時間停止魔法会議

空 日影

第1話

「これだけか?」


 部屋に入ってきた分厚い紙の束を持った人が部屋を見て言った。


「「「「「「・・・」」」」」」


 部屋には6人の人がいた。


 それぞれ火属性、水属性、風属性、土属性、雷属性、無属性の国の代表だった。






「帰っていいか」

 火属性ヒズルが立ち上がって帰ろうとすると言った。


「まあ待て。まずは座ろう」

 部屋に入ってきた氷属性のアイルが制した。


 小柄な少女の、雷属性ライルは小さな声で「起きて」と言うと


「・・・うん?」

 ゆさゆさ、と机に突っ伏して寝ていた、同じくらいの背丈の少女、水属性ミズリの身体を揺らして起こした。


 土属性ソイルは

「うむ。」

 と言って恰幅のいい体躯を微動だにさせずに腕を組んだままアイルの問いに応えた。


「・・・ういー」

 痩せた体型の風属性ウィルは座ってる椅子を傾けながら、両脚をテーブルにクロスさせた状態で乗せ、両手を頭の後ろに組んでダラダラとしていた。


「・・・」

 全員が座っているU字型の円卓の一番奥、部屋の扉から見て一番離れた位置に座っていた無属性ノイルはみんなの様子を見ていた。


 資料を持って部屋に入ってきたアイルがところどころ虫食いになった会議室の円卓を見て

「木と草・・・岩、光・・・あと闇はどうした?」

 訊いた。「欠席だな」とヒズリが答えた。

「・・・」

「ま、内容が内容だし? 興味ねえのも十分わかるけどな。俺も早く帰りてえし・・・。てか休みゃよかった。いるだけ褒めてくれよ?」

「・・・。・・・・・・まあ・・・、・・・そうだな」

 アイルは資料を机に置くと、椅子に座った。

「これだけなのも・・・ふう・・・。・・・まあ仕方ない。じゃあ、始めよう」


 アイルが会議を始める合図を出すと、全員がなんとなしに、一応、といった感じで、円卓に身体を向けた。









「んで、なんで集められたんだ」

「今から話す」

 会議が始まって早々、ヒズルが急かした。

 アイルが資料を円卓に置くと、それを読み込んだ円卓が資料をその平面上に映した。アイルが資料を、慣れたようにそれぞれに配る形で手の甲全体でスワイプするとそれぞれの目の前に資料が届き、円卓上に映し出された。

