Dear Friends. Are you still a father?

えー、みなさん。私は英語がそこまで得意ではないので、はじめの部分以外日本語吹替となっております。ご了承ください。


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「着いたー」


やってきたのはロサンゼルス国際空港。全米3位、世界6位の航空旅客数を誇るこの場所で、俺は友人を探していた。


「Hey! Ren!!」


「あ、いた。 Hi, Jackやあ、ジャック。. I missed you会いたかったよ


Me too!!俺もさ!!


ジャックは俺が前職の頃、たまたま出会った探偵だ。


彼が被告に訴訟提起の書類を渡しに行ったとき、激昂した被告が彼に殴りかかってきたそうで、命からがら道路に逃げ出してきたところを俺が見かけ、一緒に絞め落としたことから交流が始まった。


「急にこっちに来るなんてどうしたんだ?また貿易の仕事か?」


「ああ、実はそっちはやめちゃってね」


「ワッタッフ◯ック!?なんてこった。やっとか!」


「ボスが不正をしてたのがバレたみたいでね。クビになっちゃったんだ」


「あのままじゃお前もカローシ過労死してただろうしな。あと2年、いや1年お前が勤続してたら、俺がその会社潰してたぜ」


「怖いこと言わないでよ…一応今も社長が代わって残ってるんだからさ」


「ハハハ!!ジョークだよ!」


アメリカの探偵業は日本とは違い、それぞれに専門としている分野がある。


医療過誤調査専門の探偵、仮想通貨取引の専門家、家系図調査員、動物の鼻の跡の鑑識調査員、最近では人工知能のプログラムから証拠を見つけ出そうとしたりと、日本の探偵のイメージとはかなり違いがある。


で、肝心のジャックの専門は、便利屋のような小規模な案件。企業の身辺調査、訴訟支援だ。


つまりジョークでもなんでもなく、やろうと思えば後ろめたいことのある会社の1つや2つ、訴訟まで持っていけるということ。


ブラックジョークになるのだろうが、それを知っていると彼の笑顔がまた違った意味に見えてとっても怖いですよ!!


「今、案件は抱えてるの?」


ひとまず車に乗って彼の仕事場に向かうため、空港を出るために移動を始めた。


「ああ、だがウチも結構デカくなってな。1日くらいは休みをねじ込めるようになったんだ」


「おお、そりゃよかった」


「で?急に呼び出して、どこの企業を調べればいいんだ?」


「ああ、いや、調べてほしいのは企業じゃないんだ。いや、会社ではあるんだが、そのこの社長の情報が知りたいんだよ」


「社長のか?そういや、新しい職業を聞いてなかったな。名刺をもらっておきたい」


「あ、ああ。はい」


俺が名刺を渡すと、ジャックはそれをまじまじと見つめた。


「ホロウエコー?聞いたことない会社だな。てっきり◯菱や◯井の商社かと思ってたぜ」


「あー、VTuberはこっちではあんまり浸透してないかな。つまり、アイドルの事務所だよ」


「アイドル事務所?MeTooムーブメントの温床じゃねぇか。大丈夫か?」


「ああ、膿がなかったわけじゃなかったけど、ひとまず絞り出したよ」


「流石だな。それで?えーっと、マネージャーやってんのか!?」


「ああ、うん」


「セクハラには気をつけろよ、日本人は些細なことも気にするからな」


「一応、距離は取ってるつもりなんだよね。それに知ってるだろ、俺が女性を苦手にしてるってこと」


「……ああ、すまん。えっと、病院には、今も?」


「一応月一で。ああ、そんな悲しい顔をしないでくれ。精神的な病は、なかなか良くならないものだよ」


シ◯トクソ!あのサノバビ◯チ共…こっちに来たら徹底的に洗ってやる」


「落ち着け。公共の場だぞ」


「チッ……すまん。で、どこの社長を洗えばいいんだ?」


「名前はマサオミ・ヒバコ」


「富豪御用達のマッチ・ボックスの建築家か」


「うん。やっぱり有名か」


車に乗り込む。詳しい車種はわからないが高級車だった。助手席にはその高級感に似つかない、日本のアニメキャラのキーホルダーが引っ掛けられている。


「『マッチ・ボックス』。ミスターヒバコが数年前にロスに作った建築事務所だ。あるIT企業の社長の邸宅を建ててから、富豪ネットワークで評判が高まり、今では彼の作った家を保有するのが一種のステータスになっている。誠実で勤勉な日本人らしく、嫉妬から来る事実無根の噂以外悪い話を聞かないが……何を調べるんだ?」


「あまり大きな声では言えないんだけど……彼の一人娘がウチの事務所に入所してね。近々、デビューするんだ」


「可愛い子か?」


「俺に聞くなよ。…で、その子が俺の担当なんだけど、父親が忙しいらしく今まで節目に立ち会ってくれたことがほとんどないらしい」


「ジャパニーズの悪癖だな。なんでお前らは家族より仕事を優先するんだ?」


「最近は有給の申請率とかも増えてきてるんだよ……本人は気にしてない素振りを見せてたんだけど、この前先輩のアイドルの子とカラオケに行ったときにやっぱり少し気にしていたみたいで」


