キャラクターについて

 感情について語ったので、次はキャラクターについて語ろう。


 構成よりも先にキャラクターの話を持ってきたのは、こちらのほうがより重要だからだ。プロットがよく出来ていても、実際ストーリーの上で動くキャラクターに魅力、「見続けたいと思う」魔力がなければ意味が無い。


 例えば、名作映画のそのままのストーリーに、50台無職男性、陰謀論に染まったハゲで糖尿病の肥満体のキャラが主人公として出たらどうだろう。

 彼は口癖が「それってデータあるんですか? 貴方の感想ですよね」で、ことあるごとに登場人物たちの気を逆なでする。そんなキャラの出てくる話の続きを見たいと思う人はだろう。


 一方「そうだね」が口癖で、台本の内容を復唱するだけの主人公を出してみたらどうか。彼は自分のことは一切語らない。世界設定と台本の会話だけを語る。彼の情報は全くの不明で、本文でもそれに触れることはない。最後まで読んだ人は「結局なんだったの?」と感想を持つ。

 こんな話をわかってて読みたい人は、あまりいないだろう。


 キャラクターとは、読み手が共感させ、憑依する存在だ。

 ゆえに、キャラクターは魅力的かつ、わかりやすくあるべきだ。


 ここで気をつけてほしいのは、最強設定を盛りに盛ったキャラクターや、これが好きなんだろ? という特定の層に向けた設定で成り立ったキャラクターを作れと言っているわけではない。


 読み手はお母さんが買ってきたセーターのようなダサい服や、兄弟のお下がりといった、擦れた服は嫌いなのだ。どうでもいいものではなく、自分で選んだものでその気になりたいのだ。


 選んだ気にさせるとは共感させるということだ。

 だが、共感といっても、一体全体何に共感させるのだろう?


 それはキャラクターの「本質」だ。

 読み手が共感するのはキャラクターの本質にある。


 その本質とは何か? ここで一旦、小説のネタ探しの基本に立ち返ろう。


 まず、小説のネタ探しで最も使えるのは「あなたがこれまでの人生で、一番苦労した出来事はなんですか?」という疑問だ。


 というのも、この疑問は人生で最も苦労して乗り越えたり、乗り越えられずに折り合いをつけた場面、人生のいわば「山場」のシーンを取り上げる言葉だからだ。


 人生の中で一番苦しんだシーンは、最も感情の強くなった瞬間だ。

 だからこそ、聞き取る価値がある。読む価値がある。共有する価値がある。


 キャラクターの本質とは、そこで何が起きて、どう変わったかだ。

 小説は(これはストーリーが存在する、創作の全てに言える)その人生の山場、長大な人生の切り売りをしているということだ。


 だから高校生作家はこの部分が弱い。まだ人生の山場を迎えていないからだ。この弱みを理解して、補強している高校生作家は、ほんの一握りしかいない。他方、戦争や社会不安などのひどい社会経験を経た作家は、この山場の描写が上手い。

(ロシアや韓国の作家の作品が私は好きだ)


 話がそれ始めてきたので、元に戻そう。

 つまり、主人公とは物語で一番ひどい目に合う人間で、それを乗り越えたり、何らかの妥協・折り合いをつけることが出来た人間だ。


 それが主人公に値するキャラクターで、読み手が感情移入する対象になる。


 そういった主人公は、おおよそ4つのタイプに分類できると考える。

 (確実にもっと多くのタイプあるが、ここではこれに絞る)


・ヒーロー

・罪人

・市民

・敗者


★ヒーロー★

 まず、ヒーローは最強で、肉体的、あるいは知力、精神的に超人的な能力を持っていて、誰もが憧れるような存在だ。彼らは現実ではのほほんとした仮の姿を持ち、事件が起きればその力を発揮する。

 名探偵コナンの江戸川コナン、チェンソーマンがこれに当たる。

 日常の部分で読者は彼らに共感し、彼らも自分と同じ存在だと錯覚する。そして事件の解決で自分ごとのような気がして、スカッとするという具合だ。


★罪人★

 罪人は文字通り犯罪者だ。濡れ衣を被せられたキャラクターはこれに入らない。彼ら罪人は自分の意志で社会に背を向け、自分の正義を求めるキャラクターだ。

 誰しも社会に不十分さ、見せかけのモラルに不誠実さを感じている。そんなクソの役にも立たない、ルールのためのルールを壊したい。そういった仄暗い欲求をみたすのが、こういったキャラクターになる。

 このタイプのキャラクターは好かれる場合は熱狂的に好かれるが、やりすぎて嫌われることもしばしばある。強く肯定できる要素を用意したほうがいい。

 ウォッチメンのロールシャッハ、メイド・イン・アビスのボンドルドがこれに相当する。


★市民★

 市民は一般人、つまり読者であるあなたたちを指している。

 普段の生活があり、細かい事に一喜一憂し、世界の大きな出来事に関与できない、関与する資格がない。そういう人々だ。

 自分のことなので、読み手はこういったキャラクターには、比較的楽に共感できる。自分に自信がなく、常に壁にぶち当たって思い悩んでいる。奇妙な趣味を持っていたり、良いことも悪いことも行える。そういったキャラクターだ。


★敗者★

 敗者は不運や何かしらの事件で、読み手よりもさらにひどい人生を送っている人たちだ。誰かに利用され、使い捨てられても同情されず、褒められず、社会からも弾かれ、捨て置かれている。

 このキャラクターは読者に感情移入してもらいやすいし、惹きつけられる。弱い人間には同情が向くものだし、彼らが正当な報酬を手にすれば、文句なしに称賛できる。そして、敗者は常に負ける可能性があるので、緊迫感を常に持てる。このキャラクターの話を「見ていたい」と思える強さが「敗者」にはある。

 賭博黙示録カイジのカイジがこのキャラクターに当たる。 



 主人公のキャラクター、その方向づけが決まったら、彼らがその人生で、何を求めているのかを設定する。そして、それが失敗するとどうなるのか、それを読み手に知らせておくのだ。彼らを失敗させようとするのが悪役、ヴィランたちだ。


 こうすると解るが、キャラクターの目的=エンディングとなる。

 実際、これでもうほとんど話のスジ、プロットは出来上がってしまう。


 そして「なぜをそれを求めているのか?」終幕の近くまでそれを伏線としてとっておき、最後に動機を説明すると、これがなかなか感動する。ぜひお試しあれ。


 小説ではこういったキャラクターの動機や目的、設定をそのまま説明セリフとして語らせてしまいがちだが、思考や設定はそのまま語らず、行動にしたほうがいい。セリフにするのは最後の手段だ。つまり、「語るな、見せろ」だ。


 語らず、行動に変換して見せる方法を具体的に説明しよう。

 キャラクターの心情や思考を説明するには、「何かを断らせる」のが効果的だ。

 あるいは彼の手持ちの所持品、壁にかかった絵、ホコリをかぶったトロフィー。ローテーブルに置かれた期限切れのチケット。そういったものでも説明はできる。


 さて、まとめに入ろう。


 キャラクターはとても大事だ。

 ストーリーよりも、誰が何をしたかの「部分」を人は記憶する。


 ストーリーはそもそも、誰かが困難を成し遂げた時、大きな獲物を仕留めた時、火を囲んで原始人たちが仲間とその話をして楽しんだことが始まりだ。


 だからこそ、誰が何をしたかの「誰が」の部分、キャラクターが大事なのだ。


 読み手に「コイツの話なんかどうでもいいよ」と、思われるような、そんなキャラクターではダメなのだ。


 キミの小説のキャラクターにその傾向が見えたら、ぜひ修正しよう。


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