 それぞれが円卓の資料に触れると、立体的になった資料が目の前に映し出された。

「あ?」

「「「「「・・・」」」」」

 ヒズルたちはホログラムの資料を持つと中を見出した。

「・・・うん」

「・・・うむ?」

「何だこれ?」

「・・・時間、停止・・・魔法・・・?」

「ダリいな・・・」

「うぅ・・・」

 ミズリが頭から煙を出しそうにして苦しむと

「えぇっと・・・・・・つまり・・・・・・」

 その様子を見たライルが

「困ったことになった・・・ってこと・・・かな?」

 代わりにアイルに質問した。

「まあ・・・・・そうだな」

 頬をかきながら、アイルも困ったように言った。

「各々聞きたいこともあるだろう。見ながら説明していこう」

「あ、じゃあまず、『時間停止魔法』っていうのは?」

 早速ライルが質問した。

「そのままの意味だ。時間を止める魔法だな」

「それが使われた形跡が見つかった、って–––––––––なあ?」

 興味なさそうにウィルが資料を片手で持ちながら言った。

「事前に会議の概要を聞いたときにも思ったが、そのことが俺たちと何の関係があんだ?」

「全部だ。全員に関係がある」

「全員?」

「そうだ」

「・・・」


 ウィルがクルクルと椅子を回転させて会議室を見渡し


「でも集まり悪いぜ?」

 肩をすくませ、悪気なく言った。

「掴みどころがなくて要領を得ないのは分かる。だからこそ全員で話し合いをしようと思ったわけだが・・・」

「どうでもいいってこんなの」

 ため息を吐きながら円卓の足元を蹴った反作用で円卓から椅子をガラガラ、と離すと、溜息混じりにウィルが言った。

「まあ待て。アイル殿のいうとおり一度皆で話し合ってみようじゃないか」

「帰りたい」

 ソイルの発言をよそにヒズルがウィルの意見に同調した。

「そ・・・それで・・・その・・・、つ、使われたら何か・・・まずいの?」

「ああ、まずいだろうな」

「うんうん。たしかにまずいよ。だって時間を止めちゃうんでしょ? そんなの争うってなったら勝てっこないよ」

「・・・・・・ええ・・・、ど・・・どうしよう・・・」

「争うとなったらそうだろうが・・・。だが使われた形跡があるというだけだ。実際にそんな魔法があるかどうかもわからない」

「この写真は何だ?」

 ヒズルが資料に載っている一枚の写真を指して言った。

「それが形跡だ」

 写真には、とある場所の地面に生えている枯れた草木の中にひとつだけ枯れずに凛生している植物が写されていた。

「磁場も調べたがその箇所だけ他の場所のものとはとは違っていたらしい」

「・・・ほえー」

 ヒズルが感嘆した。

「なるほど。つまり、その魔法が本当にあったとして、その場合にはその魔法への対策を共に考え、各国の間で擦り合わせ共有しておこう、と。概要だけでは分かり得なかったが、うむ、ようやくこの会議の全体が掴めた気がするぞ」

 ソイルが言った。

「議題が議題だ。先ほども言ったが、全員が集まらないのも無理はない。あとで書面でも送って、欠席した者たちとの意見も擦り合わせて最終的にはそれを全体の意見とするつもりだ」

「はあ・・・。大変だねえ〜・・・」

 いつの間にかペンを持っていたウィルがペンの先で頭をポリポリと掻いて言った。

「? あ・・・あの・・・」

「? どうしたの? ミズリ」

 ここで、資料を見ながら不思議そうにしているミズリにライルが話しかけた。

「ね・・・ねえ・・・、なんでアイルはそのことを知ってるの? こ、この魔法のこと」

「ああ・・・。最近氷属性の国にこの魔法についてのリークがあった」

「・・・。リーク? リークって・・・どこからだ・・・?」

 ヒズルが言った。

「出所は分からない。ただこういった情報が出てきた以上は話し合わなければ–––––––––」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 7人が全員沈黙すると

「話し合うねえ・・・。対策って・・・そんなもんあんのかね・・・。ライルも言ったがこんなもんに対策もクソもなくねえか・・・? まずはその魔法があるかどうかを調べるのが先で––––––––」

「ねえ、ちょっと! 話し合うって言ってんじゃん! 意見はみんなで出し合わないと––––––––」

「んなもんねえだろ。普通に考えて」

「まあまあ、落ち着きたまえ諸君」

「わ・・・わわ・・・」

「んで、その調査とかは進んでんのか?」

 言い争いを余所にヒズルが訊いた。

「これは緊急の会議だ。現在調査も進めているが先立って皆の意見を聞いておきたい。」

「やっぱ無駄な会議じゃねえか」

「ウィル!」

 我慢ならない様子でライルが言ったところで


「俺がリークした」


 ノイルが言うと

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 全員がノイルの方を見た。


 、ノイルが続けた。

「この魔法は俺の国で生み出された魔法だ」


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 依然として6人は呆気に取られながら一人話すノイルの方を見ていた。

「先に事実だけ言うが–––––––––この魔法があれば俺の国無属性の国以外の国なら容易に侵略できる。モノや人も–––––––––––––––」




 全員6人が一斉に立ち上がりながら



 片腕を半円に薙ぐ形で魔法剣を顕現させその切先をノイルの方に向けた。



 それぞれの魔法が発動した時に生じたそれぞれの色の光で会議室が一瞬彩られると、各々自分の周囲に氷結や帯電などの魔法の影響が出た。

 