「それでわざわざ海をわたって直談判に?」


「まあね」


「…なるほど、事情はわかった。それで、具体的に何を調べればいい?」


「彼の家の住所、家の構造、監視カメラの位置、本人の行動パターンと事務所の予定かな」


「OK, Boss」


外車が超高層ビルの中に飲み込まれていく。



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「……地獄からの使者、スパイ◯ーマッ…!」


ジャックは優秀な探偵なので、予定通り半日で彼の行動ルーティンを割り出してくれた。


それを元に俺が潜入作戦を計画した。


彼は警備の整ったマンションではなく、自分で立てた家に住んでいた。これは自分が日本に帰ったときに売りに出すものだと語っており、本人に日本に戻る意思があることが確認できた。


さて、俺が今何をしているのかというと……リビングの窓に張り付いている。


文字通り。窓に、吸盤を使って。


どうやら彼は家に帰るとまずリビングに戻らず風呂に入り、そこからゆっくりとするのだとインタビュー記事に載っていた。


というわけでドッキリ☆大作戦というわけだ。


「まだかなぁ」


彼の乗った車の下に張り付いてここまでやって来たが、1時間ほど待ち続けている。


風呂の中で寝ているのだろうか。


「おっ、来たな」


家主が風呂から上がり、リビングの明かりが付く。さて、ショータイムだ。




「ぴゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ◎△$♪×¥●&%#○※□◇△○▼※△☆▲※◎★●○×△☆♯♭●□▲★※▲☆=¥!>♂×&◎♯£?!」


あー……大丈夫かこれ?



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「だ、誰だお前は!」


ここはアメリカだが、気が動転しすぎて日本語で叫んでるな。


「落ちつていただいていいですか?」


「だ、誰なんだ!?ウチに金目のものはないぞ」


「ああいえ、ほしいのはお金じゃないです」


「……に、日本語!?」


「今更ですか?」


腰を抜かした火箱ひばこ匡臣まさおみは、ずれた眼鏡を直しながら俺を捉えた。


「夜分遅くにすみません。私、こういうものです」


そう言って名刺を差し出す。


「株式会社、ホロウエコー…?マネージャー…?」


「あなたの娘さん。火箱陽夢さんが、我が社のVTuberオーディションを受け、見事合格したことは御存知ですか?」


「あ、ああ……たしか陽海が、妻がそのようなことを連絡してくれたような…」


「私はそのマネージャーをしていいます。灯織漣といいます。本日は一つ、お願いがあってきました」


「……お願い?」


半信半疑ながらも、お父様は俺の話を聞いてくれる姿勢になった。


「ええ。数週間後、火箱さんともう一人の新人の子が初配信を行います。ぜひ、それを見ていただきたいんです」


「……いや、しかし、仕事が忙しくて」


「その言い訳、今まで奥様や娘さんに何度使いましたか?」


「うっ……だが、次の依頼はかの実業家が20年ぶりに改築する別荘の重要な打ち合わせで…」


「……私は、マネージャーですので娘さんと話をする機会もあるんですよ。その時、彼女はあなたのことを得意になって紹介することがありました」


RAINを交換したその日に何件かお父様が手掛けた美術館やらなんやらのURLが送られてきたのだ。


「正直、羨ましいなと。私の父は、私が生まれる前にいなくなってしまったそうなので。そういったことを自慢することもなかったですから」


「……そ、そうなのか」


「だからこそ、許せないんですよねー。あなたみたいな人」


俺は距離を詰めて彼を壁際に追い込む。


「親っていうのはさ、代わりがいないわけじゃん?親じゃないと子供に与えられないものとか、たくさん、あるわけじゃん?」


「え、あの」


「もちろん親から子への一方通行なんかじゃなくて、子から親に与えられるものもあると思うんですよ。しかもあなたの場合、ここ数年もう日本に帰ってきてないですよね?娘さんの成長は写真とかで見れるかもしれませんが、実際に声を聞いたり顔を合わせることでしか気付けない成長もあると思いますよ本当にええ。どうでしょう連絡を取るだけとは言わず思い切って日本に一度帰ってみるのは」


「……」


「あと、これが今回はるばるやってきた一番の理由なんですが、娘さんが寂しがっています」


「はい?」


「娘さんが、寂しがっています」


「…は、はあ…?」


「何を間抜けな声を出しているんですか。子供を悲しませるとかそれでも父親ですか?」


「す、すまん」


「というわけで、ぜひ連絡を取ってあげてください。それだけでもきっと喜ぶはずです」


とりあえず言いたいことは言い終わったので俺はいそいそと玄関に向かう。


帰りは玄関から出ないとね。


「あ、あの」


玄関から外に出る際、お父様が声をかけてきた。


「娘は、なんて名前で配信を?」


ああ、よかった。これなら大丈夫そうだ。


「これはまだ社外秘なので内密に。『火宮夢』、これが彼女の使う名前です」


「……ありがとう」


「いえ。私こそこんな夜分に、ご迷惑をおかけしました」


「あはは……次は、玄関から来てください」


邸宅から出て、俺はジャックに連絡を取る。


「ジャック?終わったから迎えに来て欲しい」


『おう、わかったぜ』


待っている間、フィスコードなどの通知を確認する。


志希『灯織さん。明日、話し合いの場が設けられることになりました。本当に本当にありがとうございます』


連絡用のフィスコにそんなメッセージが送られてきて、思わず頬が緩んだ。


漣『あなたの伝えたいこと、全部ぶつけてきてください。水無瀬さんならできます』


「…2泊3日の予定だったけど、1泊2日で帰れるな。飛行機の便予約してなくてよかった」


これで、水無瀬志希、火箱陽夢両名のトラブルは解決の方向に向かっていくだろう。


あとはデビューに向けて、俺は全力でサポートするだけだ。

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