉっふぉ、楽しみじゃのぉ」

「じゃーお姉、手を貸して」

触れていないと一緒に飛べない為、

ミノアがソロルに手を貸すように促した。

「え?手を?」

ソロルは意味が解らないながらも、

ミノアの前に手をのばした。

「じゃ、おじいさん行ってきます!」

ミノアはその手をガシっと掴みながら

シェンターに挨拶すると、

「!!な・・」

ソロルの声を一瞬残し、三人とも音もなく

シェンターの目の前から消え去った。

魔法陣も無におそらく転移したであろう状況に

シェンターは絶句する。

「・・・(なんじゃ・・異質すぎる・・・)」

バン!!扉が勢いよく開かれる音と共に、

シェンターの目の前に背を向けたオフィームが立っていた。

「失礼します!ご無事でしょうか旦那様」

オフィームがシェンターに話しかけると、

なだめるようにシェンターも話し出した。

「まぁー落ち着けオフィーム、見ての通り無事じゃ」

「一切の魔力変動もなく忽然と三人もの人間の気配が消えれば、さすがの私も取り乱してしまいます・・失礼しました」

オフィームは戦闘態勢を解き、

服装をただしながら振り返るとお辞儀をした。

「(魔力変動が無かったとなると・・・)・・まぁ良い、あの扉は今すぐ修繕せぃ」

「はっ、直ちに。」

何処からともなくドライバーを手に持ち扉に近付きながら

オフィームが続けた。

「そう言えば旦那様、電話にて南支部のギルドマスター“ベネー”様より、ソロル嬢の安否確認がございました。“安否確認は取れている心配ない”と伝えております。」

「うむ、それで良い」

「失礼しま・・あれ?扉が?・・」

扉をノックしようとしていたのか、

目をパチクリさせながら使用人のアンシーが立っていた。

「扉はこの通り直りましたよ、アンシーどうしました?」

扉の修繕をすでに終えたオフィームが

アンシーと言う名の使用人に要件を聞いた。

「オ、オフィーム様。も、申し上げます。」

居るとは思わなかったオフィームの登場に、

頬を赤く染めながらアンシーが続ける。

「只今、“ユナ”と名乗る冒険者の方が、お孫様の件で旦那様にお話ししたい事があるとお見えになっています。お会いになりますか?何でも緊急である事、直接旦那様にお話ししたい事を付け加えておられます。」

「・・・」

オフィームはシェンターの返答を待った。

「(そっちはそっちで気になる部分じゃて・・・)・・・良い、ここへ通せ」

「お疲れではないですか?」

返答が少し遅かったこともあり、

オフィームはシェンター気遣った。

「ちと気になる事があってのぉ、事と次第によっては必要なくなるが、茶の準備を頼むぞ」

「はっ。ではお呼びしてまいります。」

カチャ。パタン。

「・・・・・・」

気遣いを見せたオフィームだが、

何かの意図を感じ言われるまま“ユナ”を

呼びに退室していった。

シェンターはその後も何やら一人で考え込んでいた。

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