「・・・」




「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


 6人が依然自分を睨みつけているのを見ると、ノイルは一度視線を自分の円卓の方に戻し「フー・・・」と息を吐き、再び6つの剣の方を見た。


「無駄だ」


「「「「「「・・・・・・」」」」」」


「俺も時間を止められる。使う気はないが」


「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 6人が身体を動かさずにそれぞれ顔を見合わせた。


「時間を止めている間は誰とも話せないからな。だから来たんだ。それに––––––––––––––」

 一拍置くと、ノイルは自分に向けられた6つの剣の方をだいたいで見た。

「殺そうと思えばいつでも殺せる」

「「「「「「・・・」」」」」」



 その言葉を聞き

 


 アイルが氷の剣を仕舞った。



「分かった。聞くよ」


 アイルが言うと、他の5人も続いて魔法剣を仕舞った。















「俺の国では一度、全員が時間停止魔法を使えるようになったことがあった」

 7人の人がいるとは思えないほどの静寂が部屋に満ちていた。

「次の瞬間には物や人が一瞬で移動した」

 そこに一人の声だけが響いていた。

「“次の瞬間”にあったのは秩序と混沌だけだった。今この『移動』は起こっていない。現在、俺の国無属性の国で時間停止魔法を使っている者は一人もいない。なぜなら国民全員が極度の人間不信に陥ったからだ。誰にいつ自分の運命を変えられたかも分からない。国民は国民を信じられなくなった。そして––––––––––––––––––そのうち人々は自らの自由を「時間を止めない」という形で示すようになった。”反逆“だ」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「俺が代表に選ばれたのも–––––––国の中で誰とも関わっていなかったことで、他のやつが持つことも出来なくなったなけなしの信頼があったからだ」









 6人は終始無言だった。

 

 静寂があると、ノイルは独り言のように言葉を続けた。


「時間停止魔法で唯一得られないものは自然だ。自然というのは自分以外だ。時間停止魔法を長期にわたって使用した者たちは自分の操作を超える事象が続く、自分の時間以外の時間が流れていく、日常という名の『永遠の戦争』に耐えられなくなった。俺の国の国民は大なり小なり全員、他時間恐怖症アザータイムアレルギーともいうべきか、この症状を持っている」


 時間が流れる。


「そんなこと誰にも証明できないが・・・、今はただ全員穏やかにしている」


 ノイルが沈んだ顔で言った。


 ここでノイルが服のポケットに手を入れた。

 そこから何かを取り出した。

 ノイルが手に持っていたそれは、人の手よりも少し大きいくらいの一枚の紙だった。

 ノイルはその紙をつまむようにして持つと言った。

「ここに時間停止魔法の作り方が載ったがある。この一枚で全てだ。大抵の者には何が書かれてあるかを理解することは難しいだろう。だが載っている。時間停止魔法の作り方だ」



 ノイル以外の6人は驚愕すると


「俺はこれを破棄しにきた」


 ノイルが言った。




「・・・破棄・・・?」

 アイルが依然呆気に取られながら疑問を浮かべると。

「時間停止魔法の情報が国から漏れた場合の、時間停止魔法の獲得を目的とする先制攻撃の抑止と戦争の防止が目的だ。なにより俺の国の国民にとっては・・・この国にはもう時間停止魔法はないという事実が必要なんだ。ヒズル」

「! お、おう・・・!」

 突然名前を呼ばれて、話を聞いていたヒズルがびっくりして身体を跳ねさせると応えた。

「燃やせ」

 そう言うと、ノイルは持った紙を少し高い位置に上げレシピの紙を燃やすようヒズルに指示した。

「・・・。・・・いいのか?」

「ああ」


 ヒズルが一度確認を取ると


「わかった。–––––––!」


 フッ! と紙に向かって力を込めた。するとレシピの下辺部が発火し、紙が燃え始めた。

 ノイルが紙から手を離すと、は空中で完全に燃えて消えた。



「・・・・・・・・・フー–––––––––––––––・・・」

 とノイルが長いため息を吐くと、身体を脱力させ、倒れ込むように深く椅子に身体を預けた。



「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・こ・・・・・・これで・・・・終わり・・・?」

 ミズリが周りを見て言うと

「・・・」

 チェアに倒れて脱力したままノイルは答えなかった。

「・・・・・・そ、そうか」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・おー・・・」

 なんとも言えずライルが声を漏らした。

 紙を燃やしたヒズル含め他5人が突然終わった会議にまた呆気に取られた。






「あー・・・・・・・・・・・・じゃあ・・・・・・みんな・・・・・・・・・、これで・・・・・・会議は終わりだ」


 各々が帰り支度を整え、アイルは円卓の上の資料を取って立ち上がると扉のところまで行き、会議室の扉を開けた。


「うむ」

「うーん・・・?」

「ミズリ、こっちこっち」

「・・・」

「・・・なんか呆気なかったなー」

「やっと帰れる・・・」

「・・・」


 それぞれ順番に部屋から出て、最後にアイルが部屋から出ると、会議室の扉を閉めた。












































 全員6人が一斉に立ち上がりながら



 片腕を半円に薙ぐ形で魔法剣を顕現させその切先をノイルの方に向けた。



 それぞれの魔法が発動した時に生じたそれぞれの属性の色の光で会議室が一瞬彩られると、各々自分の周囲に氷結や帯電などの魔法の影響が出た。



「・・・」



 そのときノイルは、会議室の扉の外から、ゴッ、と小さく音がするのを聞くと


「『時よ止まれ』」


 小さな声で魔法を唱えた。



 その次に瞬間に

 

 バンッ!!! と扉が開け放たれると、全身を顔まで武装した銃を持った6人の人間が横に広がるようにして隊列を変えつつ正確にその狙いをノイルへと定めながら部屋へと入ってきた。

 

「・・・」


 ノイルはそれぞれロックを外すことで個人用の机にもなる円卓の、裏面に設置してあるそのロックを外した。


 「ノイル・ヴァレンシュタイン、キサマを時間停止魔法情報漏洩防止法第8条第5項違反、及び国家反逆の罪で逮捕する」

 

 バンッ!!


 円卓は国家間の会議の場で使われるという、その用途を想定されていることもあり防弾仕様だった。

 

 ノイルはそれを思い切り蹴り飛ばした。


「!?」


 それを見て即座に バババババッ! と6人が一斉に発砲した。宙に浮いた防弾仕様のその机に数十発銃弾が命中した。

 ダンッ! とノイルは浮いた机の裏面に体当たりするとそのまま机を盾にしながら全力疾走した。

「!!?」

 ダンッ!! と、入ってきた部隊のその部隊から向かって右3人が机表面の体当たりをまともに受けて後ろの壁と机の間で叩きつけられるような強烈な一撃を喰らった。

「っ!!」

 すぐ横にいた「4人目」がノイルに銃口を向けると、ノイルがその銃口付近の銃身を思い切り手で弾き部隊員の重心を少し崩しながら射線を逸らすと、胸元の辺りを装備ごと思い切り左上から右下に引っ張って背中を向けさせながら接近し背後をとって羽交い締めにした。そのまま銃を持った方の腕の脇の下に腕を通すと、巻き込むようにして

「グッ!」

 銃を上げさせる形で首を絞めた。

 ノイルは、ジリジリ、と銃口を向けているあとの二人から距離を取りながら空いた手で部隊員の装備からナイフを取り出して首を絞めている方の手に逆手で持った。

「・・・!」

「・・・ッ!」

 二人の部隊員は銃を構えたまま、ノイルが下がった分その距離を同じようにジリジリと詰めてきていた。

 羽交締めにした部隊員の盾に全身が隠れるようにしながら距離を取るように下がっているとき

「・・・ッ?」

 ノイルは部隊員の腰辺りに何か装置のようなものが装備されていることに気付いた。


「(こいつか・・・?)」


 ノイルは空いた手でその装備を取って、雑に自分の懐にしまうと

「ウグ・・・ッッ!!!」

 ナイフを持って絞首していた方の腕に思い切り力を込め、部隊員の腕を折った。もう片方の手にナイフを持ち替え、新しくナイフを持ち替えた方の腕でさらに首を絞めると逆に部隊員の腕を上げさせていた方の絞首を解いた。銃を持っていた方の腕がダランと脱力した。ノイルは横を確認すると、ベルトに繋がれて身体から離れないようにしてあるそのアサルトライフルを部隊員の手から奪うと、バン! バン! と部隊員の両脚に一発ずつ撃った。「グア–––––––ッ!!」と部隊員が呻き声を上げると、ノイルはナイフで銃を身体に繋ぐスリングベルトを部隊員の後ろで切り部隊員を前に突き飛ばす形で倒すと、同時に銃を持ったまま右に飛んで自分の机のあった円卓の空いた空間に身を隠した。


「・・・ッ」


 奪った謎の装置を見た。

 装置はシンプルな作りで、スイッチをオン、オフにするだけの簡単な機構が付いているだけのものだった。

「(・・・今の技術では6つしか作れなかった、ってことか・・・)」

 ノイルはとりあえずその装置のスイッチを カチッ! と切り替えた。

「・・・・・・」

 そして倒した部隊員を見るために円卓から身を覗かせた。


 バババババ!!!


「–––––––––––––––チッ!」


 即座に飛んできた銃弾に対し、再び円卓に身を戻した。


「・・・」


 しかし、身を乗り出したそのときに一瞬だけ見えた倒した部隊員の様子は確認できた。



 止まっていた。



「・・・・・・・・・」


 パリッ

 と、銃弾を受けて会議室の中で飛び散った破片を踏む音がした。二人の部隊員が近付いてきていた。


「・・・・フー・・・。–––––––––––ッ!!」


 銃を後ろ向きに、円卓に乗せる形で固定すると


「!?」 

「伏せろ!!」


 二人の部隊員のうち一人が声を上げて

 ババババババババババババババババババババババババババ!!! とノイルがアサルトライフルをでたらめに掃射した。








「・・・・・・」





 全ての弾丸を撃ち尽くすと、部屋に静寂が訪れた。

 ノイルがすぐに銃を分解し始めた。



 バキッ!


 と、音がした。部隊員の二人のうち一人が起き上がってきていた音だった。

「–––––––––––––––」

 銃を分解し終わったノイルが、魔法剣を顕現しているライルの方を見た。

 

 そして分解した銃の部品の多くを片手で持つと


 ピンッ! と音がして

「–––––––––––ッ!」

 次に、目の前に ゴトッ! とグレネードが落下してきた。


 ノイルはライルの顕現させた魔法剣から、部隊員らがいる方にかけて薙ぎ払うようにして部品を投げ


『時よ動き出せ』

『時よ止まれ』

 と時間停止を解除した後すぐまた魔法を唱えた。


 時が動いたその間に、ライルの雷剣から バチッ! と部隊員らの謎の装置へと誘電が起こった。


「ッ!」

 そしてノイルが飛び出すようにして思い切り身体を跳ねさせ円卓の空いたスペースから脱出すると


 ドンッ!!! 

 

 グレネードが爆発した。



「–––––––––––––––!」

 ノイルは脱出の勢いで前転すると即座に振り返った。


 グレネードの爆煙がまだ残っていた。


 爆煙が薄れていき、煙の向こうの景色がだんだんと見えてくると



 壁と机に挟まれ気絶していた左二人と張り倒した一人、残りの二人、合計5人の人が、ピタッ、と景色に張り付いたように止まっていた。



「一人逃したか」


 机と壁に挟まれて、壁の前で倒れていた三人の内一人が朦朧としながらも目を覚まして起き上がってきていた。


「・・・・・・!? –––––––––––––––クッ!」

 起き上がった部隊員がまず止まった5人を見て歯噛みした。

 ノイルは残った一人の装置を見て、それが魔法剣の誘電から逃れたことを察すると

「ッ!」

 持ったナイフを投げて走った。

「っ!」

 部隊員が上半身だけでナイフを横に避けると、走って距離を詰めたノイルがアサルトライフルの銃身を掴みながら

「ッ」

「グッ!」

 体当たりをするように当て身をした。

 吹き飛ばされた部隊員の身体が、その身体に斜めに巻きつけられたスリングベルトとの反動で再び引き戻されると、すでに銃を後ろ向きに半回転させたノイルが持っているアサルトライフルの銃口は部隊員の方を向いていた。



「・・・・・・ッ!」

「・・・・・・」

 


 グギギッ! と顔を覆ったマスクの下からでもわかる強い怒りを露わにしながら武装した男は歯噛みすると、ノイルを睨みつけた。



「・・・ッ! ・・・我々は・・・! 我々は他国を出し抜く! いや! 我々こそが他国を出し抜けるのだ! は千載一遇のチャンスなのだぞ!? キサマわかっているのか!? キサマが持ち出したその情報の重要性を!」

 胸元に銃口を突き付けられながらも部隊員が叫んだ。

「他国に渡すつもりは無い。お前らに渡すつもりも無い」

「・・・ッ! この愚か者が・・・ッ! それさえあれば我々の優位は決して揺るがない! 我々は確固たるの安全の上に居続けられるというのに! 数百年–––––––いや、そのずっと先の未来に渡り我々は約束された安寧を得られるのだ!!」

「・・・・・・・。「我々の」ではない。お前のだ。時間の進み方は人によって違う。お前の言う安寧に他人は含まれていない」

「・・・・・・・・・ッ・・・っグッ!」

「言いたいことはそれだけか。すまないがお前に割く時間などない。」


 ノイルは


やつがいる」


 そう言うと


 バンッ! と部隊員の頭を撃った。

























 部屋に散らばる死体を片付け、傷のついたモノを新しくし、壁を補強して直すと


「・・・ぜえ・・・ぜえ・・・」


 ノイルは膝に手を置いて息を荒げた。


























 













 ノイルはまだ少しだけ乱れた息を整えがら、直した自分の円卓のチェアに座った。


「・・・」


 会議室の、一面に張られた大きな窓の外を見て



 視線を自らに向けられた魔法剣の方に戻した。




「・・・っ」

 一気に疲労が押し寄せてくると、次に睡魔が襲ってきた。



 沈みそうになる意識の中








「・・・・・・『時よ動き出せ』・・・」


 ノイルが唱えた。



































「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・こ・・・・・・これで・・・終わり・・・?」

 ミズリが言うと

「・・・」

 脱力したままノイルは答えなかった。

「・・・・・・そ、そうか」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・・・・」

 紙を燃やしたヒズル含め他5人が突然終わった会議に呆気に取られていた。







































































「ノイル。起きて」

「・・・」


 身体を揺すられてノイルが目を覚ますと

 会議室の景色があった。


 ノイルの視界に、6人が資料をまとめたりして帰る準備をしているのが見えた。


「・・・」


 ノイルが横を見ると、ミズリが見ていた。


「・・・」


「・・・ノ、ノイル」


「・・・。・・・なんだ」


「・・・も、もしかして・・・・・・ま、魔法を使った? か、か、会議中に・・・」


「・・・・・・・。どうしてだ」


「だ、だって・・・・・・・・・、つ、疲れて・・・るように・・・見える・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・。・・・ああ、使った」


「・・・・・・ど、どうして? ・・・な、何をしたの?」


「・・・何も」


 ノイルが静かに言った。


「・・・な、なにも?」


「ああ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・じゃ、じゃあ・・・、ど、どうして・・・・・・そんなに苦しそうなの?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。さあな。理不尽だな」


「・・・・・・」


「・・・。・・・・、・・・・・・・でも・・・またお前と話せたのは良かったと思うよ」


「・・・・・・ノイル? ・・・、・・・・・・ち、力をか、貸そうか?」


「借りれない。–––––––––––––––何かを解決するという時、人はいつも自分の時間の中だ」


 ノイルが部屋の扉の上の壁に掛けてある時計を見た。

 見た後視線を戻すと、チェアから立ち上がった。



「あー・・・・・・・・・・・・」

 アイルが全員の身支度が終わりそうになっているところをみて

「じゃあ・・・・・・みんな・・・・・・・・・、これで・・・・・・会議は終わりだ」



 アイルは円卓の上の資料を取って立ち上がると扉のところまで行き、会議室の扉を開けた。


「うむ」

「うーん・・・?」

「ミズリ、こっちこっち」

「・・・」

「・・・なんか呆気なかったなー」

「やっと帰れる・・・」

「・・・」













 最後にアイルが部屋を出て





 会議室の扉の上に立て掛けてあった、時計を覆っていた氷が溶けると















 再び時間が動き出した。



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